米国の株式市場が下げ止まり、久しぶりにリスクオン相場が戻ってきたものの、ドル円相場は依然として上値が重く、1ドル=127円台を細く上下している。1ドル=131円台にまで円安が進んだ時には、このまま一気に円安が進むのかと思われたが、ここにきてマーケットは大きなトレンド転換を探っているようにも見える。外為市場の6月相場はどんな展開になるのか・・・。外為オンライン・アナリストの佐藤正和さん(写真)に6月相場の見通しを伺った。

 ――米国のインフレはピークを迎えた、という観測が拡大していますが?

 最近、盛んに指摘されるようになったのが「米国のインフレはピークを越えたのではないか」「FRBは年内にも利上げを停止するのではないか」といったハト派的なコメントが多くなったことです。米国の中央銀行に当たる「FRB(連邦準備制度理事会)」は、当初予想されていた急速な金融引き締めから、その速度を緩めるのではないか・・・。あるいは、年内にも利上げ停止か・・・、といった観測が増えてきました。

 実際に、個人消費の物価動向を示す4月の「PCEデフレーター」では年率で「6.3%」となっており、3月の「6.6%」から低下しました。価格変動の激しいエネルギーと食料品を除いた「PCEコアデフレーター」も年率で「4.9%」、3月の「5.2%」から鈍化しています。米国のインフレがピークをつけた可能性は否定できないかもしれません。

 加えて、様々な経済統計の面からも米国景気の鈍化が見て取れます。米国の景気指標が事前予想の値と実際に発表された数値が、上振れしたか、あるいは、予想を下回ったかを指数化したデータに、シティグループが算出している「エコサプライズ指数」というのがあります。

 統計の結果が事前予想とマッチすればプラスマイナス0となり、予想よりも悪化すればマイナス、好転すればプラスとなります。直近の指数で同指数は「マイナス0.13」となっており、直近の景気指標が徐々に悪化していることがわかります。景気が良かった昨年の11月には「プラス0.39」だったことを考えると、経済統計は明らかに悪化しつつあるとみて良いでしょう。

 ――FRBの金融政策は今後どうなるのでしょうか?

 実際のところ、エコサプライズ指数を見るまでもなく製造業PMI(購買担当者景気指数)やサービス業PMI、フィラデルフィア連銀景況感指数、さらには、住宅着工件数などなど、多くの指標が米景気の下振れを示しています。これまで2回実施したFRBの金融引き締め策は、確実に効果を上げていると言って良いでしょう。

 ただ、WTI原油価格が依然高止まりしているように、インフレ懸念はまだ払拭できていません。株式市場が大きく値を戻したものの、債券相場は底堅く、金利上昇に結びつかないために、ドルも127円台前後から上伸できていません。FRBの利上げスタンスに変化はなく、株価上昇も単なる「ショートカバー」の域を出ていない可能性が高い。

 6月3日に発表される米雇用統計でも、失業率が3.5%と前月比で0.1%の改善が予想されており、非農業部門の雇用者数も32万5000人と予想されています。42万8000人だった前月と比較すると下げてはいるものの、依然として高い数字です。

 いずれにしてもFRBの金融引き締め政策は今後しばらく続くこととなり、6月14日−15日に行われる「FOMC(米連邦公開市場委員会)」で「0.5%」、さらに7月のFOMCでも「0.5%」の金利上昇というシナリオに変化はないと思います。問題は9月のFOMCで、「0.25%」の金利引き上げにとどまるのか、あるいは金利引き上げそのものが停止されるのか・・・。今後の景気指標次第と言っていいでしょう。

 ――ECB(欧州中央銀行)も利上げ観測が囁かれていますが・・・?

 7月のECB理事会で「0.25%」の金利引き上げがあるのではないか、そんな報道をよく目にするようになりました。たとえばECB理事会メンバーのナーゲル独連邦銀行総裁は「7月に金利引き上げを開始し、年内に複数回利上げすべき」という見方を示しています。

 ラガルドECB総裁も、7月に金利引き上げを開始して9月末までに「ゼロをわずかに上回る」水準にする可能性をすでに示唆しています。ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシア産原油の輸入禁止、ウクライナ南部の港湾オデーサ封鎖によるウクライナ産輸入穀物の不足など、インフレ要因が控えており、今後の動向はいまだ不透明です。

 その他、中国では依然として「ゼロコロナ政策」が実施されており、北京や上海の一部でロックダウンが継続。世界のサプライチェーンに支障が出る状況になっています。急激な景気落ち込みを懸念して、中国政府もEV補助金など様々な経済政策を打ち出す予定のようですが、いまだ先は見通せません。

 ――日本銀行のスタンスに変化の可能性は? また、6月相場の予想レンジを教えてください。

 6月16日−17日にかけて日銀の「金融政策決定会合」があります。すでに消費者物価指数(CPI、4月)は2.1%となり、目標としていた2.0%を超えてきました。国内で6月に値上げが予定されている品目は、食品だけで3600に上ると報道されています(帝国データバンク調べ)。

 とはいえ、黒田日銀総裁は「2%がずっと来年も再来年も続く状況ではない」と発言。日銀の展望リポートでも、2023年度にはコアCPIの上昇率の中央値は「1.1%」に低下すると予想しています。日銀が金融緩和を転換する動きは当面なさそうです。岸田首相の支持率も高止まりしており、円安も日本の金融システムを動かすほどの影響力はいまのところなさそうです。6月の予想レンジは次の通りです。

●ドル円・・1ドル=125円−130円
●ユーロ円・・1ユーロ=132円−140円
●ユーロドル・・1ユーロ=1.04ドル−1.09ドル 
●英国ポンド円・・1ポンド=155円−162円 
●豪ドル円・・1豪ドル=89円−93円

 ――6月の為替相場で注意すべきこととは?

 やはり、一番念頭に入れておきたいことは、依然としてロシア軍がウクライナに侵攻して戦っていること。現在は、戦時下であり、どんなリスクが顕在化するかわからない、ということです。そんな中で、為替市場はいまのところ1ドル=127円台で推移しており、このまま円高に戻っていくようなことがあれば、米国のインフレは4月がピークだったことになると思います。

 とはいえ、今後のシナリオは依然として不透明です。とりあえず126円台に入ったら買っておく、というスタンスでいいのではないでしょうか。本来は125円台まで待ちたいところですが、チャンスは少なく難しいかもしれません。

 今回の一連の円安相場で多くの人が困っているのは、130円台以上のポジションを保有したままになっていることではないでしょうか。そういうケースでは、一部を決済するなどしてレバレッジを下げて、相場が戻るのを待つのがお勧めです。

 大きなポジションのまま放置しておくと相場が急変したときに自動ロスカットが働いてしまい強制的に手仕舞いになってしまうため、まずはレバレッジを下げて資金的に余裕を持たせること。少々の変動幅でロスカットにならないように「ポジション管理」を徹底しましょう。FRBの基本的なスタンスに変化はないのですから、いずれチャンスはやってくるはずです。(文責:モーニングスター編集部)。