和歌山県新宮市に本拠を置く建設機械レンタル会社「キナン」が、地域貢献のため自転車ロードレース事業を手がけ、世界をまたにかける活動を展開している。地元の熊野地域で10年前から国際レース「ツール・ド・熊野」を開催し、毎年、日本やアジアのトップチームを招聘。さらに2年前、地元を拠点とするプロチーム「キナンサイクリングチーム」を立ち上げ、今シーズンはアジア各国のレースで何度も優勝・入賞を果たしている。過疎地域に賑わいと夢をもたらそうと始まった取り組みが、大きな実を結びつつある。(上野嘉之)

地元に恩返し

 キナンは昭和49年に建設機械の販売・修理会社として創業。その後、リース・レンタル事業を急伸させ、今では北海道から熊本県まで全国40カ所に拠点を構えるほどに成長した。

 創業者の角口賀敏(かどぐち・よしとし)会長は地域貢献への思いが強く、早くから地元へ恩返しする方法を探ったという。今から20年余り前、角口氏は自転車競技のプロ選手と出会ったことをきっかけに、自転車レース招致を決断。平成11年にアマチュアの3日間レース「3DAY ROAD 熊野」を初開催した。

 以降、設立したNPO法人によって毎年開催し、20年からは現在の「ツール・ド・熊野」とアマチュアレースを併催する形へと発展させた。角口氏が実行委員長に就いているほか、キナン社員や取引先関係者らもスタッフを務め、地域住民のボランティアらと共に運営を担っている。

 近年、大会は4日間の日程で開催され、観戦者やアマチュアレースの参加者を含め1日あたり1000人ほどが来訪。過疎化が進む熊野地域に交流人口の拡大や経済効果をもたらしている。レースの模様はインターネットのライブ中継で国内外へ発信している。

 このほか、愛知、三重、岐阜など中部地方全体で自転車競技を盛り上げようと、愛知県を中心にロードレースの年間シリーズ戦「キナンAACAカップ」を開催。若手選手の登竜門となる場を創出している。

プロ化3年目で快進撃

 今年6月4日、和歌山県太地町のくじら浜公園で開かれたツール・ド・熊野2017の表彰式。和歌山、三重両県を舞台にステージレース形式で争われたこの大会で、キナンサイクリングチームは2年連続で団体総合1位に輝き、チームの地元に錦を飾った6選手が晴れやかに手を振った。

 ただ、自転車ロードレースでは団体よりも個人総合優勝の方が価値が高いとみなされる。今大会でキナン勢の個人総合成績はマルコス・ガルシア(スペイン)の3位にとどまった。加藤康則ゼネラルマネジャー(GM)は「来年こそ個人総合を取りたい」と決意を新たにした。

 今季、日本人7人、外国人4人で活動するキナン勢は、国際自転車競技連合(UCI)の公式レースで快進撃を続けている。2月のツール・ド・フィリピン(フィリピン)でキャプテンのジャイ・クロフォード(オーストラリア)が個人総合優勝、3月のツール・ド・とちぎ(栃木県)ではクロフォードが個人総合2位、チームは団体総合1位に輝いた。

 6月のツール・ド・コリア(韓国)では団体総合2位を獲得、そして7月のツール・ド・フローレス(インドネシア)ではトマ・ルバ(フランス)が個人総合優勝、チームも団体総合1位を獲得する完全制覇を成し遂げた。現在、UCIのアジアでのチームランキングは約100チーム中10位につけている。

 かつてはアマチュアとして細々と活動していたが、プロ化へと舵を切って3年目。チーム広報担当の福光俊介さんは、現在の体制や成績について「想定よりもかなり上へ進んでいる」と好感触を明かす。まだ助っ人外国人を主軸とするチーム編成だが、加藤GMはチームの日本人選手育成を重視しており、将来はオリンピックや世界選手権で活躍させることも視野に入れている。

年間数千万円を拠出

 キナンサイクリングチームの活動には、多数の機材スポンサーが協力。例えば自転車のカーボンフレームはヨネックスから、選手のウェアはスポーツ衣料メーカーのチャンピオンシステムから供給を受けている。

 一方、金銭面はほぼキナン1社で支援している。同社の年間売上高は200億円規模で、大企業ほど資金が潤沢ではないが、自転車チームの運営費に年間数千万円を拠出するほか、大会への協賛金も担っている。

 角口会長は平成22年から「日本建設機械レンタル協会」の会長として業界を牽引するなど多忙だが、チームが出場する国内の主要レースには自ら足を運んで激励しているという。また毎年、ツール・ド・熊野の開幕直前にはレースクイーンと共に和歌山県庁を表敬訪問してPRに務めるなど、自転車競技振興と地域おこしへの貢献は物心両面で多大だ。

「陸の孤島」に転機

 新宮市は名古屋からも大阪からも遠く、かつては「陸の孤島」そのものだった。昭和期に4万人を超えていた人口は、農林漁業の衰退もあって、今では2万人台にまで落ち込み、高齢化も進んだ。ただ、紀伊半島をグルリと一周する構想の高速道路「紀勢自動車道」が平成26年に三重県尾鷲市まで開通し、名古屋方面への所要時間が大幅に短縮。これを受けて企業誘致、観光振興、農林漁業の再興など産業・経済発展への機運が高まり、新宮市は27年に産業振興促進計画を策定して取り組んでいる。

 こうした環境の変化を捉え、キナンでは来年のツール・ド・熊野で観戦ツアーを企画し、観光客をより多く呼び込もうとのアイデアも浮かんでいる。

 今春にはキナンサイクリングチームのファン組織も発足。名古屋や三重からの登録も多いという。「来年こそツール・ド・熊野で優勝して地元やファンの皆さんに喜んでもらいたい」。夢は膨らむばかりだ。