ティー・ロウ・プライスは11月28日に「ティー・ロウ・プライス 米国オールキャップ株式ファンド」を設定し、運用を開始する。同ファンドと同様の運用戦略で運用する米国籍ファンドは1985年9月から約37年の歴史があり、モーニングスターレーティングで3年、5年、10年とも最高位の5ツ星を獲得している。また、定性評価のモーニングスター・アナリスト・レーティングでも3年連続「シルバー」を獲得している。同社日本拠点の取締役投資信託ビジネス統轄責任者である土居邦彰氏は新ファンドについて「目まぐるしく変化する市場環境が続く中、変化を敏感に捉え、企業規模や運用スタイルに足かせのない柔軟な運用アプローチを用いて幅広い収益機会を追求するファンドに対するニーズが高まっている」と設定の狙いを語る。また、運用に制限がないファンドで優れたパフォーマンスをあげるには、それを支える幅と厚みのある充実した運用調査体制が求められるが、「ティー・ロウ・プライスには、さまざまな市場環境を乗り越えてきた実績を誇る運用調査プラットフォームがある」と語っている。同ファンドの運用責任者であるジャスティン・ホワイト氏(写真)に、運用の実際について聞いた。同氏は、2021年にモーニングスターが選出する新進気鋭のファンドマネジャーに与えられる賞「ライジング・タレント賞」で、ノミネート3名に選ばれ、株式部門から唯一の選出だった。

 ――ファンドの特徴と強みは?

 当ファンドは、米国に上場する株式の小型株から大型株まで制約なく投資でき、また、グロースからバリューまでスタイルに縛られず自由に保有することができます。他のファンドではできないような、オポチュニティ(投資機会)を求めることができます。

 たとえば、グロース銘柄が有望と考えればグロース株に注力できますし、反対に、金利上昇局面では大きく調整する傾向のあるグロース株を売却し、相対的に有利なバリュー株に投資することもできます。このような自由度を持つファンドは、他にはなかなかないと思います。

 銘柄選定は4つの柱を中心に行っています。第1点は「企業の質」です。業界のリーダー、サプライヤーとしての勝ち組、あるいは、経営陣がしっかりしていてバランスシートが健全など、企業の質を重視します。

 第2に「業績予想の乖離」で、ティー・ロウ・プライスのアナリストの業績予想が市場のコンセンサスと乖離している銘柄を選びます。当社のアナリストは数千社の企業の業績予想を行っていますが、ウォールストリートの業界予想と比較して上方に乖離がある企業を選びます。市場予想と私たちの予想がどれほど離れているかが重要です。銘柄ごとに重視する指標は異なるため、収益や売上、受注件数、月間利用者数、フリー・キャッシュフローなど、企業ごとに重視すべき項目で市場予想をどれほど上回るか、その確信度はどの程度か、予想を上回る期間などを精査し、企業予想の乖離が上振れすると見る企業を選別していきます。

 第3は、「トレンド」です。たとえば、売り上げが5%の伸びだったものが、10%、20%と拡大していくか、利益率が改善しているか、あるいは、投下資本に対するリターンが改善できているかなど、業績のトレンドが上向いているところを評価します。

 第4は、「バリュエーション」です。バリュエーションは極めて重要です。全般的に上げ相場だった2010年代は高めのバリュエーションであっても利益が出たかもしれませんが、過去2年間は、どの水準のバリュエーションで投資を開始するかということが極めて重要な時期となりました。私たちはこのバリュエーションに注力したことが、昨年末以来の市場の急変調を乗り越え、良好なパフォーマンスを保つことができたと考えています。

 この4本の柱の全てを満たす銘柄は見つけにくいのですが、4本の柱のうち、しっかりしたプラスの要因を持っていて、マイナスを相殺してプラスが大きいと考えられる銘柄を選んでいきます。たとえば、現在の組み入れ上位銘柄の「VISA」は質が高く、非常に強固な事業基盤を持つ会社ですが、当社のアナリストの業績予測は市場予測を上回り、かつ、バリュエーションも割安です。同じく、「チャブ」のような損害保険会社は、インフレ高騰期、金利上昇局面で恩恵を受ける業種です。今、利上げ局面にある中で、損保業界は良い経営環境にありますが、追い風になっているにもかかわらず、株価水準はバリュエーションが割安な水準にあります。

 ――現在のポートフォリオの構成は?

 現在のポートフォリオ戦略は安全策を取っています。景気が底を打ったことが確認できれば、景気循環銘柄や景気回復によって業績が向上する銘柄を選んでいけるのですが、今のところ、景気循環銘柄への投資は時期尚早だと考えています。FRBの利上げが一巡して利上げが打ち止め、あるいは、利下げ局面に入るという見通しがないと、景気の転換点とはいいがたく、インフレの水準も高止まりしています。こういった不透明な環境ですので、オーバーウエイトにしているのはヘルスケア、エネルギー、素材関連などです。IT、ハイテク銘柄はアンダーウエイトにし、小型株も通常より組み入れ比率が小さくなっています。

 ポートフォリオはボトムアップの銘柄選択を積み上げています。ただ、マクロ経済の見方をオーバーレイとして使い、個別銘柄の積み上げで構築したポートフォリオが、マクロ経済の見方と合致して理に適っているかということを確認するようにしています。

 ――過去のパフォーマンスを振り返ると、不況期に他のファンドに優位なパフォーマンスが目立つ。下げに強いという運用の性格があるのか?

