愛媛発! 産学官総動員!! 特産柑橘で機能性表示食品を商品化

愛媛県産業技術研究所 所長 大野 一仁
愛媛県経済労働部 産業創出課技術振興グループ 担当係長 福田 直大

開発の背景及び目的
河内晩柑(かわちばんかん)は文旦(ぶんたん)の血を引く偶発実生(ぐうはつみしょう:偶然に発見された優良な形質をもつ実生樹の意)の柑橘で、愛媛県は生産量全国1位(約80%)であり、年間約7,000t(2017年産)を生産している。松山大学薬学部、古川教授らのグループは、2006年の学部開設時から愛媛県内で栽培されている柑橘類について、含有成分を網羅的に解析した結果、河内晩柑の果皮に機能性成分のオーラプテン(AUR)が特異的に多く含まれること、AURが脳内の炎症を抑制する効果を示すこと、AURの一部は搾汁過程で果皮から果汁に移行することを確認し報告してきた。

そこで本プロジェクトでは、河内晩柑特有のAURを有効活用するため、産学官が連携し、AURを富化させた河内晩柑果汁飲料の開発を行い、マウスなどを用いてその機能性を評価するとともに、認知機能の維持改善に寄与する機能性表示食品を目指して、ヒト介入試験による認知機能の維持改善効果を検証した。

プロジェクトの概要
(1)実施体制
まず、当時の愛媛県プロジェクトプロデューサー田中氏のコーディネートの下、2013年に県内の産学官が連携して「河内晩柑研究会」を結成し、“毎日の食生活に認知症予防を取り入れる”を目標に、河内晩柑の機能性(特にAUR の抗炎症作用)を生かした新しい機能性食品の創生を検討することとなった。

さらに、このプロジェクトが愛媛県の「戦略的試験研究プロジェクト」で採択となり、2014年度から2016年度までの3年間、愛媛県産業技術研究所、愛媛県農林水産研究所・果樹研究センター みかん研究所、愛媛県立衛生環境研究所、松山大学薬学部、愛媛大学医学部・農学部、株式会社えひめ飲料が共同研究を実施した。以下に取り組んだ研究の概要の一部を紹介する。

(2)研究の概要
①河内晩柑の成分特性と果汁飲料の開発及び品質
評価
搾汁方法の違いによるAUR濃度の比較を行ったところ、搾汁方法によりAUR濃度に大きな違いがあることが分かった(表1)が、搾汁効率と果汁の汎用性を考慮してインライン搾汁した果汁を用いることとした。
しかし、果汁中のAUR含量は十分に高いものではないため、1日1本(125mL)の摂取で認知機能の維持改善が図れるようなAUR濃度とするため、搾汁残渣(さくじゅうざんさ)である果皮からペーストを作製し果汁に添加することとした。まず、河内晩柑の搾汁残渣を粗粉砕してペーストを試作し、果汁に添加したが、果皮が粗く舌触りに難があった。次に、コミトロールという装置により果皮の微細化処理を行うと、非常に細かいなめらかな果皮ペーストを製造することが可能となり、舌触りを格段に良くすることができた。以上の結果から、微細化処理した河内晩柑果皮ペーストとインライン搾汁果汁を混合し、果汁飲料を製造することとした。

果汁飲料は、ホモジナイザーによる均質化処理を行い、脱気、濾過、除塵した後、殺菌、冷却を行い、125mLの白無地紙容器に無菌充填し、ヒト介入試験用AUR強化飲料(6mg AUR/容器)とした。本飲料を5℃または25℃の温度で保管し、1カ月毎に機能性成分濃度を分析した結果、いずれの保管温度でも製造後6カ月経過後の機能性成分はほとんど減少しないことが確認された。また、対照となるプラセボ飲料については、少量の香料とインライン果汁を10% 含有させることで、AUR濃度を1/70以下に抑えた(0.08mg程度のAURを含む)。

