朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)に対する弾劾決議案が国会を通過した2016年12月。韓国紙中央日報は有力候補へのインタビューをはじめた。第1弾は文在寅(ムン・ジェイン)だった。

保守陣営猛反発

 記者 「あなたが大統領に当選したとしよう。そしていま、北韓(北朝鮮)も行けるし米国も行けるならどこへ先に行くつもりか?」

 文 「躊躇(ちゅうちょ)せず言いたい。私は北韓に先に行くつもりだ。ただ、事前にその妥当性について米国、日本、中国に十分説明するつもりだが」

 文のこの発言に保守陣営は猛反発した。かつての左派から保守に転じた元京畿道(キョンギド)知事の金文洙(キム・ムンス)は「国家の危機的状況下で親北朝鮮的な発言は自制すべきではないか」と文を批判した。

 4月19日のテレビ討論会で保守系の「正しい政党」候補の劉承●(=日へんに文)(ユ・スンミン)は文にこうかみついた。

 劉 「北韓はわれわれの主敵か」

 文 「それは大統領(になろうという人)が言うべきことではない」

 劉 「政府文書には北韓が主敵とされている。国軍(韓国軍)統帥権者になろうとするものがそれを言えないのか」

 04年7月11日、現職の大統領府社会文化首席秘書官だった文は2泊3日で北朝鮮を訪れた。公務ではなく「離散家族」の一員として北朝鮮にいる叔母、姜(カン)ビョンオクに会うためだった。

 朝鮮半島には、1950年に勃発した朝鮮戦争によって南北に引き裂かれ、生死すら分からずにいる離散家族がいる。2005年の調査では全体人口の1・5%、韓国だけで71万人いた。そのなかで親がまだ北朝鮮に残されている人は4万8千人、子息が北にいる人は7千人、夫、または妻と離れ離れになっている人も4千人、残りは親戚同士だ。

 新婚初夜、夫が戦場に駆り出され、互いの生死も知らずにいる夫婦もいる。

 文の両親も1950年12月、朝鮮戦争中に肉親のほとんどを北朝鮮に残したまま咸鏡南道(ハムギョンナムド)興南(フンナム)=現在の咸興(ハムフン)市興南区域=から米軍の武器輸送貨物船に乗って韓国に逃れた離散家族だ。

 《避難するとき両親は2〜3週間後には戻るつもりで何にも持たずに避難の途についた。父方の祖父は兄弟6人いるが全員北朝鮮にのこった。母方の親族もだ。(大韓民国が問い、文在寅が答える)》

 それから2年後の53年1月24日、文は避難先の韓国慶尚南道(キョンサンナムド)巨済(コジェ)で生まれた。

野党追及に沈黙

 北朝鮮は韓国の離散家族との再会や手紙のやり取りの要求は聞き入れず、気が向いたときだけ1度に100人を厳選し、これまで20回ほど南の家族に会わせた。離散家族の多くが高齢でどんどん亡くなっていることから南北ともに高齢者を優先することにした。

 ところが、2004年、北朝鮮が提示した「生死確認候補者名簿」には55歳(当時)の姜ビョンオクが含まれていた。朝鮮戦争終了後現在まで離散家族再会に選ばれた北朝鮮側の約2千人のうち、60歳未満は2人だけだ。

 姜は、韓国にいる姉、姜ハンオク(女、79歳)とおい、文在寅(男、74歳)を捜していた。確認の結果、姜が捜している74歳の文在寅は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の現職の社会文化首席秘書官であることがわかった。

 しかし文は当時51歳。野党は文が年齢を偽ってでも叔母と会おうとしたのではないかと反発した。

 韓国大統領府は「北側の単純ミスだ」「最初は間違っていると思ったが、文首席であることを確認した」と釈明した。

 12年の大統領選挙で保守系の野党セヌリ党側は離散家族としての文の訪朝をこう持ち出した。

 「文候補(当時)が生まれたという事実すら知らないはずの叔母が、再会を要請したというのをどう考えるべきか」

 「北朝鮮が大統領側近の文首席に関する資料を調査し、文首席に接近する方法として離散家族再会を推進したのではないか」

 保守側は、文が北朝鮮での3日間、何をしていたかについても釈明を強く求めたが、文は沈黙を守ったままだ。

   =敬称略   (龍谷大学教授 李相哲)

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