 このファンドは、好景気の局面でも不景気の局面でも、ほとんどの市場環境において一貫して良いパフォーマンスが出せるという投資哲学に基づいて運用ができていると思います。特に、自信を持っているのは、同じリターンを上げるのに取っているリスクが極めて低いということです。リスク調整後のリターンは、他のファンドと比較して非常に良い成績になっていることに注目していただきたいと思います。

 4本の柱を中心に銘柄選択を行っているので、柔軟かつ機動的にマーケットの変化に対応ができます。このように説明すると、そもそも上げ相場でも下げ相場でもパフォーマンスが良いなどという都合の良いファンドがあるのかといわれるのですが、実際に投資判断例で説明します。ファンドの運用のイメージをつかみやすいと思います。

 たとえば、私たちは「新型コロナウイルスの感染拡大」の初期段階から、コロナは短期間で終わるものではないという見通しに基づいて投資判断をしました。人々の生活やビジネスのやり方が大きく変わるだろうという想定のもとで、電子署名の「ドキュサイン」に投資しました。対面で署名することができなくなると、電子署名が大きく伸びるであろうと考え、企業調査を行ったところビジネスの内容もしっかりし、当社アナリストの業績予想が市場コンセンサスよりも高く、株価も割安だということで投資に踏み切りました。

 投資開始から6カ月後に、「ドキュサイン」のビジネスはかなり伸び、成長に一巡感がありました。それに対し、ウォールストリートの市場の予測はかなり強気になっていました。株価も3倍くらいになって割高な状態になっていました。「ドキュサイン」の企業の質そのものは変わらないのですが、2本目の柱の市場予測との乖離という点では当社と市場コンセンサスとの乖離が小さくなりました。3本目の柱のトレンドとしてさらなる拡大も期待しづらく、4本目の柱のバリュエーションが割高になったために売却を決めました。

 買いのタイミングも重要ですが、売りのタイミングも極めて重要です。4本の柱を使うと、いつ売るべきなのかということについても明確なシグナルを得ることができるのです。

 ――当面の運用の見通しは?

 現在は利上げ局面にあるので、慎重に運用しています。確実に避けている銘柄があります。第1に、財務的にレバレッジをかけている会社です。2010年代の利下げ局面や低金利の時代にはレバレッジをかけることで、3本目の柱の収益の成長要因が加速された環境でした。利上げ局面になると、レバレッジをかけた経営は逆風になります。

 また、1本目の柱の収益の質が悪いところを避けています。2010年代のような上げ相場の時にはPERが高くなっていても許容できるのですが、弱気相場では、4本目の柱の収益に見合ったバリュエーションになっているのか、中身を見て判断することがとても大事だと見ています。

 3番目は複雑な会社には慎重です。2010年代のように安定した経済成長で、インフレ率も低い時であれば、GDP成長率も2%程度と予測可先進国株式ファンドの残高増が際立つ、パフォーマンストップに「BR・ヘルスサイエンス」=DC専用ファンド(2022年10月)先進国株式ファンドの残高増が際立つ、パフォーマンストップに「BR・ヘルスサイエンス」=DC専用ファンド(2022年10月)能性が高く、企業経営もやりやすいのですが、現在では経営環境は様変わりしています。サプライチェーンは滞り、インフレ率も高まり、労働環境がひっ迫し人件費の管理も難しくなっています。こうなると複雑なビジネスモデルの企業経営だとなかなか人員を確保できなくなり、また、資材調達などで多くの取引先や複雑なルートで調達していると手当も難しくなります。そういった環境では複雑なビジネスモデルは避ける方が賢明です。このため、「アマゾン」や「ナイキ」などはアンダーウエイトとしています。

 ――最後に日本の個人投資家の皆様へのメッセージは?

 3つのメッセージがあります。まず、米国市場は魅力的な存在であり続けると思います。米国市場はダイナミック、かつ、イノベーションが活発な市場です。過去100年間をみても様々なテクノロジーの革新が行われてきました。当ファンドは、米国に上場している銘柄を投資対象にしています。今後も米国市場のダイナミズムやイノベーションをパフォーマンスに反映できるファンドとなっています。

 2つ目は、ティー・ロウ・プライスは、資産運用会社としてしっかりしたリサーチ基盤を持ち、運用力についての評価も高い会社です。1兆ドル以上の運用資産残高を持ち、1930年代から運用の実績があります。多くのアナリストが経営者との対話を続けて変化に目配りし、全ての市場をしっかり調査し、企業文化でもあるコラボレーションを通じて、その知見や分析はすべての運用関係者に共有されています。長期的なパフォーマンスが十分期待できる体制になっています。

 3つ目は、このファンドと、その運用に携わる私の決意です。お客様の期待を真摯に受け止めて運用に努めています。さまざまな米国企業の成長機会をとらえて、一貫して安定したリターンをあげてきた実績に注目していただきたいと思います。引き続き、一貫したリターンをあげ続けるよう努めてまいります。