(国立研究開発法人科学技術振興機構 本誌編集長 山口泰博)

日本が技術移転に本腰を入れ始めたのは、1980 年米国で施行されたバイドール法がきっかけだ。大学が米国政府の資金によって研究開発を行った場合、それまでは政府に帰属していた権利を大学や研究者に帰属させた。すると特許権を得た大学と企業の技術開発が進み、その技術を基にしたベンチャー企業が次々と誕生。産学連携活動が加速し世界的な産業競争力を取り戻した。


技術移転
このころから米国を中心に、欧州諸国も競って工業から知的財産(知財)を基礎にした知識社会へと変貌していった。日本はバブル経済の突入から崩壊し始めたころである。日本では、欧米の先進技術を活用しようにも、特許に守られてガチガチに縛られ身動きがとれないそんな状況だったことだろう。

そこで日本国内でも、これではいかんとなり、慌てて日本版バイドール法と言われる「産学活力再生特別措置法」を施行(1999年)。工学系に偏っていた日本の産学連携は、特許を含めた法整備や施策を押し進め、国の科学技術基本計画という枠組みで産学連携が本格的に始まった。欧米諸国から20年ほど遅れた後追いだ。

科学技術基本計画は、1995(平成7) 年11月に公布、施行された科学技術基本法に基づき、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な計画だとしている。その基本法では、大学の研究成果の民間移転を図るための大学等技術移転促進法(1998年施行)という法律で、技術移転機関の「承認TLO(Technology Licensing Organization)」が設置された。TLOは、研究成果を特許化し企業へ技術移転する機関だ。

文部科学省のウェブサイトには、「法律に基づいて承認を受けた技術移転機関(承認TLO)」として、株式会社東京大学TLO、株式会社東北テクノアーチ、有限会社金沢大学ティ・エル・オーなど、株式会社・財団法人など大学外の組織21機関、大学の学内組織13機関、計34機関を紹介している。認定TLOは、企業と大学をつなぐ組織である。大学はTLOから得られた収益の一部を研究者に戻し、研究資金として活用する。

2001年当時の平沼赳夫経済産業大臣は「新市場・雇用創出に向けた重点プラン」の一環で、イノベーションの基盤整備を目的に、大学改革、「学」から「産」への技術移転戦略による「大学発ベンチャー企業を3年間で1,000社にする」提言をした。それが契機となり、大学や企業に「イノベーション(技術革新)」という言葉が広がった。当時ITバブル真っ盛りで、デジタルメディアを担当していた筆者の元には、カタカナ語ばかり使うIT業界の面々が次々とやって来た。そしてどこもかしこもイノベーションと連呼していた。そのときからイノベーションというワードが嫌いになった。

だがそれらの施策によって、経済発展の一因として専門の部門や担当を置く大学や企業なども増え始め、産学連携を推進する上で、地域イノベーションやオープンイノベーションという発展型の言葉に置き換えながらも共に取り組まれて久しい。

2001年度から2005年度までの5カ年計画で策定された第2期科学技術基本計画では、「大学発ベンチャー」「知的クラスター創成事業」「大学知的財産本部整備事業」などが叫ばれた。知的クラスター創成事業とは、地域の主体性を重視し、知的創造の拠点たる大学や公的研究機関などを核とし、関係研究機関と研究開発企業などが集積する研究開発能力の拠点(知的クラスター)の創成を加速するための支援事業で、札幌周辺を核とする道央地域(ライフサイエンス、情報通信)、広域仙台地域(情報通信、ライフサイエンス)、富山・石川地域(ライフサイエンス)などだ。


国立大学の法人化と改革
2004年4月には、99の国立大学(短大含む)と15の大学共同利用機関は、89の国立大学法人と四つの大学共同利用機関法人(人間文化研究機構、情報・システム研究機構、自然科学研究機構、高エネルギー加速器研究機構)となった。また全国の国立高専は、東京都八王子市に本部を置く、独立行政法人国立高等専門学校機構が運営し、全国に51 校(商専含む55のキャンパスでおよそ5万5000人の学生が学ぶ。本科5年(商船学科は5年半)、専攻科2年(通常の大学の3年、4年相当)、本科卒業生は就職するか他大学へ3年次編入するか、専攻科に進学することができる。専攻科を修了して「学士」を得た者は、就職するか他大学も大学院への入学資格がある。

国立大学の法人化は近年にない大きな改革で、これらの改革を機に産学連携を機能的、機動的に実施できるよう研究と知財を統合して組織が再編され、現在の大学産学連携組織ができ上がった。

何度か述べてきたが2006年の教育基本法の改正によって、大学の使命として、「教育」と「研究」だけでなく、教育・研究の成果の社会への提供、「社会貢献」が明記され、産学連携は社会貢献として位置付けられ、2006 年度から2010年度までの5カ年計画で策定された第3期科学技術基本計画で、産学官連携がイノベーション創出のための重要な手段となっていく。


理系と文系の連携、その違い
理系の産学連携は数字で算出されやすいが、文系は費用負担や収益も少なく成果が見えにくい。従って文系は、学生の教育に寄与するかもしくは、社会事業、社会貢献といった連携が主流だ。例えば授業の一貫として学生が企業や地域と関わる経験を得る。学生がアイデアを出し商品開発やデザインなどを行うといったものだ。「アイデアソン」などが各地で実施されているのもそのためだ。

社会貢献を主体とする連携は、公開講座、キャンパスの開放、ボランティア、町づくり(商店街・地域の業活性化など)、マーケティングなど、地域と関わり大学の社会貢献の一環として行うことが多い。

理系が行う産学連携の主な分野
情報、物理、生命科学、化学、生物資源、農林水産、畜産、工学、建築、宇宙、地球、海洋、気象、地質、医薬、看護・福祉・保健、栄養など

文系が行う産学連携の主な分野
芸術・デザイン、考古・地理、観光、心理、経済・国際経済、商経、法、政治・行政・政策、国際政治、社会、福祉、生活環境、教育など


近年の大学改革と逆行する大学の思惑
18歳以下の人口がさらに減少期に入った2018年問題を経て、大学の廃校や学生獲得には相当の努力を要すると言われてきた。18歳人口減少は想定されながら、小泉政権時代の規制緩和政策の流れを受け、特に私立大学の数は増え続け、短期大学からの4年生大学への転換なども進んだ。それでも進学率の上昇を受け学生の確保が何とかできていた。しかし、2010年以降、経営悪化から学生募集を停止する私立大学が目立ち、定員割れが全体の5割近くまで進み閉校する大学も出てきた。知名度や特色のない大学への志願者が減り、大学の二極化が進む。大学側も企業と同様、選ばれる大学に変わる必要がある。

自治体が設立した学校法人による公設民営の私立大学として開学した大学の多くは、学生の定員割れが恒常化。運営形態を公立大学法人に変更し、公立大学へ転換、学費を安くし公立というブランドでよみがえる大学も出てきた。公私協力方式で開設された大学も公立大学法人に移行するなど、地方の私立大学の公立化の動きから目が離せない。
(次号へ続く)