エコカレッジ
人口減と高齢化──。ビジネスを展開するうえでは一見不利に思える「過疎地域」。だが、あえて過疎地に拠点を移し業績を伸ばした中小企業も存在する。法律、経済、医学などの専門書を扱うインターネット古書店「エコカレッジ」がそうだ。尾野寛明社長(30)が東京・文京区にあった会社を、島根県の山間部、人口約4000人の川本町に移したのは2006年10月のこと。その後、会社の売り上げは5倍に伸びた。

 エコカレッジを立ち上げたのは01年。一橋大の1年生のとき、授業で使う教科書のリサイクル販売を学生仲間6人ではじめた。その後、教科書のほか一般の専門書も扱うようになり、100人ぐらいが出入りする賑やかなビジネスサークルとなったが、やがてみんなが卒業する時期になると活動は下火になった。最終的に残ったのは大学院に進学した尾野社長ただ一人。廃業することも考えていた。

 中小企業研究で名高い関満博教授(現・明星大学経済学部教授)のゼミに入った尾野社長は、毎月のように島根県の中山間地域を訪れ、地方の産業おこしのケーススタディー調査をするようになった。首都圏で生まれ育った尾野社長にとって、地域振興のために奮闘する地元企業の経営者や、企業誘致に駆け回る行政の人たちの姿はまぶしく映った。

 「その後、川本町の現地調査で、町おこしに取り組むNPOの代表と知り合ったのをきっかけに、拠点を川本町に移転させることを本気で考えるようになりました」
 いまでこそ人口約4000人の川本町であるが、かつては商店が300軒以上ある、人口約1万2000人の町だった。それがいまでは駅前はシャッター通りと化し、唯一あった書店も04年に閉店。商店街再生の起爆剤として、何とか書店だけは再生させたいとの思いに触れた。

 「そのとき、『東京でしがないネット書店の社長をしていた』と思わずポロッと口にしたんですね。『東京ではなく、こういう場所でやったら面白いかもしれないですね』と、軽い気持ちでしゃべったところ、それが町の人の耳にとまり熱烈な勧誘を受けまして……」

 尾野社長が最初に川本町を訪れたのは06年7月。それからわずか3カ月後にはエコカレッジの本社を東京から川本町に移転させてしまった。「過疎地の可能性を自分の会社で試してみるのも悪くはない」との思いがあった。

「100分の1」の賃料

 川本町に会社を移転するにあたりまず驚いたのは、家賃の安さだった。東京では本を保管する10坪のスペースを借りるために10万円の家賃を支払っていたが、川本町で提示されたのは100坪で1万円。つまり100分の1の値段だ。地方暮らしを知らなかった尾野社長にとってこれは衝撃だった。
 「『敷金・礼金はおいくらなんですか?』と聞いたら、『はぁ? なにそれ』とのこと。カルチャーショックを受けましたね」

 インターネットを通じて古書の買い取り・販売をしている同社の場合、過疎地に拠点を置いたとしてもさしたる問題はない。物流サービスが発達した今日、本州の中なら配送料金に大きな差はない。にもかかわらず古本の保管費は格段に安く済む。古本ビジネスを展開するうえで、この利点は大きい。過疎地に拠点を移したことで、思いがけないアドバンテージを手に入れることができた。

 「中国地方の山間部に、意外なビジネスチャンスが転がっていたというわけです」
 低コストで本の保管場所を確保できるようになったことから、在庫量をしだいに増やしていった。当初、約1万5000冊だった在庫は、いまでは15万冊に膨れあがった。

 「おととし島根県雲南市のミシン工場跡に倉庫を集約しました。ここなら20万冊はストックできます」
 あつかう商品が増えたことで、それに比例して売り上げも伸びた。移転当初、年間の売上高は1000万円弱だったが、現在は約6000万円となっている。

 「賃料が安いことから『漬け物戦略』ができるようになったことも大きいですね。現時点において価値あるものを仕入れるのが古本屋のセオリー。でも、うちはそうじゃないものでも一括で仕入れられる。それを何年か寝かせておくと、また価値が上昇するものが出てきます。そうした先行投資ができるようになりました」

 ある一定時期に同じタイトルの書籍が中古市場に流入すると、価格は下落する。しかし2〜3年ぐらい寝かせておくと、マーケット内における供給量が減って価格が再び上がってくることがよくあるのだ。

デメリットは「情報」の遅れ

 ただ、拠点を過疎地に置くことのデメリットがないわけでもない。古い専門書を仕入れるにあたっての情報収集が遅れがちになることだ。尾野社長が1週間ごとに川本町と東京を行ったり来たりしているのは、情報収集のうえでそれが必要だからだ。

 「都市型の古本屋のほうが仕入れの部分で強いのは確か。でも、それにあまりあるメリットが地方にはあると思っています。たとえば行政、商工会、金融機関などの手厚いサポートを受けられるのもその一つ。過疎化が進み、若い人が少ないぶん、私のような若い起業家には親身になって支援の手を差し伸べてくれますからね」

 川本町と雲南市に実店舗を展開して絵本などの一般書の販売を行うほか、地元の飲食店を通じた「委託販売」もスタートした。このほか、「空き店舗活用アドバイザー」として企業誘致を進めるなど、ますます地域のなかに溶け込んでいる尾野社長。名刺には、「過疎と戦うインターネット古書店」との文字が記されている。

会社概要
●設 立 2001年7月
●所在地 島根県邑智郡川本町川本529-1
●TEL 0855-72-2760
●売上高 約6000万円
●社員数 9名
●URL  http://www.eco-college.com/