ロンドンで暮らしていると、ここは「スパイ天国」だとつくづく感じる。
ロシアや中国の諜報員が好き放題に活動しているという意味ではない。むしろ英国の防諜能力は世界一級との評価が一般的だ。
かつて大英帝国が全世界に版図を広げた決め手の一つは、情報の重要性を認識し、十分に活用していたことだろう。それだけにスパイの存在は、一般国民の間でも小説や劇映画、ノンフィクション、博物館での展示など多種多様な形を通じて広く浸透している。
例えば、以前に当欄で紹介した、英情報機関ゆかりの旧陸軍省ビルで開業したラッフルズ・ホテルでは最近、歴史上の女性スパイたちに着想を得たアフタヌーンティーを始め、好評を博しているという。
筆者もご相伴にあずかる機会を得たのだが、提供された菓子の一つ一つに、ナチス・ドイツ占領下のフランスで英特殊作戦執行部の諜報員として活躍した米国人のバージニア・ホールや、ルーマニア系英国人のベラ・アトキンスらの名前が冠せられている。
スパイとは、まさに「英国文化」の一部なのだ。かつては英情報工作の中心地だったホテルの重厚なラウンジで大勢の人々がスパイ談議をしながら紅茶を楽しんでいる様を目にすると、そう感じずにはいられなかった。(黒瀬悦成)


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