韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の脱原発政策が早くも混乱している。政府が6月27日の閣議で、新古里(シンコリ)原子力発電所5、6号機の工事を一時中断し、社会的な議論を経て工事の是非を判断することを決めた。原発を運営する韓国水力原子力(韓水原)にとりあえずの工事中断を求めたところ、韓水原の理事会開催を労組などが会場封鎖で阻止。その後、理事会は別の場所で奇襲的に開催して工事中止を決定して対抗した。エネルギー政策の冷静な議論が求められる中、場外乱闘が目立っている。

会場封鎖と奇襲理事会

 「新古里5、6号機をめぐる社会的な合意を導き出す」

 文大統領が6月19日、南東部の釜山(プサン)郊外で運転を終了した古里(コリ)原発1号機で演説し、脱原発を宣言した際にこう発言したのが発端だ。政府は同27日、工事進捗率約3割の新古里原発5、6号機の工事を一時中断し、公論化委員会を構成して市民陪審員が原発工事中断の是非を判断することを閣議決定した。それを受け、産業通商資源部が韓水原に工事の一時中断の履行協力を求める公文書を送付していた。

 韓国紙・東亜日報(日本語電子版)によると、7月13日に慶北慶州市の韓水原本社で理事会を開こうとしたが、工事中止に反対する労組と新古里周辺の住民らが本社1階ロビーに集結して「建設中止絶対反対」と叫び、正門から非常任理事らが入ろうとするのを阻止。労組関係者らが「働き続ける職場をこのように捨てるわけにはいかない」と主張し、出入りを封鎖したため理事会の開催は見送られたという。

 韓水原の理事会も負けてはいない。翌14日午前8時半、本社ではなく同市内のホテルで理事会を招集。在籍理事13人のうち12人が賛成し、工事中断を決定した。同紙によると、前日午後から理事に電話やメールで午前9時までに出席を要請し、労組や地域住民の油断をついた奇襲作戦に打って出た。

 韓水原側は「緊急理事会の開催が決定の信頼性を傷つける恐れはあったが、速やかに公論化することが国民の憂慮解消に良いと判断した」と主張。これに対し労組側は「今回の決定は軍事独裁時代なら可能な奇襲拙速決定」と批判し、「泥棒理事会の決定に対して効力停止仮処分を申請する」などと怒りはおさまらない。

社会的な合意

 中央日報(同)によると新古里5、6号機には、すでに投入された工事費だけで1兆6千億ウォン(約1600億円)。洪楠基(ホン・ナムギ)国務調整室長は「すでに執行した工事費と補償費用は計2兆6千億ウォンにのぼり、工事を永久に中断すれば地域の経済に大きな影響を及ぼす」と指摘した。ただ、そうしながらも同氏は「公論化を通じて社会的な合意を引き出すのが望ましい」と主張したという。

 社会的な合意は、公論化委員会が選定する市民陪審員団による公論調査の方式で3カ月かけて打ち出す。政府の公論化委は工事中断の是非の決定ではなく、アンケートや公聴会・討論会の開催、最終判断を下す市民陪審員団の構成と運営などだ。

 公論化委員会は7月24日に委員長と委員を選任。李洛淵(イ・ナクヨン)首相から委嘱状を受け取り、さっそく初会合を開いた。幅広い意見をとりまとめて市民陪審員を選定し、10月21日前後に結論を出す方針。ただ、朝鮮日報(同)によると、原発賛成派と反対派の各団体の意見を反映して最終的に選定したが、原子力関連の専門家は一人もいないという。

結論はそのまま受け入れ

 文政権の脱原発政策に対し「性急だ」との指摘が出る中、国家的なエネルギー政策の転換をこのように決定していいのだろうか。中央日報(同)は「学界では政府が原発建設のような長期的な視点と専門性が必要な事案を一般市民の決定に任せたのは適切ではないという指摘もある」とした上で、「5年以上かかる発電所の建設は、政策が一度誤って執行されれば電力の需給に長期間の支障をきたす」とした専門家のコメントを掲載した。

 東亜日報(同)は、25年間にわたる公論化の過程を経て原発閉鎖決定を下したドイツや、5回の国民投票を通じて脱原発を決定したスイスの例を挙げ「原発建設を市民陪審員が3カ月もならない期間に理解し、中止するかどうかを判断するように言われるのは、人気投票と変わらない」と警鐘を鳴らす。

 それでも洪国務調整室長は「導き出された結論はそのまま受け入れたい」と表明したといい、波乱含みのスタートとなった韓国の脱原発の動きはこれからも曲折が予想される。