リージョナルフィッシュ株式会社 代表取締役社長 梅川 忠典

水産物の品種改良×スマート養殖の組み合わせにより、日本の水産業の変革を目指す企業である。これまで大手企業が参入してこなかった領域でもあるが、多くの大学および事業会社を巻き込んだオープンイノベーション型大学発ベンチャーとして市場を果敢に開拓している。今後新たな市場創造を起こし、大きく成長することが期待される。


■品種改良によりリージョナルフィッシュ(=地魚)を作る
日本において、水産物は「天然ものがおいしい」と言われるが、農産物と畜産物は「天然ものがおいしい」と言われることはほとんどない。水産物は品種改良されてこなかったからである。従来手法では一つの品種改良に数十年の時間がかかる。農耕・畜産の歴史は1万年以上、水産養殖の歴史は50〜100年と大きな違いがあり、水産物は品種改良をするだけの十分な時間がなかった。そのため、日本で品種として確立しているのは「近大マダイ」にとどまる。農産物や畜産物同様に水産物も品種改良により「天然ものよりも養殖もののほうがおいしい」と言われる可能性がある。しかし、課題として、従来手法の品種改良では30年程度の長い時間がかかってしまう。

弊社では、ゲノム編集技術を用いることにより、水産物(海洋生物全般)の品種改良を2〜3年で行うことに成功している。地域の特色を生かした水産品種、すなわち「地魚」を作出して、地域を盛り上げたいという想いを込め、社名を「リージョナルフィッシュ」と命名した。弊社は京都大学と近畿大学の共同研究から生まれたベンチャー企業であり、京都大学の有するゲノム編集技術をはじめとした品種改良技術と、近畿大学の有する完全養殖技術を導入している。現在、多数の水産物の開発パイプラインを持ち、次々と新品種の作出に成功している。まずは、量産化済みのマダイの販売を開始していく。


■オープンイノベーションによる成長を志向
日本の水産市場は縮小傾向にあることから、国内の水産分野は競争領域ではなく、協調領域であり、国内のプレーヤーが一丸となって海外勢に対抗していくべきとの認識を持っていた。そこで、創業当初より、技術を持つ企業、アカデミアなど研究機関、自治体との連携、すなわちオープンイノベーションにより研究開発および事業開発を推進した。

大学や研究機関といったアカデミアとともに、ゲノム編集領域での共同研究を進めている。ゲノム編集は海外発の技術であることから、国内のアカデミアで水産物に対して当該技術を適用している例は少なく、また個々の研究機関でベンチャー企業を立ち上げるよりも、共同で開発および事業化を進めた方が効率的であると判断し、同志を募った。現時点において、10以上の研究機関との連携が進んでいる。

技術を持つ企業とともに、スマート養殖領域での連携を進める。新品種の作出そのものにより、効率化による原価低減または高付加価値化による売価増加が実現し、養殖事業者の利益改善が見込まれる。ただし、実際に新品種を養殖する際には、水産事業者が30年間で約3分の1にまで減少していることを考えると、省力生産することが必要となる。また、最適な養殖環境で飼養することで新品種のパフォーマンスを最大化することが可能である。このため、弊社では、技術を持つ企業と養殖事業者、計20社以上と提携し、AI /IoTによる省力生産、循環式陸上養殖による生産効率向上を企図した開発を進めている。特に株式会社荏原製作所とは、循環式陸上養殖システムの開発で提携しているが、社内公募で弊社との協業メンバーを募り、45人を超える応募者の中から陸上養殖専門のチームを作っていただいた。意欲あるチームが取り組むため、対応がスピーディーでかつアイデアや技術を積極的に提供し、協業や共同研究を力強く推進いただいている。

上記のような共同研究や業務提携から、さらなる連携強化を進めるため、2019年4月創業後、同年12月がシードファイナンスとして、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ(NTTグループとの連携)、株式会社荏原製作所などからの総額2億円出資、2020年8月にシリーズAファイナンスとして宇部興産株式会社などからの総額4億円出資を受けており、順次、資本業務提携へと移行している。これにより中長期的な協業が可能となっている。


■大学発の研究開発型ベンチャー企業はどうあるべきか
大学発のベンチャー企業の場合、大学の研究者が兼務して、ベンチャーでの経営や研究開発を担うことが多い。また、研究開発に取り組む場合、上市までに時間がかかって当然という雰囲気がある。その構造から、研究開発が予定通りに進まない、またはそもそも上市まで先の長い開発計画を設定してしまうことが多いと推察する。弊社はBeyond Next Ventures株式会社を中心にベンチャーキャピタルからの出資を受けて、創業5年という短期での上場を目指していること、また、ほとんどの経営メンバーや研究メンバーが専業であることから、当初計画通り、急ピッチで開発しなければならない内圧と外圧が生まれ、良い意味での「危機感」を持って研究開発に取り組んでいる。その結果、早期に研究で成果を上げることができている。大学発の研究開発型ベンチャー企業が競争力を持つためには、この「危機感」を醸成させる仕組みが必要であると考える。