西東京に残る羽村山口軽便鉄道の廃線跡巡りの後編をお伝えします。前編は横田トンネルを潜ったところで終わりました。それでは、この先に続くトンネル群をレポします。 横田トンネルを進みます。直線なので出口の明かりが小さく見え、自転車道として整備されているために照明が等間隔に灯っており、暗くて狭い廃トンネルとは全く異なります。いわば自転車道として「現役」なのです。

コンクリートの壁面をよく観察してみると細い線がいくつもある。これは木製セントルの型枠のあと。
コンクリートの壁面をよく観察してみると細い線がいくつもある。これは木製セントルの型枠のあと。

所々補修された箇所はありますが、トンネル内は素掘りではなくコンクリートの壁面が施され、壁面には細い線がいくつも刻まれています。

トンネルを掘った素掘り状態のところに半円状の骨組みと木板で型枠を作って(木製セントルという)、掘った部分と型枠の間にコンクリートを流し込みます。型枠を外すとコンクリートの壁面(覆工コンクリート)が完成するとともに、木板の線が刻まれるのです。こうして内部の構造を見ながら歩けるのも、等間隔にある照明のおかげです。

横田トンネルの出口。その先は赤堀トンネルが口を開けている。谷戸地形の谷間部分にあたる。
横田トンネルの出口。その先は赤堀トンネルが口を開けている。谷戸地形の谷間部分にあたる。

ときおり通過する自転車に道を譲り、横田トンネルを出ます。すると、すぐさきに赤堀トンネルの口が開いています。周囲は丘陵の斜面が入り組んでいて、そこに家が数軒集まっています。振り返ると影になった横田トンネルと丘陵の斜面。前方には陽が当たる赤堀トンネル。丘陵地帯のため日陰と日向の明暗差が出て、撮影するにはちょっと面倒だが、なんとなしに地形が起伏あって入り組んでいる様子が分かってきます。

振り返って横田トンネルの出口。こちら側は鬱蒼(うっそう)とした山間部という雰囲気だ。ときおり散策している方を見かけた。
振り返って横田トンネルの出口。こちら側は鬱蒼(うっそう)とした山間部という雰囲気だ。ときおり散策している方を見かけた。
トンネル坑門(=ポータル)の両サイドは「翼壁(=ウイング)」と呼ばれる。横田トンネルの翼壁部分。端部はえぐれているのか土砂が欠けたのか、仕上がりがちょっと気になる。
トンネル坑門(=ポータル)の両サイドは「翼壁(=ウイング)」と呼ばれる。横田トンネルの翼壁部分。端部はえぐれているのか土砂が欠けたのか、仕上がりがちょっと気になる。
赤堀トンネルへ至るまでに生活道路が横切る。踏切ということにして雰囲気を味わいながら先へ進もう。
赤堀トンネルへ至るまでに生活道路が横切る。踏切ということにして雰囲気を味わいながら先へ進もう。
見落としがちだが地面には水道局の境界標がある。この地下に導水管があることを認識させてくれる。
見落としがちだが地面には水道局の境界標がある。この地下に導水管があることを認識させてくれる。
赤堀トンネルの入り口。かたわらが普通に住宅で、そのミスマッチ感が違和感あって好きだ。
赤堀トンネルの入り口。かたわらが普通に住宅で、そのミスマッチ感が違和感あって好きだ。

住宅の傍の自転車道を進んで赤堀トンネルへ潜ります。いかにも鉄道の跡といった雰囲気がぷんぷん漂ってきて、気分も上がってきます。赤堀トンネルのコンクリート壁面は、一部分が苔むしていました。やはり丘陵の地下水が滴ってくるのでしょう。出口部分は緩やかな右カーブとなって、いい感じの捻り具合です。何がいい感じなのか、それはやっぱり鉄道線路を連想させる緩いカーブだからでしょうか。軽便鉄道分の程よいトンネル幅も、廃線跡の臨場感を醸し出してくれます。

