高円寺には18年間住んだ。引っ越してからも、よく行く。 たとえ目的や約束がなくても散歩しているだけでいつも楽しい。 一方、新しい店がどんどんできて街の風景は変わりつつある。 今回は、最近できた一見高円寺っぽくない店を中心に巡って、あらためて「高円寺らしさ」について考えてみた。 取材・文=石原たきび 撮影=逢坂 聡

新たなシーンを覗かせる、高円寺の“昼の顔”

まずは、昼間の街を歩いてみる。
「高円寺はベビーカーで入れないカフェが多い」
と嘆くのは『TAW.』の共同オーナー・三宅春菜さん。自身もママということもあり、店を出すにあたっては間口を広く取り、段差もなくした。店に集う最近のママ友たちは、11月に控えた保育園の申し込みに関する情報交換に余念がない。高円寺に新たなママ友シーンが出現していた。

いかにもなアジア系飲食店は昔から多いが、『バインミーバイミー』は爽やか系。店主の藤田英士さんは
「ここは、何でも受け入れてくれる街。最近は若い人たちがさらに増えた気がします。高円寺芸人が飲食店を紹介してくれるのもうれしい」。
そうか、高円寺芸人のメディア露出も新しい潮流なのだ。

あづま通りの『せんだい屋』の自販機には納豆茶漬け、納豆ドーナツなどの変わり種も。
あづま通りの『せんだい屋』の自販機には納豆茶漬け、納豆ドーナツなどの変わり種も。
入利弁天様にお参りして再び散歩へGO!
入利弁天様にお参りして再び散歩へGO!

高円寺の新しい風景は、子供たちが集う駄菓子屋

驚いたのは、あづま通りの先、早稲田通り沿いの『駄菓子乃瀧ちゃん』のにぎわい。近くにいくつかある小学校から子供たちが集まってくる。店長の野田若菜さんにとって高円寺は古着に目覚めた青春の街。毎日のように店に通う子供たちも、やがてそう振り返ることになるはずだ。
すぐそばの『酒処 マキノウチ』の女将・杉原真希子さんいわく、
「若いママさんが入って来たから話を聞いたら、瀧ちゃんにいる子供を迎えに行ったんだけど、なかなか帰りたがらないから飲みながら待とうかなって」。
子供は、お母さんがいないことに気づいたとき、まさか近所で飲んでいるとは思わないだろう。

子供たちの社交場『駄菓子乃瀧ちゃん』。10円の駄菓子を食べながらゲームに興じる。
子供たちの社交場『駄菓子乃瀧ちゃん』。10円の駄菓子を食べながらゲームに興じる。
高円寺にはにぎやかな商店街がたくさんあるが、のんびりとしたあづま通りの雰囲気には癒やされる。
高円寺にはにぎやかな商店街がたくさんあるが、のんびりとしたあづま通りの雰囲気には癒やされる。

赤いネオン管が夜の中通りの風景を変えた

日も暮れてきた。夜の高円寺は、酔っ払いや路上ミュージシャンたちが主役になる。

麺シーンで注目を集めているのは、『ラーメン健太』の店を借りて19時以降に営業を開始する『つーとん寺田屋』。看板メニューは大阪名物のかすうどんだ。
「東京は基本的に好かんけど、高円寺は大阪に似てるからね。商店街が多いし居心地がいい街」
と、店主の寺田功さん。

2020年の12月末、中通りで数店舗が全焼する火事が起きた。そのうちの1店舗が『アフターアワーズ2005』。復活を求める有志による署名は1000筆を超え、このたび同じ場所で営業再開を果たした。以前はなかった赤いネオン管は、夜の中通りの新しい風景だ。

2022年7月に営業再開した『アフターアワーズ2005』。
2022年7月に営業再開した『アフターアワーズ2005』。
知る人ぞ知る高円寺駅ガード下の通称『渡り鳥文庫』。いわゆる本の無人リサイクルだが、看板も撤去されて詳細は謎のまま。
知る人ぞ知る高円寺駅ガード下の通称『渡り鳥文庫』。いわゆる本の無人リサイクルだが、看板も撤去されて詳細は謎のまま。

ラストは芸人・有田久徳さんが最近開いたばかりの『小粋』。
「高円寺の思い出? 7年前に閉店しましたが、早朝にオープンする『やよひ』という居酒屋は強烈でしたね。コップなみなみのテキーラが500円という」
しかし、これこそが高円寺。そんな事言いながら、『小粋』の焼酎割りだってなかなか脳天に来るじゃないか。

結論から言うと、「高円寺らしさ」は健在だった。カオスとはさまざまな要素が入り乱れる状態。どの店にも性別、年代、嗜好(しこう)、国籍が異なる人間同士が交差するシーンがあり、とにかく皆さん楽しそうなのだ。街の風景が変わっても、「高円寺らしさ」が変わることはない。そう思わせてくれた1日だった。

【昼の憩いの場と、子供たちのユートピア】

『TAW.』

オータニサーン!を超える三刀流営業

2022年2月にオープンし、明るい店内ではカフェ、ネイル、海外子供服販売の三刀流営業。周辺に暮らす子連れのママや、犬の散歩帰りに立ち寄る常連さんが多い。ドリンクの一番人気は金木犀ラテ560円で、手作りのケーキやスコーンによく合う。高円寺の新たな憩いの場だ。

