「第九を超える日本人の合唱曲をつくろう」。男声コーラスグループ「ボニージャックス」の西脇久夫氏(81)が発案し、作家のなかにし礼氏(78)が作詩、作曲家の三枝成彰(しげあき)氏(74)が作曲したオラトリオ「ヤマトタケル」が25日、大阪府羽曳野市で市民合唱団によって再演される。東京・両国国技館での「1万人コンサート」など平成元年から10年間、毎年上演された同曲の約20年ぶりの復活公演。三枝氏はリハーサルから駆け付けて合唱団を激励し、プレトークで同市ゆかりの倭建命(やまとたけるのみこと)の魅力などについて語る。(川西健士郎)

 オラトリオは、宗教的、道徳的題材を扱ったバロック音楽の楽曲形式。独唱や合唱、管弦楽で題材の魅力を表現する。

 「ヤマトタケル」の制作は、フォーク、民謡、童謡などを歌い、各地でアマチュアコーラスグループを指導してきた「ボニージャックス」の結成30周年に合わせ、西脇氏が発案した。

 「宇宙創生の壮大な時の流れや、ヤマトタケルの人間味あふれる物語が描かれた『古事記』の神話世界を音楽にする夢を温めていた」と振り返る。西脇氏の依頼を受けた三枝氏は「山形県でのコンサートの際、一緒になった寝台列車の中で西脇さんに夢を打ち明けられた。壮大すぎて実現するとは思いませんでした」と笑う。

 しかし、夢が本物と知った三枝氏は、「天孫降臨」からヤマトタケルの「誕生」「西征」「東征」「暗雲」「昇天」と続く全6楽章を半年間、全身全霊をかけて仕上げた。楽譜の重量は20キロに及んだという。それまで先鋭的な現代音楽を中心に作曲していた三枝氏は作曲の感想をこう語る。

 「毎日楽譜を書いていたが、とにかく楽しく、自分も情緒におぼれることを美徳とする日本人の一員なのだと再認識した。作曲人生を大転換させた作品です」

 初演は平成元年4月28日の両国国技館。アマチュア合唱団約5千人と、競争率12倍のチケットを手にした約5千人の観客で埋まった。演奏は、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と東京交響楽団の2つのオーケストラが担当。その後も大規模コンサートが実現したが、スポンサーの撤退などで19年前を最後に公演機会がなくなった。

 ヤマトタケルのものとされる古墳のある羽曳野市の市民合唱団は18年、三枝氏から楽譜の無償提供を受け、「ヤマトタケル」の歌声を響かせたが、披露できたのは2時間半の大曲のごく一部。以降、毎年開催される羽曳野音楽祭などでレパートリーを増やし、「全曲演奏」という夢への階段を着実に登ってきた。

 「第九とは比較にならないほど長大で、難しい曲をよくここまで仕上げてくれた。ヤマトタケル伝説ゆかりの地で市民合唱団が引き継いでくれることを心から喜びたい」

 三枝氏は、市民らの頑張りをそうたたえ、公演を見守る。公演は午後1時から同市のLICはびきので行われるが、チケットは完売している。

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 【倭建命と百舌鳥・古市古墳群】 古事記によると、三重県の能煩野(のぼの)で死を遂げた倭建命は白鳥(しらとり)になり、河内の志幾(しき)に舞い降りた後、天に飛翔した。宮内庁は、羽曳野市の白鳥陵を陵墓に指定する。孫の応神天皇を被葬者にする誉田御廟山(こんだごびょうやまやま)古墳とともに古市古墳群を構成する。ひ孫の仁徳天皇が被葬者に指定される大仙陵古墳は隣接する百舌鳥(もず)古墳群にあり、倭建命は両古墳群の始祖的な存在とされる。オラトリオ「ヤマトタケル」の羽曳野公演は、百舌鳥・古市(ふるいち)古墳群の世界遺産登録へ弾みをつける狙いがある。