三条市立大学 学長 アハメド シャハリアル

三条市立大学は、2021年4月に開学した1学部1学科、収容定員320人の小規模な地方公立大学である。産業界の未来を見据え、これからの高度ものづくりに資する人材を育成するため、産業界と連携したこの地域ならではの学びを創出し、「創造性豊かなテクノロジスト」の育成を目指している。

■地域産業の持続的な発展に資する人材の育成を目指した大学構想
本学が立地している燕三条地域は、ものづくりを基幹産業にしており金属加工を中心とする全国有数の「燕三条産業クラスター」を形成している。その一方で、産業の担い手と直結する人口の減少が顕著であり、三条市は、国定勇人前三条市長(現衆議院議員)のもと、転出抑制を図りつつ次世代につながる高度なものづくりを支える人材の育成が急務であると考えた。このことから、持続可能な地域づくりに資する魅力ある大学の開設に向けた構想を掲げ、2015年から設置された三条市立大学開設検討委員会で産業界の意見を伺いながら、この地にふさわしい大学の姿を模索し続けた。その結果、技術力だけではなく経営や起業の知識を併せ持ちイノベーションを起こす力を有した「創造性豊かなテクノロジスト」の育成にフォーカスした大学の開学を目指した。

■産学連携による実習を学びの中心に据えた教育
本学では、「新たな発想を生み出す鍵は蓄積された経験の中に」を基本理念に掲げ、「創造性豊かなテクノロジスト」の育成を目指している。イノベーションを科学的に生み出し育むには、知識と豊かな経験との融合が必要であり、そこから新たな価値を創造する実現可能なアイデア/コンセプトが生まれる。知識の応用には、経験が必要であり、また、経験をさらに生かすためには経験から得られた気付きをもとに新たな知識を修得することが必要となる。イノベーションを生み出す人材を育成するため、産学連携による実習を学びの中心に据えているのが本学の大きな特徴である。知識と経験をしっかりと組み合わせた深い学びによって、産業構造の変化にも対応可能な人材を育成したいと考えている。

■教育における特色
私が思い描く新しいスタイルの工学教育では、幅広い教育でイノベーション力を育むことを重要視している。その熟度を高めるためには工学の複合領域の幅広い知識に加え、マーケットなどの特徴を捉えるスキルが必要と考え、従来とは異なる地域産業界との連携に軸足を置いた教育手法を選んだ。ものづくり集積のリソースを活用し、大学では工学技術とそれらのマネジメントを融合して学ぶカリキュラムを採用し、大学で学んだ知識を企業で経験する教育である。

本学の教育の特色は、大きく分けて三つある。

第一の特色は「幅広い分野の知識を身に付ける教育」である。イノベーションを生み出すために必要となる工学などの応用自然科学分野の科目と技術マネジメントなどの社会科学分野の科目をバランスよく融合させる必要があり、本学では機械工学を軸とし多岐にわたる分野の学問を組み合わせた教育カリキュラムを編成した。1年次から4年次まで、基礎から発展、応用の順に知識がつながるよう最適な時期に講義、実験・実習、課題解決型学習、産学連携実習の各科目を配置した。講義形式では工学系科目において技術開発に必要な工学知識を、技術マネジメント科目においては技術の価値創造に必要な知識を学修する。ハンズオンで学ぶ実験・実習では定量的分析を基にした論理的思考力の養成につながるテーマを設定し、課題解決学修科目においては定性的分析を基にした論理的思考力を養成する内容に重点を置いた。

第二の特色は、「燕三条地域の企業現場での経験的学修」である。ものづくり産業の集積という当地の特色を最大限に生かした学外での産学連携実習を本学の学びの中心に据えた。

知識を使いこなすには経験が必要で、経験をさらに生かすためには知識が必要、これが第三の特色「反復学習のサイクル」という工夫を凝らした学修方法だ。産学連携による経験的教育を通して見えてきた自身の課題を学内で学び直し、学内で学んだ知識を実社会の課題解決で発揮する仕組みだ。

■産学連携実習に向けた準備(地元の協力企業との調整)
本学の産学連携実習は従来の就業体験を積むインターンシップとは違い、必修科目として正規の学びの一環としている。学内で学んだ理論や知識、設計やプレゼンテーションなどのスキルが企業でどう生かされているかを現場で実践する、学生にとって貴重な機会となる。実習期間中に学生一人一人が何を経験し、何を学ぶべきなのか、実習の目的と内容を大学と企業とで事前に決めた上で実施していく。

具体的には、1年次に「燕三条リテラシ」と名付けた科目で学生全員が企業を訪問し、ものづくりの現場を見学することから始まる。10社ほどの企業を回って幅広い分野の業種を浅く学ぶ。2年次に三つの企業で各2週間の経験的学修を行い、ものづくりや企業活動等の実務の経験を積む。異なる3社では、商品企画、開発、製造の三つのプロセスを経験することになる。3年次には、16週間にわたって1社に通い、企業活動全般を俯瞰(ふかん)的に見ることを目的とした実習を行う。商品やサービスに関わる企画、技術・開発、製造などを実際の現場で学んでいく。そして、4年次には、教員の指導のもと企業との共同研究や開発プロジェクトに卒業研究として取り組む。このような学びを重ねることで、「実用化までのプロセスを知るテクノロジスト」を養成したい。

燕三条地域には数千の中小企業があるが、現在は120社ほどの企業と実習の実現に向けて調整を進めている。まずは、どの企業とどのようなコラボレーションをしていけるのかを検討するため、当地企業の発展の要因に関する調査を実施中である。

この地域全体を教育研究のキャンパスとすることで、現在の産業構造の垂直統合の系列に加え、異業種間での水平統合のネクサス(つながり)が出現し、新たなイノベーションが生まれる環境が整うと考えている。時を重ね、本学の卒業生たちが地域の多様な業種に根付き、人的ネットワークが構成され、創造性豊かなテクノロジストが飛躍的に活躍できるプラットフォームを生む原動力になることを期待している。

■将来展望
地域産業の高度化に資する高度ものづくり人材を本学で育み、その過程で発生するテクノロジーと人材とでイノベーションを起こし、この地域のサステナビリティー性を確かなものにする、これが本学のグランドデザインだ。

本学で育成された創造性豊かなテクノロジストが活躍し、憧れを抱かれる人材として認識され、地域の、日本の、そして世界のものづくり産業の発展に貢献することを信じて、本学の教育研究をさらに高めていきたい。