今回は日本橋のはんぺん専門店、『神茂(かんも)』の調理済おでんを紹介しよう。 『神茂』の創業は江戸時代まで遡(さかのぼ)り、330年の歴史を持つ老舗中の老舗だ。現在ではスタンダードになった東京発祥の白い「浮きはんぺん」を専門としているが、揚げ蒲鉾などのおでん種も多く販売している。今回は温めるだけで本格的な味を楽しめる、『神茂』の調理済おでんを紹介しよう。

変わりゆく日本橋で、今も伝統の味を守り続ける『神茂』

日本の国道、そして五街道の起点として有名な日本橋。この地域も再開発が進んでおり、景色が目まぐるしく変わっている。海外からやってきた観光客も増えて、日ごとににぎわいが増している。

かつては築地市場の前身となる魚河岸があり、日本橋のたもとでは多くの魚介類をのせた船がこの場所に集まっていた。

大通りからすこし入ると新旧さまざまなお店が立ち並んでいる。その多くは飲食店で、行列をつくるお店もある。一方で、古い家屋が取り壊され、おしゃれなビルに建て替わっているところもある。

再開発では古き良き文化を生かしながら、新しく再生させる動きが見られるが、その身に歴史を刻んだ建物が次々と姿を消してしまうのは、すこし寂しいところがある。

『神茂』の本店は日本橋三越の道路を挟んで東側、日本橋室町1丁目にある。1991年6月に竣工した神茂ビルの1階が店舗となっており、落ち着いた老舗の雰囲気が漂っている。

店員の方々も上品で丁寧な応対をしながら、親しみがこもった接客が印象的だ。『神茂』の商品は非常に品質が高いが、そのこだわりはお店の隅々にも表れている。『神茂』は季節によってさまざまな商品を揃えており、練り製品も種類が多く、揚げ蒲鉾やしんじょ(真薯、真丈)、板付蒲鉾などもある。

注目はなんといってもはんぺんだ。『神茂』の創業は元禄元年(1688)、はんぺんはその長い歴史のなかで江戸や東京の人々に愛されてきた。アオザメやヨシキリザメを使用し、昔ながらの石臼を用いた手づくりの製法を守り続けている。

魚のすじや冬季限定の煮こごりは、はんぺんの原料魚となるサメを用いたものだ。『神茂』に訪れた際はぜひ購入することをおすすめする。

手軽に本格的な味が楽しめる、『神茂』の調理済おでん

さて、ここからは今回のメインとなる調理済おでんを紹介していこう。1商品につき8種類のおでん種が入っており、「其の一」「其の二」で種類が異なる。

どちらもレトルトパックに入っており、冷蔵庫に入れておけば1カ月以上保存することが可能だ。日本橋をモチーフにしたイラストが江戸の粋を感じさせる。

「其の一」は定番のおでん種が揃う。迷ったときははこちらを選ぶといいだろう。時計回りに12時から、さつま揚、大根、こんにゃく、昆布、焼竹輪、ごぼう巻、玉子(中央上)、つみれ(中央下)。

「其の二」は東京ローカルなおでん種を揃えた通好みのラインナップ。時計回りに12時から、大根、こんにゃく、昆布、竹わぶ、えび巻、白天、うずら揚(中央上)、すじ(中央下)。

温める際は沸騰したお湯に袋ごと入れるか、袋から鍋に移して火にかける2通りの方法がある。どちらにせよ手間いらずのためすぐに食卓に並べることができる。ただし、火傷にだけは注意しよう。

温めたおでんを器に移し替えればできあがり。ボリュームも申し分なく、さまざまな味わいのおでん種が楽しめる。ここにはんぺんを加えてもいいだろう。

おでん汁は上品な色合いとなっており透明度が高い。それでいて、かつお節とそれぞれの種からにじみ出た出汁の旨味がしっかり感じられる。

其の一、其の二ともに入っている大根は中心まで味が染みていながら、ほろほろとしゃきしゃきのいいとこ取りの食感が楽しめる。

其の一には定番の玉子も入っている。ぷるんと張りのある白身、きめ細やかな舌触りとクリーミーな味わいの黄身が楽しめる。

さつま揚は戦後当時の製法を踏襲し、黒ごまとニンジン、アジの量を増やし、おでんにしたときに味がしみやすくなっているという。

おでんの練り物の代表選手、ごぼう巻も其の一にラインナップされている。大ぶりなすり身は食べ応えがあり、イトヨリダイとホッケを使用したすり身は弾力がありながらもソフトな食感だ。ごぼうは国産のものを手切りし、食感を残しながら軽く茹でて醤油とみりんで下味をつけているそうだ。

焼竹輪も人気の高いおでん種だ。青森県や東北地方の名産である牡丹ちくわで、しっかりと汁が染みているが、すり身の旨味はしっかりと留めている。

こんにゃくは主に東北地方で主流となっている白いもので、其の一、其の二の両方に入っている。ぷるんとした喉越しが心地よく、汁もよく染みている。

つみれはアジの身がベースとなっており、臭みがなく食べやすい。しっかりとした旨味が感じられ、ねっとり、ほくほくとした両方の舌触りが楽しめる。

其の二に入っているおでん種も紹介しよう。すじははんぺんの2番肉を使ったもので、歌舞伎界では若手で筋のいい役者に「あの野郎、ちょっとカンモだねえ」という言い方があるくらい、知名度のある商品だ。クセはないが旨味がじわじわと感じられ、軟骨のこりこりとした食感も心地よい。

竹わぶは東京ローカルのおでん種として近年認知度が高くなっている。もちもちとした食感と小麦のフレッシュな風味が感じられる。

白天はきくらげやニンジンなどの野菜がふんだんに混ぜ込まれた練り物だ。浅く揚げた白肌の美しさと濃い色合いの具材とのコントラストが芸術的だ。きくらげのこりこりとした食感がアクセントになり、ニンジンの甘みやすり身の旨味が渾然(こんぜん)一体となって押し寄せてくる。

えび巻は大ぶりの海老に魚のすり身を巻きつけた贅沢なおでん種だ。ぷりっとボリューム感のある海老のおいしさはもちろん、すり身のふっくらとした味わい深い旨味が素晴らしい。

うずら揚はすり身の座布団にうずら玉子がのった揚げ蒲鉾だ。『神茂』には「うずらボール」という似た商品があるが、形状が若干異なる。うずらのまろやかな味わいに心がときめく。

かつては宮内庁の出入りが許されるほどの高い評価を得てきた『神茂』。現在も日本橋三越をはじめとした高級デパートを中心に販売しており、食通の人々に親しまれている。そんな『神茂』の商品が調理済おでんとして手軽に味わえるなんて、素晴らしい世の中になったものだとしみじみ感じる。『神茂』本店だけでなくオンラインショップでも購入できるので、興味のある方はぜひご自身の舌で味わってほしい。

『神茂』の基本情報

『神茂』
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1-11-8
03-3241-3988
定休日:日・祝
営業時間:10:00〜17:00

取材・文・撮影=東京おでんだね

東京おでんだね
東京のおでん種・蒲鉾・練り物の魅力を紹介
「おでん種やさんでおでんを買って、家で調理して食べる」文化を盛り上げるべく、都内各地を奔走中。ビジネスでなく趣味でちまちま活動しています。