出口部分がカーブする赤堀トンネルの内部。コンクリートの壁面は以後のトンネルも同じである。先ほどから気になるのはケーブル類。おそらくトンネル内の照明などの電源ケーブルだろう。
出口部分がカーブする赤堀トンネルの内部。コンクリートの壁面は以後のトンネルも同じである。先ほどから気になるのはケーブル類。おそらくトンネル内の照明などの電源ケーブルだろう。

赤堀トンネルを出ました。あたりは少し堀割となった住宅地です。トンネル出口は一本の桜木が聳(そび)え、他に木々は少なく、のっぺらとした斜面に一本の桜とトンネル。なんとも印象的な姿です。春ともなれば桜は色づき、フォトジェニックな光景となること間違いありません。

赤堀トンネルを出た。左へカーブする姿は鉄道の跡の雰囲気が濃厚に漂う。この辺りの谷戸も住宅地となっている。
赤堀トンネルを出た。左へカーブする姿は鉄道の跡の雰囲気が濃厚に漂う。この辺りの谷戸も住宅地となっている。

自転車道は緩やかな左カーブをしており、軽便鉄道がなんらかの形で現役で活躍していたとしたら、赤堀トンネルから出た列車の先頭が左カーブで少し傾き、背後には一本桜が咲き、名撮影地になっていたことでしょう。“がたんがたーん“とレールの繋ぎ目を通過する音が聞こえてきそうです。

振り返って赤堀トンネルの出口。坑門の上にどんと構える一本桜は良きアクセント。ここが現役だったら、さぞかし良い撮影ポイントとなったはず。
振り返って赤堀トンネルの出口。坑門の上にどんと構える一本桜は良きアクセント。ここが現役だったら、さぞかし良い撮影ポイントとなったはず。
御岳トンネル側をみる。この緩いカーブがいい。自転車が軽便鉄道の車両に見えてきそう……。
御岳トンネル側をみる。この緩いカーブがいい。自転車が軽便鉄道の車両に見えてきそう……。
ああ、機関車がやってきた。自転車が列車に見えてくる。暑いと幻影が……。
ああ、機関車がやってきた。自転車が列車に見えてくる。暑いと幻影が……。

カーブの先はすぐ御岳トンネルです。このトンネルも内部構造はコンクリートで覆われており、直線のために出口の明かりが望めます。今までは小規模ながら住宅地が点在するエリアを突き進んできましたが、御岳トンネルの直上は丘陵というよりも山であり、鬱蒼とした森が広がっています。

御岳トンネルの入り口。住宅地となる前はなだらかな丘陵だったと思われる。家々に囲まれたトンネルも、なかなか面白い構図だ。
御岳トンネルの入り口。住宅地となる前はなだらかな丘陵だったと思われる。家々に囲まれたトンネルも、なかなか面白い構図だ。

徐々にトンネル出口が近づき、その先は住宅ではなく深い緑が見えてきました。御岳トンネルを出るとガラッと雰囲気が変わって、森が主役となります。トンネルを出て一気に森の中に分け入ることとなり、急な場面転換にちょっと目が慣れるのに時間がかかりました。

周囲をキョロキョロ。両サイドはフェンスで覆われているので、一般人が立ち入ってはいけない森なのでしょう。背後は住宅地で口を開けていた同じトンネルとは思えないほど、薄暗い森で黒い口を開けている。それは「あの長編アニメ」の既視感。あ、あちら側へ迷い込んだか。そんな気持ちになれます。