②脳虚血マウスを用いた機能性評価
河内晩柑果皮ペースト入り果汁飲料の濃縮サンプルを全脳虚血モデルマウスに投与し、脳に及ぼす作用を解析した。モデルマウスは、C57BL/6マウス(9週齢、♂)に対し、麻酔下で両側総頸動脈流をクリップで12分間一時的に止め、再灌流(かんりゅう)を行うことで作製した。経口投与に供する試料は、本飲料の凍結乾燥粉末を水に懸濁(けんだく)し調製した。経口投与は、脳虚血手術5日前から手術3日後までの8日間、1日1回、胃ゾンデを用いて行った(2.5g/kg 体重/日)。対照群(偽手術群および虚血手術群)には水を投与した。

脳虚血障害により、海馬CA1領域(記憶に重要な役割を果たす脳領域)などにおいて神経細胞死が起こる。そこで、脳虚血手術3日後に脳を摘出して脳切片を作製して組織染色に供し、CA1領域における健常な神経細胞数を計測した(図1)。その結果、偽手術群における健常な神経細胞数を100%とすると、虚血手術群は66.6±8.9%と有意に(***p <0.001)低値であったのに対し、本飲料の凍結乾燥粉末を投与した場合(虚血手術+果汁群)は93.7±7.9%と、虚血手術群と比較して有意に(###p <0.001)高値を示した。すなわち果汁投与により有意に神経細胞死が抑制されたことが明らかになった[J. Nutr. Sci. Vitaminol.(2019) Vol.65; p.66-71]。

③ヒト介入試験による検証
ヒト介入臨床試験は、愛媛大学医学部附属病院の抗加齢ドック受診者で明らかな認知症がない被験者82人(男27人、女55人、平均年齢71±9歳)を対象として実施した。無作為にAUR強化飲料摂取群と対照飲料摂取群2群に分け、6カ月間それぞれ1日1回飲用していただいた。認知機能検査は、軽度認知障害スクリーニングテスト(MCI screen)で使われる「10単語想起テスト」を用いた。「認知機能スコア」は答えられた数とし、10単語想起テストを3回繰り返すため、満点は30点である。

6カ月の飲用期間の前後において認知機能検査を実施し、認知機能スコアの変化率を求めたところ、AUR強化飲料群はプラス6.3、対照飲料群ではマイナス2.4となり、両者の間には有意な差(p<0.05)が認められ(図2)、AUR強化飲料摂取群で認知機能スコアの改善が認められることが明らかになった。このことから、河内晩柑果皮入り果汁飲料が認知機能の維持に有効であると考えられた[J. Prev. Alz. Dis.( 2017) Vol.65; No.3]。

製品化までの流れ及び製品概要
本プロジェクト終了後2017年8月に、愛媛県・松山大学・愛媛大学・株式会社えひめ飲料が共同で「河内晩柑果皮入り飲食品」として特許出願し、愛媛県庁での知事報告・記者発表および東京での記者発表を行った。株式会社えひめ飲料は、愛媛大学医学部伊賀瀬教授らの論文[J. Prev. Alz. Dis. (2017)Vol.65; No.3]を科学的根拠として、2018年5月に機能性表示食品の消費者庁届出を行った。同年9月に届出が受理された後、同年12月14日に愛媛県庁において知事報告と記者発表を行い、「POMアシタノカラダ河内晩柑ジュース」として販売を開始した(図3)。

本商品は、AURを機能性関与成分とする日本で初めての機能性表示食品となり、高齢者の記憶力の維持をヘルスクレームとしている。また、本商品は2020年7月末現在、認知機能の維持をヘルスクレームにした機能性表示食品のうち、最終製品でヒト試験を行ったサプリメント形状ではない唯一の食品である*1。

問題点及び打開策
本プロジェクトでは、当時の田中プロジェクトプロデューサーが産学官の調整に奔走したことで、多くの機関が、2015年からスタートした「機能性表示食品への届出」という同じ目標に一丸となって取り組むことができたことがよかった。また、始まったばかりの機能性表示食品の届出には、ヒト介入試験の方法や、論文の取り決めなど様々な制約がある中、当所に2017年7月に設置した機能性表示食品ワンストップ相談窓口をフル活用し、外部専門家の支援も受けながら、一つ一つ課題をクリアし、届出に至ることができたことも目標達成の大きな要因である。

今後、本商品の販売増を目指すためには、河内晩柑の増産による加工原料の安定供給が課題である。また、果汁飲料以外の商品への展開も可能であり、今後も、県内企業との共同研究により新商品の開発を目指していく。