平成13年の大教大付属池田小(大阪府池田市)の児童殺傷事件から8日で24年。事件を機に安全対策が強化されたはずの学校ではいまなお不審者侵入事案が後を絶たず、先月には東京都立川市の小学校で児童の母親に呼ばれた男らが教職員を負傷させる事件が起きた。長女の本郷優希さん=当時(7)=を失った父、紀宏さん(60)は「一人一人がもっと、それぞれの立場から、子供たちを守るのは自分たちだという強い意識を持ち、具体的な対策を備え、行動につなげる必要があるのではないでしょうか」と話す。(木村さやか)
24年前。児童8人が刺殺され、教員を含む15人が重軽傷を負った凶行は、犯人が校内に侵入してわずか数分間に起きた。明確な悪意を持つ不審者の侵入も想定した危機管理が学校現場の喫緊の課題となり、安全対策の強化は一定進んだ。だが紀宏さんはこういう。
「学校現場だけにその責を負わせ、特定の誰かを責めるのは違うと思います」
事件後、池田小は高さ約3メートルのフェンスに赤外線センサーをめぐらせ、多数の防犯カメラを設置。来校者は職員が確認してオートロックの扉を操作、IDカード着用の上で入校が許可されるようになった。しかし、すべての学校で同様の対応ができるわけではない。
「教職員や保護者だけでなく、地域の人を含む『大人の目』が重要。不断のチェックと改善を重ねるのも、行政や地域と一体となり実施すれば、もっと進むのではないかと思います」
事件以来、紀宏さんは求めに応じて自身のつらい体験を語り、安全な社会づくりを訴え続けている。その度、取り上げるのが直近の学校への不審者侵入事案だ。「今もそんなにあるんですか」と驚かれることが多く、「まだまだ社会全体の意識は希薄だ」と力不足を痛感するという。
笑顔で生きていい
「娘に何かあったら、絶対に自分が駆けつけて守ってやれる」。24年前までは、紀宏さん自身にも、そんな〝根拠のない自信〟があった。だが病院に駆けつけたとき、優希さんはすでに息絶えていた。紀宏さんは激しく自分を責め、生きる意味が分からなくなり、「優希のそばに行きたい」とまで思いつめた。
踏みとどまれたのは、優希さんのきょうだいの存在があったから。事件をなかったことにできるわけではないが、きょうだいにはできる限り「普通に」、生きる喜びや楽しみを感じてほしい−。「笑顔で生きていい」と伝えたくて、花の名所を歩き、新緑の山に登り、話題のスポットを訪ねては、笑顔の写真を撮って交流サイト(SNS)に投稿するようになった。「きれいだね」「すごいね」。ささやかな喜びを優希さんと共有すると、優希さんの弾けるような笑顔を感じる。
一方で、紀宏さんの中には24年前から止まったままの時間がある。「薄い紙の片面は笑顔だけれどその裏側は真っ暗で、底なし沼に落ちてしまいそうな感じ」。冷静に俯瞰(ふかん)して見ると苦しくなるから、17年前に始めたボクシングで「自分を取り戻している」と明かす。
努力続ける
優希さんの姿を胸に、大阪・関西万博の会場にも行った。好奇心旺盛な優希さんなら、あれもこれも−と足を伸ばしただろうと想像し、たくさん写真を撮った。「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマの万博。目を輝かせる優希さんを感じるとき、確かに「いのち」の輝きが感じられる。
「二度と悲しい事件を起こしてはならない」
つらい経験を語っても、安全な社会づくりは一朝一夕で成るものではない。それでも、できる限りの努力を続けていくつもりだ。優希さんやきょうだい、子供たちの笑顔が広がるように。


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