御岳トンネルの出口。いままでの二箇所とは異なり、まばゆい緑が出迎えてくれる。はたしてあの先には何があるのだろう。
御岳トンネルの出口。いままでの二箇所とは異なり、まばゆい緑が出迎えてくれる。はたしてあの先には何があるのだろう。
御岳トンネルを振り返る。おお、森の中だ。あまりの雰囲気の違いに異界へ踏み入れたような一抹の不安を覚える。おばあさんが散歩してきたので、変わらない世界にいるのだとホッとするのであった(大げさ)。
御岳トンネルを振り返る。おお、森の中だ。あまりの雰囲気の違いに異界へ踏み入れたような一抹の不安を覚える。おばあさんが散歩してきたので、変わらない世界にいるのだとホッとするのであった(大げさ)。
異界と思われるほどガラッと景色が変わった。両サイドがフェンスなのでちょっとものものしい。
異界と思われるほどガラッと景色が変わった。両サイドがフェンスなのでちょっとものものしい。
夜になるとホタルが舞うのか。これからの季節いいかもしれない。
夜になるとホタルが舞うのか。これからの季節いいかもしれない。
森を出ると左手に池があり、軽便鉄道跡はこの先で左へグッとカーブする。ここはそこそこの戸数がある住宅地だ。
森を出ると左手に池があり、軽便鉄道跡はこの先で左へグッとカーブする。ここはそこそこの戸数がある住宅地だ。

フェンスの続く森の中、線路があったらここもフォトジェニックだなぁと思いつつ、夕刻に一人で歩いたり自転車に乗ったりするのは少々心細いですね。右へカーブし、やがて左手が開けてきました。かたわらには「ホタルが生息しています」の看板。水が清いのでしょうか。谷戸地形にホタル。

なんかいいなぁ。

左手は池があって、小規模な住宅地が形成されています。猫はのんびりと歩くし、なんだかホッとしました(先ほどまで異空間っぽい雰囲気がしたもので……)。

4本目の赤坂トンネル。このトンネルを潜った先は……。
4本目の赤坂トンネル。このトンネルを潜った先は……。

自転車道は池をなぞるように左へ曲がり、交差点の先に4本目の赤坂トンネルが待ち構えています。蒸し暑い天気は相変わらず。日差しを避けるように、またもや鬱蒼とした丘陵の斜面にポッカリと口を開けて人と自転車を待つ、赤坂トンネルへ吸い込まれます。先ほどまではときどき自転車の人とすれ違いましたが、赤坂トンネルからは誰も出てきません。これが4本目のトンネルか。それを潜った先に……。

トンネルへ至る道の脇には低いコンクリートブロックが点々と。これは現役時代からのものなのか?
トンネルへ至る道の脇には低いコンクリートブロックが点々と。これは現役時代からのものなのか?

赤坂トンネルは今までと同じ構造です。が、出口の明かりが気持ち暗いような。

気のせいですかね。いや、気のせいではありません。外界が暗いのです。ああ、やっぱりあちら側か。悟ってしまったからもう帰れないのか。またもやそんな気持ちになれます(笑)

赤坂トンネルへ潜って振り返る。こういうとき、よく振り返ってはいけないという怖い話を思い出すんですよ。とくにトンネルの中とか。あ、振り返ってしまった。あんなに晴れていたのに……陰ってきてしまった。
赤坂トンネルへ潜って振り返る。こういうとき、よく振り返ってはいけないという怖い話を思い出すんですよ。とくにトンネルの中とか。あ、振り返ってしまった。あんなに晴れていたのに……陰ってきてしまった。
照明が心なしか弱く点灯している。トンネルの出口。その先はさっきと同じ森の中だけど、道が緑と同化しているような……。
照明が心なしか弱く点灯している。トンネルの出口。その先はさっきと同じ森の中だけど、道が緑と同化しているような……。
緑の世界だ。森へ吸い込まれていくような……。あれ、その先に道がない。
緑の世界だ。森へ吸い込まれていくような……。あれ、その先に道がない。
振り返る。赤坂トンネルの出口は、今までのトンネルの中で一番重々しい雰囲気だ。ああ、やっぱりここは違うところへ来てしまったのか。
振り返る。赤坂トンネルの出口は、今までのトンネルの中で一番重々しい雰囲気だ。ああ、やっぱりここは違うところへ来てしまったのか。
ほら、自転車道もぷつっと切れている。今まで導いてきてくれたのにこんな山中で放り出された気分。迷い込んでしまったのか。
ほら、自転車道もぷつっと切れている。今まで導いてきてくれたのにこんな山中で放り出された気分。迷い込んでしまったのか。

