その時、ひょっとして指揮官は「大鋸屑(おがくず)を鋸(のこ)でひこうとした」のかもしれない。いや、役者の顔ぶれをみると、その判断は当然のことなのか。誰だって“憶する”(微妙な気後れ)場面なのだから…。

 六回二死一、三塁で好投していた青柳に代打西岡…。もう1点がほしい。とにかく1点が…。

 少し説明する。

 40日前の6月30日のヤクルト戦(甲子園)。先発した青柳は5回3安打4失点で阪神は5年ぶり8連敗…。この試合は1−0の五回に青柳が突然乱れた。3死球1四球、打者10人で3長短打で金本監督が手を打つ前に突然崩れた。この1イニング3死球はプロ野球タイ記録(10人目)だった。

 信頼が裏切られたときの失望はやや怒りを伴う。金本監督は「突然ああなるのは成長がないと判断せざるをえない…」と唇をふるわせた。

 あの時以来のマウンドである。しかも前夜、岩貞が三回に1イニング5四球という“怪投”を演じた。またか…というおびえが走らないハズはない。

 つまり結果的に前夜、岩貞には未練を残して煮え湯を飲み、この夜は青柳をいささか早く見切ってホゾを噛んだのか。

 自己啓発の権威デール・カーネギー(米心理学者)はこれを「こぼれたミルクにこだわる人と新しくくみ直せる人の微妙な違い」と評した。それは別の表現をすると「大鋸屑を鋸でひく」となる。

 試合前、トラ番西垣戸理大は青柳投手について「ああみえて結構、肝がすわっているんですよ。だから彼は緊張はしていたと思いますが、フワフワとした感じはなかったと思います」と指摘していた。

 午前のチーム宿舎をマークしたルーキー竹村岳は「メッセンジャー投手が子供さんをつれてリラックスした表情でした。こういう気分のスイッチのオンとオフがとてもいい活力になると思います」という。

 だが、第1戦でストレスのたまる敗戦を引きずっているチームとしては、こういう時こそ破天荒なチームの空気を醸成するベテランの存在が必要だが、糸井はまだ2軍…。西岡もフルスロットル状態ではない。福留が一人、気を吐く。意気消沈しかかると福留が九回にも長打と、がらりと空気を一変させた。トドのつまり「黙って俺についてこんかい!」というのをみせてくれたから、ロジャースの勝ち越し犠飛が出た。

 現役時代の岡田彰布(現解説者)はこんな時、すぐ全員集合! をかけて派手な焼き肉パーティーをやっていた。つまり…この夜、グラウンドで福留がその役を必死で演じたのである。

 だからといって、ベテランの福留に毎晩、こんな“フル残業”を求めるのは酷である。

 歯ぎしり地団駄…皆様ご同様の苦い酒が福留のハッスルで美酒に変わったけれど…もっと楽勝を願いたい。こぼれたミルクに執着する人生とはおさらばしたいョ。

 そういえば高知はよさこい祭りだ。カラッといこうぜ。♪言うたちいかんちゃ おらん国の池にゃ 潮吹く魚が泳ぎよる!