こってり大盛りのラーメンもいいけれど、澄んだスープに出汁の効いたあっさりラーメンには日本人の琴線に触れるものがある。そんな“和”を感じる一杯を提供してくれる店が『和風拉麺 喜粋(きすい)』だ。名店出身の店主が生み出す渾身の味を堪能すべく、根津を訪れた。

女性1人でも入りやすい店

白い建物の軒先に「らーめん」の赤い幟がはためく店。『和風拉麺 喜粋』は、その外観から抱くイメージに違わず、シンプルであっさりとした味を売りにするラーメン店だ。

地下鉄根津駅から徒歩数分、不忍通り沿いにある。
地下鉄根津駅から徒歩数分、不忍通り沿いにある。

「新規の人も来やすいように心がけています」とは、快活でフレンドリーな店主の吉岡浩司さん。

店内は、カウンター席が向かい合う一風変わった配置。1人でも気兼ねなく入れるのはもちろん、テーブル席もあって3〜4人のグループにも対応しているのがうれしい。普段はあまりラーメンを食べる機会がないという人でも気軽に挑戦できる雰囲気だ。実際、お客さんの3割ほどは女性で、年齢層もかなり幅広いという。

店内はカウンター12席のほか、手前にテーブルも2卓と広々。
店内はカウンター12席のほか、手前にテーブルも2卓と広々。

メニューは、自慢の醤油や塩のほか、薄口醤油も用意されているのがなかなか珍しい。「年配のお客さんからの要望があってつくりました。醤油の塩分が少しおさえられている分、よりスープのコクを感じられますよ」と吉岡さん。それぞれの味で、拉麺・ワンタン麺・チャーシュー麺から選ぶことができる。

また、鶏白湯拉麺や梅肉拉麺も見逃せない。特に女性に好評だという梅肉拉麺は、梅を何種類か混ぜてスープに溶かした一杯。1度食べると、次に来店した際にもまた注文する人が多いという。さらに夏季はつけ麺も提供しており、そちらも負けず劣らず人気があるようだ。

詳細を聞けば聞くほどどれもおいしそうで迷ってしまうが、今日は王道かつ人気メニューだという醤油のワンタン麺を注文することにした。

Wスープとワンタンを堪能する

しょうゆワンタン麺1100円。
しょうゆワンタン麺1100円。

あっという間にやって来た湯気の立つしょうゆワンタン麺は、ナルトや野菜の緑色が映えて彩りがよく、ますます食欲がそそられる。早速、澄んだ琥珀色のスープを一口すすってみると、醤油の奥から鶏のうまみがしっかりと顔を出す、安定感もありながら繊細でキレのある味だ。

「こだわりはやっぱりスープのバランスですね。鶏と煮干しを合わせたいわゆるダブルスープなんですが、うちの鶏のスープはコクが強いので、煮干しを支えにしてコクを残しながらも甘みを抑えています」

また、特筆すべきはごろりと大きなワンタン。とろっとろの皮に、鶏肉の餡がたっぷり入っている。思い切りかぶりついてみれば、予想以上にふわっとしたやわらかな歯触り。細かく刻んだユズの風味も絶妙に効いていて、鶏肉のうまみを引き立てる。

聞けば、この餡には3部位もの鶏挽き肉を混ぜているそうで、それがジューシーさの秘訣だ。「どの部位を使っているかは企業秘密!」と笑う吉岡さんは、つくねのおいしい焼き鳥店で修業していた経験もあるとか。そりゃおいしいわけだ、と納得しながら次々頬張ってしまう。老若男女問わず好評でお年寄りもよく注文するというから、「ワンタンも食べたいけど、ボリュームが多そうで心配……」と思う方でも一度試してみる価値ありだ。

麺は細いストレート。
麺は細いストレート。

トッピングの具材も、噛むほどじわりとうまみが染み出すチャーシューに、細切りのメンマ、味付け玉子のほか、シャキッとした食感の残る小松菜やカイワレがよいアクセントになっている。

あっさりとしているけれど物足りなさはなく、昔ながらの中華そばのような安心感のなかに、新鮮さもある一杯。罪悪感なく平らげてしまえるところが、ぜい肉を気にする食いしん坊にはかえって悩ましい……。

ラーメンだけじゃない! お酒と焼き鳥も

店主の吉岡さんは、根津のお隣・池之端出身。湯島(現在は御徒町に移転)の名店『らーめん天神下 大喜』や、霞ケ関の焼き鳥屋『つくね』での修業を経験している。ラーメン好きならば、鶏のスープに『大喜』の面影を感じられるかもしれない。

独立後は、浅草の観音裏エリアで鶏料理がメインの居酒屋を4年半ほど営んでいたという。そこでは締めのラーメンを提供しており、「お客さんからは『ラーメン屋でも十分やれるよ!』と言ってもらったこともよくありました」。

そうして、現在の場所に『和風拉麺 喜粋』をオープンしたのが2017年1月のこと。地元民のほか、谷根千エリアを散歩しに来た観光客、こだわりの味を求めてやって来るラーメン好きなど、さまざまな客層でにぎわう店になった。

吉岡さん。以前『喜粋』の2店舗目・入谷店があった場所では、吉岡さんの息子さんがラーメン店『らーめん サムライ』を営んでいるのだそう。
吉岡さん。以前『喜粋』の2店舗目・入谷店があった場所では、吉岡さんの息子さんがラーメン店『らーめん サムライ』を営んでいるのだそう。

また、お客さんからのリクエストがあったこともあり、2023年末ごろからは火・水・木曜日の夜限定で焼き鳥も提供している。焼き鳥メニューのなかでも一押しは、浅草の鶏料理店で出していた頃から変わらないというつくね。ワンタンに使用する鶏肉を炭火でふっくら焼き上げる。ワンドリンク注文制なので、焼き鳥を肴にゆっくりとお酒を楽しんだ後、ラーメンで締めるという過ごし方もよさそうだ。

地元民・観光客問わず、老若男女に重宝される『和風拉麺 喜粋』。誰もが「これこれ!」と思える懐かしい味で、一度訪れたらまた恋しくなる、そんな一杯だった。

『和風拉麺 喜粋』店舗詳細

和風拉麺 喜粋(わふうらーめん きすい)
住所:東京都文京区根津2-27-1/営業時間:11:30〜14:30・18:00〜21:00/定休日:日・月の夜/アクセス:地下鉄千代田線根津駅から徒歩3分

取材・文・撮影=中村こより

中村こより
もの書き・もの描き
1993年東京生まれ、北海道育ち。中央線沿線に憧れて三鷹で暮らした後、坂のある街に憧れて現在は谷中在住。好きなものは凸凹地形、地図、路上観察、夕立。挑戦したいことは測量と東海道踏破。