■テロ、内政上の混乱を経験して
 
 「地政学的リスク」。金をはじめとする貴金属の値動きを見るとき、考慮に入れなくてはならない重要な要素といってよいでしょう。何か、リスキーな香りがする響きとして伝わってきませんでしょうか?今では、政治だけではなく、経済情勢を見る上でも欠かせない言葉となっています。
 
 筆者は、以前米国に駐在したことがあります。それは、2001年6月のことでした。駐在先はニューヨーク。そうです。着任から3か月後、同時多発テロが発生しました。発生後の3か月くらいは、表現できない気分の悪さが続いたことを記憶しています。発生の2日前、マンハッタンの東側にあるクイーンズボロー橋を歩いて渡ったのですが、その時世界貿易センターが、秋晴れの空を背景にくっきりと見ることができました。二日後には、そのビルは跡形もなくなっていました。米国でそのようなテロ事件が起こるとはまったく予想もしておらず、発生したときは、どうしてこんなことが起こってしまったのか、混乱の中で情報を集める毎日でした。テロはまったく予想がつきません。
 
 一方で、1989年6月4日、天安門事件が発生したとき、筆者は中国の内モンゴル自治区のフフホト(中国語表記は呼和浩特)という都市にいました。このときは、内陸を旅行しており、移動していく中で次第に緊張感が高まっているのを感じていたため、ある意味で何らかの衝突が起こることを直感的に感じていました。このようにテロと、内政上混乱(内戦とするのか、内乱とするのか判断が難しいので、ここでは内政上の混乱と表現しておきます)は発生の仕方に違いはありますが、完全な予測が不可能な事態であり、まさに「地政学的リスク」の最たるものかと思います。
 
■貴金属の価格を左右する「地政学的リスク」
 
 さて、ここで上記の米国における同時多発テロが発生したときの金の値動きはどのように動いたのでしょう?以下は、ワールド・ゴールド・カウンシルのデータ及び統計です。これを見ると、テロ事件によって金が急速に跳ね上がることはなかったようです。この場合の「有事の金」としての役割は、小さかったようです。
 
 一方で、リーマンショック以降は徐々に価格が上がっていっていることがわかります。これを見ても、地政学的リスク、経済における大きなイベントなどがどのような金価格に作用するかを判断するのは大変難しいようです。地政学的リスクに対する判断の難しさを示しているかと思います。
 
経済環境の複雑化などにより、地政学的リスクを含めた投資の決定要因が多様化してきているともいえるかと思います。それにも関わらず、依然として投資の決定要因として、「地政学的リスク」は、重要な位置を占めている、考慮せざるを得ない要因であり、そしてそのリスクの発生後、すぐに他の要因を考え合せなければならなくなってきているというのが実情かと考えます。
 
■私たちの投資戦略に影響を与える「地政学的リスク」
 
 米国でトランプ政権が誕生し、いろいろな面で注目を集めています。今もシリア情勢、朝鮮半島情勢が緊迫してきているという状態です。「有事の金」として、金を購入する動きも見られます。米ソ冷戦時代とは明らかに異なる世界情勢が現れ、また変動要因も多様化する中、これからも「地政学的リスク」がメディアに登場したりする機会が増えることは間違いないでしょう。
 
 金は、豊かさの象徴、安定した富の象徴である一方で、不穏な動きがあったときのよりどころとしての富、という役割も果たしています。我が国も様々な問題を抱えていますが、世界情勢も「地政学的リスク」がいくつも立ちあらわれ、私たちの投資戦略に対して問いを投げかけ続けている、と言えると思います。しかし、繰り返しになりますが、金の価格にどう影響を与えるか、その判断は難しくなってきているといえます。
 
 今日は、金と地政学的リスクについて考えてみました。
 
【図の出所】World Gold Council Gold Data & Statistics
http://www.gold.org/statistics