千駄木で30年以上続く『末廣』は、居心地のいい店内に5種の味がそろうラーメン、そして良心的な価格が魅力の老舗だ。特にランチタイムは、ラーメンに半チャーハンなどのセットにすると餃子がついてくる破格っぷり! さあ、お腹を空かせて「らぁめん」の白いのれんをくぐろう。

太っ腹すぎる! ランチセットの衝撃

筆者がはじめて千駄木『末廣』を訪れた時の安心感と驚きは、今でも覚えている。

平日の14時半近く、大方の店でランチタイムが終わってしまっていた時間でもこの店はまだ開いていた。のれんをくぐると厨房から活気ある声が聞こえ、広々した店内で店員さんがてきぱきと動いている。お客さんはお一人様から家族連れまでさまざまで、テレビを見たりおしゃべりしたりと思い思いの時間を過ごしている様子だ。

どことなくほっとしながらメニューに目を通すと、750〜850円のラーメンが数種類あり、そこに200〜250円で半チャーハンやミニマーボ丼とセットにできる。さらに、15時までは餃子が3個つくという。

あれ? ちょっとまて、ラーメン・半チャーハン・餃子の3品が1000円以内で食べられるってこと!? と面食らいつつ、まんまとセットを注文。軽くお腹を満たすつもりが、大満足のランチになった。その後、ペコペコでたまらない時に何度かお世話になったのは言うまでもない。

千駄木駅からすぐ。
千駄木駅からすぐ。

そんな『末廣』は、1989年から千駄木駅近くの不忍通り沿いで営むラーメン屋。建物が建て替わってはいるものの、開業時から同じ場所で30年以上営業している。

ラーメンのメニューは、やき豚風味の「正油」750円や数量限定の「塩」850円のほか、九州風とんこつの「玄海」800円、合わせ味噌を使った「八丁味噌」800円、そして正油をベースにアレンジを加えた「末廣」850円の計5種類。塩ラーメンが加わったほかは創業当時のままのラインナップだ。

「とんこつは他に比べて若干人気が高いですが、あとはほぼ同じくらい注文がありますね」とは、取材時に対応していただいた小林さん。お客さんの9割以上が常連だというから、みんなそれぞれお気に入りがあるのだろう。実際、よく来る方のほとんどは「これを食べたい」というメニューが決まっている様子で、毎回同じものを選ぶことが多いそうだ。

店内は4人掛けのテーブルが6卓にカウンターが9席と広々。
店内は4人掛けのテーブルが6卓にカウンターが9席と広々。

ゴマの効いたオリジナルラーメン

末廣850円。
末廣850円。

今日はなにをいただこうか……あれこれ迷った挙句、やはり店名を冠した「末廣」に決めた。注文後、あっという間にやってきた「末廣」は、スープの表面を覆い尽くすほどたっぷりのゴマが印象的な一杯。トッピングにはチャーシュー、メンマ、ザーサイ、オニオンスライスが乗っている。特にこのオニオンスライス、食感がよくさっぱりとしていて、ゴマのコクと相性がばっちりなのだ。また、オニオンスライスのスープに浸かった部分もそれはそれでくったりとしてこれまた美味。正油味ではあるものの「正油」とはひと味違っていて、それが何なのかは秘密だ。

平凡ではないけれど奇抜すぎない、“いつもの味”だけど着実に最高点を叩き出すとでもいおうか、その絶妙さがクセになる。

らぁめん+半チャーハンのセットは+200円。漬物もついてくる。
らぁめん+半チャーハンのセットは+200円。漬物もついてくる。

もちろん、半チャーハンのセットもつけた。シンプルながらも“チャーハン食べたい欲”を確実に満たしてくれる味で、ラーメンと交互に食べ進めればあっという間に平らげてしまう。

セットは半チャーハンのほかに、ミニマーボ丼セットが200円、チャーシュー丼タマゴのせのセットが250円。そして15時までなら、冒頭でも触れたように餃子3個がついてくるという破格な内容だ。数年前に一度値上げをしたというが、ほとんど変わらない価格で続けているのだから驚いてしまう。

「ランチに来る方のほとんどはセットで頼みますね。無料で餃子がつくというのは、結構衝撃的なのかもしれません」

さぞかし屈強なお客さんが多いのだろうと思いきや、このセットを余裕でペロリと食べちゃう還暦以上の女性もいるとか!

変わらずに続いていること

千駄木エリアは23時ごろで閉まる店も多いなか、『末廣』は翌2時(日曜日は1時)と日付が変わるまで営業している。そのため、近所で飲食店を営む方が自分の店を閉めた後に立ち寄ってくれることも多いそう。筆者のように少し長めのランチタイムで助けられる人も少なくなさそうだが、一方で夜遅くの利用にも重宝されているのだ。

また、取材で訪れた夕方ごろは、餃子やザーサイをつまみにビールを飲み、〆にラーメンを頼んでいるお客さんも見かけた。安くて、広くて、営業時間も長めという使い勝手のよさ。「迷ったらここ」と頼られる安定のポジション。こういう店が街を支えているのだ……としみじみ実感する。

店主の立川幸夫さん。
店主の立川幸夫さん。

店主の立川幸夫さん、息子の淳之介さんなど家族を中心に切り盛りするこの店は、「銀座 末廣」(2012年に閉店)からののれん分けで開業している。「銀座 末廣」を受け継ぐ店は他にも数店あったが、現在は練馬と錦糸町、そしてここ千駄木の3店舗だけ。店ごとに独自のアレンジも加わっており、「銀座 末廣」創業者の味を最も変わらず守っているのはこの『末廣』だ。

「末廣」の名は、創業者が住んでいた神田末広町から来ているのだそう。
「末廣」の名は、創業者が住んでいた神田末広町から来ているのだそう。

「このあたりもすっかり様子が変わりました」と話す小林さん。「以前は個人店がいっぱいあったのですが、多くはマンションに建て替わっています。久しぶりに来たら知っているお店がなくなってた、ということも結構多いと思いますよ」

高校生の頃に通っていたというお客さんが20年ぶりに『末廣』に訪れて「まだあってよかった!」と喜んでいたこともあったそう。

変わらずそこにあることこそがなによりの魅力であり、だからこそ通い続ける常連も多いのだろう。『末廣』は今日も、“いつもの味”を求めるお客さんでにぎわっている。

『末廣』店舗詳細

末廣(すえひろ)
住所:東京都文京区千駄木3-37-5/営業時間:11:00〜15:00・17:30〜翌1:30LO(土は11:00〜翌1:30LO、日・祝は11:00〜翌0:30LO)/定休日:無/アクセス:地下鉄千代田線千駄木駅から徒歩1分

取材・文・撮影=中村こより

中村こより
もの書き・もの描き
1993年東京生まれ、北海道育ち。中央線沿線に憧れて三鷹で暮らした後、坂のある街に憧れて現在は谷中在住。好きなものは凸凹地形、地図、路上観察、夕立。挑戦したいことは測量と東海道踏破。