赤坂トンネルの先は、またもや森の中でした。道は右へカーブし、辺りは人家すらありません。森の先に自転車道は続いているのか? 結果は、ぷつっと切れていました。突然の幕引き。てっきり村山貯水池(多摩湖)まで続いているのかと思いきや終点。なんだそりゃ。

呆気に取られ、ガサガサと森から音がしたと振り向くと、老夫婦が現れ、「この左右の登山道を歩けば多摩湖へ行けるよ」と教えてくれました。タイミングよく現れる老夫婦(笑)。でも、自転車では行けなさそうですね。

羽村山口軽便鉄道跡の散策はここでおしまい。ですが、線路はこの先の村山貯水池まで続いていました。

前方には立入禁止ではない小道が。行きます。

私は蚊に好かれるタイプなので、虫除けをしていてもこの時点でかなり刺されています。

でも進まなければならない。幸いにも道がある。蚊が! 蚊、蚊、クモの巣!
でも進まなければならない。幸いにも道がある。蚊が! 蚊、蚊、クモの巣!

クモの巣を華麗に避け、低木を避け、ぬかるんだ道に気をつけて進むこと数分、突如前方にバリケードで口を塞がれたトンネルが現れました。5号トンネル。自転車道へ転用されず、70年以上もの間、放置されてきた遺構です。

見える。ぬかるんだ先に見えるよ。行き止まりではないのだ。あれは……。
見える。ぬかるんだ先に見えるよ。行き止まりではないのだ。あれは……。

森と同化するコンクリートのポータルは若干黒ずみ、口を開けている廃トンネル。昭和初期に造られた姿のまま、静かに、ただ静かに佇んでいます。入り口は物々しいバリケードですが、それを差し引いても、自然に飲まれつつある遺構の姿にぐっときました。

東京にもまだこんなトンネルがあるのか。

5号トンネルである。活用されずに遺棄されたまま静かに佇んでいた。
5号トンネルである。活用されずに遺棄されたまま静かに佇んでいた。

絶対に立ち入れないぞというほど頑丈なバリケードは、5号トンネルの先が貯水池だからです。この先は東京都水道局の管轄であり、立入禁止の場所。ここが軽便鉄道散策の終点です。

この先は村山貯水池の敷地。ゆえに頑丈にバリケードされているが、都内に僅かに残された鉄道トンネルの遺構のひとつだ。蚊に刺されるまま、しばしその姿に見とれる。
この先は村山貯水池の敷地。ゆえに頑丈にバリケードされているが、都内に僅かに残された鉄道トンネルの遺構のひとつだ。蚊に刺されるまま、しばしその姿に見とれる。
5号トンネル上部。横にせり出す笠石部分をみる。コンクリートはより一層黒ずんでいて遺跡の様相であった。
5号トンネル上部。横にせり出す笠石部分をみる。コンクリートはより一層黒ずんでいて遺跡の様相であった。

帰り道は、再び赤坂トンネル、御岳トンネル、赤堀トンネル、横田トンネルを潜って戻ります。赤坂トンネルを出たとき、さんさんと降り注いだ太陽が隠れ、厚い雲に覆われていました。夕立がきそう。遠雷が鳴ったら厄介です。これからの季節は雷にもお気をつけください。ではまた!

取材・文・撮影=吉永陽一

吉永陽一
写真家・フォトグラファー
鉄道の空撮「空鉄(そらてつ)」を日々発表しているが、実は学生時代から廃墟や廃線跡などの「廃もの」を愛し、廃墟が最大級の人生の癒やしである。廃鉱の大判写真を寝床の傍らに飾り、廃墟で寝起きする疑似体験を20数年間行なっている。部屋に荷物が多すぎ、だんだんと部屋が廃墟になりつつあり、居心地が良い。