立川で30年以上の歴史を持つラーメン店『立川や』。地元の親子3世代から愛されるこの店は、割烹料理のお吸い物が原点となった滋味深いかつおラーメンと、九州の屋台の技を取り入れた本格派のとんこつラーメンが2本柱。さらに、10時間以上煮込んだ角煮をアツアツのご飯にのせた角煮丼も根強い人気。立川に訪れたら、まずは立ち寄っておきたい一軒だ。

街の歴史とともに歩むラーメン店

立川駅の南口から出て、わずか徒歩1分でアクセスできる『立川や』。立川出身の店主が営むラーメン店で、創業したのは30年以上も前のこと。立川にまだモノレールがなかった頃からこの街を見守り続けている。

深夜まで営業しているため、駅を利用する人たちにとっては救世主的な存在にもなっているのだろう。

親しみやすいスタッフが出迎えてくれる店内は、2013年ごろに改装されてモダンな雰囲気に。店内の奥に向かってカーブを描く流曲線のカウンターが珍しい。あえて客席を増やさず厨房を広々としたのは「良いものを提供するために、厨房もきちんとした仕事をできる場所にしたい」という店主の想いが詰まっている。

舌に刻まれていた割烹料理を原点に

店内にかけられている白黒写真からも、店の歴史が垣間見える。
店内にかけられている白黒写真からも、店の歴史が垣間見える。

店の歴史を店主の神山和隆さんに伺ってみた。『立川や』は、1992(平成4)年に「東京らーめん」という名で始まった。神山さんは「当時の立川は中華屋さんはあるものの、ラーメン専門店と呼ばれる店はほとんどなかったように記憶しています」と話す。神山さんが、立川にラーメン文化を広めた立役者となったのだ。

その5年後、改装を機に現在の『立川や』としてリニューアルオープン。どちらの店名にも地名を入れたのは「自分自身とお店を育てていただいた東京、そして立川に恩返しをしたい」という気持ちの表れなのだとか。

店内には「あなたはどっち派?」というイラストも。非常に迷うところだ。
店内には「あなたはどっち派?」というイラストも。非常に迷うところだ。

『立川や』のラーメンは創業当時から定番メニューのかつおラーメンと、こってり派にうれしいとんこつラーメンの2種類。「父が割烹料理屋を営んでいまして、子どもの頃から仕込みを見たり料理を味見したりと、父の背中を見てきました。うちのかつおラーメンは、そんな父が作っていた割烹料理のおすまし(お吸い物)が原点になっているんです」。手間やコストを惜しまず、かつおをベースに野菜や丸鶏などの旨味をかけ合わせた2種類の出汁から作るスープは奥深い味わいだ。

また、かつおラーメンと並ぶ定番メニューのとんこつラーメンは、神山さんが九州の屋台で修業を積んで完成させた本格派。豚のガラや香味野菜に、ワタリガニの旨味も合わせた複雑なスープだ。時代によってラーメンの味にもブームはあるが、創業以来、流行りに乗ることなく店の味を貫き続けているそう。

日本人の心をくすぐる、かつお出汁の豊かな香り

写真は14:00までのランチかつおラーメン750円。それ以降は角煮や煮玉子がのった特製かつおラーメン920円を提供。
写真は14:00までのランチかつおラーメン750円。それ以降は角煮や煮玉子がのった特製かつおラーメン920円を提供。

かつお、とんこつ……かなり悩める選択だが、今回は創業以来からある看板メニューのかつおラーメンをいただくことにした。テーブルに運ばれてきた瞬間から、まるで花が咲くかのようにかつおの香りがパッと広がる。感激して「かつおの香りがすごいですね」と神山さんに話すと「香りが伝わってよかったです。僕はもう慣れちゃったので」とニコリ。

まずはスープをいただいてみると、昔懐かしい醤油の風味が口いっぱいに広がる。醤油の風味を最大限引き出しているのは、やはりかつおの豊かな香りだろう。魚特有のえぐみは感じず、すっと鼻を抜けるのが心地よい。さらに、野菜や鶏などの旨味も相まって決して単純ではない、複雑で奥深い一杯に仕上がっている。

とろっと口の中でとろけるチャーシューなどの具材は、可能な限り一つひとつ手作りするという。「ラーメン専門店として営業している以上、本物の味をできるだけ提供したいので、ラードも生の脂から作るなど手間は惜しみません。そのうえでおいしいと感じた方がファンになっていただけたら」と話す神山さんからは、ラーメンに対する静かなる情熱を感じられた。

ラーメンと一緒に食べるにはちょうどいいサイズの角煮丼(小)450円。通常の角煮丼は700円。
ラーメンと一緒に食べるにはちょうどいいサイズの角煮丼(小)450円。通常の角煮丼は700円。

ラーメンはもちろんのこと、それに引けをとらず、リピーターが絶えない人気の品が特製の角煮。ラーメンのスープとともに10時間ほどじっくりと煮込んだ角煮は、豚のガラをはじめさまざまな素材の旨味が染み込んでいる。そんな角煮をふんだんに味わえるのが角煮丼だ。こぶりの小サイズは、ラーメンの相棒として最強だろう。

ほろっとした食感の角煮は、醤油の風味が奥深くまで染み込んでいる。ごはんをかき込みたくなるおいしさだ。見た目ほど脂っぽくないのは、余計な脂がスープと煮込むことで抜けてコラーゲンのみが残るから。角煮の旨味はスープに、スープの旨味は角煮に染み込むことで、両方が相乗効果でおいしくなるという。

角煮はテイクアウトも可能だ(1パック 6個入り1200円)。神山さんのおすすめは、レンジで温めたあと千切りキャベツと一緒にパンにはさみ、角煮サンドにして食べること。アレンジ自在の角煮は、食卓の強い味方になってくれそうだ。

立川や
住所:東京都立川市柴崎町3-3-2/営業時間:10:30〜翌1:00LO(祝・日は翌1:30LO)/定休日:無/アクセス:JR立川駅から徒歩1分

取材・文・撮影=稲垣恵美