2019年3月16日土曜日、金沢大学能登学舎(石川県珠洲市)で、社会人向け高度人材育成プログラム「能登里山里海マイスター」育成プログラムの第6期生修了式が行われた。6期生28人のうち、卒業課題論文を提出し審査に合格した18人(男性11、女性7)が修了式を迎えた。この日の山崎光悦金沢大学学長は、「この1年間、仕事や家庭の両立を図りながら、仲間と共に粘り強く学んでこられた研さんとその成果をたたえたい」と式辞を贈った。

(国立研究開発法人 科学技術振興機構 本誌編集長 山口泰博)

 

◆能登の活性化を担う若手人材を輩出

同プログラムは、廃校となった旧小泊小学校の校舎を活用し、2007年10月にスタートし今年12年目を迎える。道路を隔てた眼前には、美しい能登の里海が広がり、カモメが出迎えてくれた。 

次世代のリーダーとなる45歳以下の社会人を対象にした同プログラムは、金沢大学と珠洲市を含め輪島市、穴水町、能登町といった奥能登の4市町などが連携する。 

「里山里海」の豊かな資源を生かし、能登の抱える地域課題に取り組む人材や、自然と共生する持続可能な地域社会モデルを世界に発信する人材など、能登の活性化を担う若手人材を輩出してきた。これまでに県外からのU・Iターンら65人を含む282人が受講。183人が修了し、学んだ知識を農林漁業や特産品を使った新商品の開発などに生かしている。 

また、同プログラムに絡み、2011年には、国際連合食糧農業機関(FAO)が「能登の里山里海」を世界農業遺産(GIAHS)に認定した。2013年には、能登里山マイスター養成プログラム運営委員会が、「地域づくり総務大臣表彰」を受賞、さらに2015年には、珠洲市と金沢大学が、地域課題解決に向けた先進的取り組みを表彰する「第3回プラチナ大賞(総務大臣賞)」を受賞。地域と大学による先進モデルとして高い評価を得た。 

昨年は、金沢大学が地域産業支援プログラム表彰(イノベーションネットアワード2018)において、文部科学大臣賞を、さらに、珠洲市が内閣府の「SDGs未来都市」に選定されるなど輝かしい実績を作り出してきた。

 

◆現場主義の生きたカリキュラム

「能登里山里海マイスター」育成プログラムは、隔週土曜日の午前9時半〜午後4時半で1年間に及ぶカリキュラムだが受講料はなんと2万円だ。講師に大学教員、企業や地域づくりを事業にするNPO代表らが登壇し、地域づくりのノウハウを学ぶことができる。グループディスカッションを主体とした講義が特徴で、農林漁業者らによる実習は、現場主義にこだわる。 

所定の単位を取得し、卒業課題研究(卒業論文)の審査に合格すると、金沢大学から「能登里山里海マイスター」の称号が認定される。連携する農業者、珠洲市をはじめとする能登地域の自治体などの支援ネットワークによって、移住や就農、起業などの支援を受けられる。 

JR金沢駅から能登半島の突端に位置する自然豊かな珠洲市までは、およそ150km、能登空港経由で行く珠洲特急バスで2時間半ほどかかる。お世辞にも交通の便がいいとは言えないが、過去には東京や兵庫など県外からの受講生もおり医師や弁護士などもいる。 

6期生の受講生は、地元自治体やJA(農業協同組合)、JICA(国際協力機構)の職員、高校教師、地域おこし協力隊などで、県外は富山県から通う人もいた。 

修了式後の懇親会では、福森義宏金沢大学理事・副学長が、「マイスターになったわけではありません。マイスターになる資格が与えられたということです。今後の活躍で真のマイスターになることを期待しています」と激を飛ばした。

SDGsの理念に沿った受講生の取り組みを顕彰するために、今回新設された「マイスターSDGs奨励賞」を受賞したのは、加賀ゆびぬき作家の岩﨑京子さんと珠洲市役所の高真由美さんだ。 

高さんは、環境省の地域循環共生圏構築検討業務で珠洲市自然共生室の事務補助員として能登学舎に勤務する。そこで講義を見学するなど関わりを持つなかで、ファシリテーターに興味を持ち、受講生として学び始めた。「シングルマザーなので仕事と家庭との両立が大変でした。帰宅が遅くなり家でも課題に追われ、小学6年生になる娘と過ごす時間が減りましたが、娘は自分のことは自分でするようになり、家事も手伝い応援してくれました。4月から能登SDGsラボの事務員として勤務していますが、プログラムで学んだことを生かして活動を続けていきたいです」と語った。 

2016年度からは本科カリキュラムに加え、インターネットを通じて講義を提供する「遠隔教育科」を設置し、日本語と英語にも対応した。受講料は1万円で、1年間の受講期間内で毎月1〜2回(各回3時間)講義を全12回配信し、実習は休日を活用して2日間程度を実施する。海外在住者や能登学舎に通うことのできない人への利便性を高めた。

 

◆予防医学の拠点として新たに志賀学舎で

この日は、志賀町にある地域交流センターで金沢大学の志賀町教育研究拠点「志賀学舎」の開所式も行われた。 

志賀町は、珠洲市と金沢市の中ほどに位置し、珠洲市からおよそ80km離れ車で1時間半はかかる。里山里海マイスター修了式や懇親会を終えた山崎光悦学長や福森義宏副学長、大学関係者も移動し大忙しだ。 

同大学はこれまでも、町民の健康増進を目的に、志賀町の四蔵医院の一部を借り受け拠点として活用していたが、このほど、同センターの1、2階のほぼ全室を借り受け、この4月から本格的に町内で関係者がこの場を拠点に教育・研究活動を行う。 

具体的には、地域住民を対象に「スーパー予防医学検診」を実施し、多くの検査項目の定点データを集めることで、個人ごとに保健指導を行い、生活習慣病予防などの研究に役立てる。このほか公共交通や都市計画など多分野でも連携を図る予定だ。

能登学舎や志賀学舎に立ち上げから関わってきた、宇野文夫特任教授(先端科学・社会共創推進機構)は、「能登の地域課題は世界の地域課題でもあるとの認識です。地域でイノベーションを起こすにはいきなり外から持ち込むより、内側から醸成させることが必要で、その拠点が学舎です」と話す。 

同大学は、2月から、研究の推進や産学連携などを担当する先端科学・イノベーション推進機構と地域社会との連携や社会課題の解決を担当していた地域連携推進センターを統合し「先端科学・社会共創推進機構」を立ち上げた。 

社会貢献機能を産学連携と地域連携に分けていたが、社会課題や要請も多岐にわたり複雑化している。統合によって総合大学としてその窓口を一本化し、柔軟でスピーディーな対応をしようとする表れと言えそうだ。 

(産学官連携ジャーナル 2019年5月15日発行号)