任意の自動車保険の保険料を決める際の目安となる「参考純率」が14年ぶりに引き下げられた。車種によっては値上げとなるケースはあるが、平均すると8%の引き下げとなる。実際の保険料では数千円相当の値下げだ。背景にあるのが車のハイテク化による事故の減少だ。自動車メーカーがしのぎを削る車の安全性能は今後も上昇する見通しで、保険料のさらなる値下げに期待したいところだが、保険料は変わらないとの声も。なぜか。

減り続ける事故

 警察庁によると、交通事故の発生件数は平成16年の95万2720件をピークに下がり続けており、直近の28年は49万9201件まで減少している。

 大きく寄与しているのが車の安全性能の向上だ。特に近年は自動ブレーキなどを標準装備する「先進安全自動車」(ASV)が普及。国土交通省の「ASV技術普及状況調査」によると、23年に1.4%だった自動ブレーキの装着率は39.9%にまで上昇した。ほかにも、バックカメラは13.9%から34.3%に、車線逸脱警報装置は0.8%から18.2%に増えた。

 事故が減れば、基本的に保険会社の支出は減る。そうなれば、保険料も安くすることができる。損害保険料率算出機構も「運転者の安全運転を支援するシステムを搭載した自動車の普及が進み、事故が減っていることが保険金減少の背景にある」と分析している。

新たな“費用”の拡大

 それでは、このまま車の安全技術が向上すれば、自動車保険は値下がりを続けるのか。

 東京海上日動火災保険の担当者は「車の安全性能はさらに向上する見通しで、事故は減っていくだろう」と話す。実際、自動で車線変更をしたり、手をハンドルに添えるだけで、目的地に向かう自動運転車の開発が進められている。

 しかし、保険料については「あまり変わらないのではないか」と話す。車の性能が向上するのに伴い、修理費が上昇しているからだ。

 自動ブレーキや車線逸脱警報装置などは、車の周囲にカメラやセンサーが取り付けられることになる。そのため、事故が起きたときの修理費が高騰する傾向があるのだという。

 件数は減っても、1回の事故で支払う保険料が大幅に増えれば、保険会社の負担も増える可能性があるのだ。

責任の所在はドライバー?

 さらに自動車の高度化が進むと、自動車保険の概念が大きく変わる可能性もある。自動運転の車で事故を起こした場合、責任の所在が分かりにくくなるためだ。

 インターリスク総研の蒲池康浩上席コンサルタントは「今の制度ではドライバーが事故の責任を負うが、運転に関与する度合いが小さくなれば、自動車メーカーも責任を負う可能性がある」と話す。運転が完全に自動化されれば、保険も個人が加入するのではなく、メーカーが加入する形に変わるかもしれないのだ。 

 こうした中、保険会社が最も警戒しているのがサイバー攻撃だ。悪意を持ったハッカーがシステムに入り込むことで、車を遠隔操作することが懸念されているのだ。

 蒲池氏は「今の車では一度に発生する被害は限定的だが、大規模なサイバー攻撃が仕掛けられれば、これまででは考えられないような甚大な被害が発生する恐れがある。そうなれば、いち保険会社が賄えるリスクではなくなる」と話す。

 同様に被害が甚大な地震保険は、国と保険会社が共同で保証する仕組みがあるが、自動運転へのサイバー攻撃も、こうした仕組みが必要になる可能性があるのだ。

 政府は今年度中にも自動運転実現に向けた制度整備の方針(大綱)をまとめる予定にしている。この中で、事故時の責任の所在などについても一定の考え方が示される見通しだ。(経済本部 蕎麦谷里志)