●9:30〜17:30(土・日・祝は18:00まで)、不定休。☎03-5913-9456

『ベーカリー兎座LEPUS』

うーん、どこから食べるかが問題だ……

かわいくておいしいうさぎパン。右上から時計回りに、バンズ170円、欧風焼き菓子300円、和風フォカッチャ220円、ラスク170円。
かわいくておいしいうさぎパン。右上から時計回りに、バンズ170円、欧風焼き菓子300円、和風フォカッチャ220円、ラスク170円。

ウサギとアニメを愛してやまない若きオーナーシェフ・東山伊織さんが2017年に出店。イベント時にはアニメ作品をモチーフにしたパンも並び、ウサギ好きに加えアニメファンが集う。

●10:00〜18:00、月・火休。☎非掲載。問い合わせはメール(bakery_lepus@yahoo.co.jp)まで。

『Gallery Café 3』

常連だったカフェを引き継いで営業開始

南口の路地にあり、展示は1週間ごとに入れ替わる。この日は展示中の鋳金作家の石川将士さんが在廊。店主の東村記人さんとアート談義に花を咲かせていた。イチ推しはオリジナルブレンドのコーヒー500円と、展示のコンセプトに合わせて店主の奥さんが作る焼き菓子。

●15:00〜20:00、月休(不定休あり)。☎03-3318-3688

『バインミーバイミー』

迫力のボリュームながら味に抜かりなし

ベトナムハムとローストポークバインミー770円、ベトナム揚げ春巻き(2個・280円)。
ベトナムハムとローストポークバインミー770円、ベトナム揚げ春巻き(2個・280円)。

2019年にベトナムで食べたバインミーの味が忘れられなかった店主の藤田さんが2021年12月に専門店をオープンし、究極のバインミーをストイックに追求する。散歩のお供にぴったり。店内飲食も可。

●11:00〜15:00・17:30〜21:00、月・火休。☎03-6686-7724

『むし社』

カブトムシ、クワガタが100種類以上

1971年に創業した昆虫雑誌の出版社で、3年前に中野から移転。カブトムシとクワガタを中心とした昆虫ショップも経営し、関連書籍も販売する。社長の飯島和彦さんが持っているのは世界最大のカブトムシ・ヘラクレスオオカブト。値段は4万1800円で店では一番高い。同社が発行する『月刊むし』は通巻621号(2022年10月現在)。

●11:00〜19:00、無休。☎03-5356-6416

『駄菓子乃瀧ちゃん 早稲田通り店』

子供たちのハートをがっちりキャッチ

2020年にオープンするやいなや、さっそく近隣の子供たちの溜まり場に。店長の野田さんは、80円のブタメンに10円のうまい棒納豆味を入れると驚くほどおいしいことを発見。子供たちに勧めたところ、それまで残していたブタメンのスープも全部飲むようになったという。90円のごちそうだ。

●14:00〜22:00、無休。☎03-6383-0997

【夜の高円寺は酔っ払い天国、客同士の会話も大いに弾む】

『つーとん寺田屋』

お酒が進みまくる絶品かすうどん

大阪名物のかすうどん(卵トッピング)900円、高円寺サワー400円。
大阪名物のかすうどん(卵トッピング)900円、高円寺サワー400円。

本場、博多仕込みの豚骨ラーメンでブレイク中の『ラーメン健太』。この場所で2022年7月から間借り営業を始めたのは、元格闘家の寺田さんだ。カウンターの奥で飲んでいるのがオーナーの健太さん。

●19:00〜翌2:00(串焼きは〜24:00)、不定休。☎090-9881-0755

『酒処 マキノウチ』

酒好きの女将が始めた、キンミヤ推しの酒場

あづま通りの突き当たりに名店アリ。そんな風情の酒処は2020年にオープン。浴衣で客を出迎える女将はキンミヤ焼酎の蔵元、宮㟢本店推し。宮の雪純米600円。レモンドレッシングが隠し味のポテトサラダ380円、女将が新潟で採ってきたフキ入りのふきみそとクリームチーズ350円はどれも酒に合う。

●16:00〜23:00(土・日・祝は14:00〜21:00)、火・水休。☎なし

『UPTOWN RECORDS』

上海発、伝説の店が高円寺に電撃移転

2019年に上海から高円寺に移転。アメリカ人のSaccoさんと中国人のSophiaさんが共同で営む、高円寺にありそうでなかったインターナショナルな店。品揃えは、日本、中国、アメリカなどで仕入れたロック、ポストパンク、エクスペリメントが中心。ハワイのクラフトビール、BIG WAVE  700円なども店内で飲める。

●15:00〜24:00、月・土休。☎080-6375-7135

『アフターアワーズ2005』

スタンディングで電気ブランと燻製

火事で休業していたが、2022年7月に営業再開。冷え冷えの電気ブランはショットで400円。オーナーの台(うてな)夕起子さんが作る燻製が大人気で、さばのくんせいポテトサラダ、ししゃものくんせい(フードはすべて300円)はお酒が進む逸品。中通りの喧騒を眺めながら過ごす時間が最高だ。

●15:00〜翌2:00、無休。☎03-3330-1556

『小粋』

店主が一発ギャグも披露してくれる

持ちネタを披露して失笑を買っているのは芸人で店主の有田さん。『タモリ倶楽部』内「空耳アワー」では尻男優としても有名。南口で『BJ Bar』という駄菓子バーを経営しているが、2022年8月にこの2号店をオープン。焼酎が濃い梅割り500円は1人3杯まで。煮込み串3本450円、タン刺し300円。

●15:00〜23:00、火休。☎080-4207-2777

『散歩の達人』2022年11月号より