エイチ・エス・エー

フラットかつ自由な社風で13期連続増収の“社会的企業”

神奈川県小田原市に本社を置き、医療保険による在宅訪問マッサージや有料老人ホームの運営などを手がけるエイチ・エス・エー。「社会的企業」を経営理念に掲げる同社の最大の特徴は、フラットで自由な社内の組織づくりにある。田中勉社長はこう話す。

「単に利益を追い求めるのではなく、社会のためになるようなことをする組織がつくりたいという一心で起業しました。ですから普通の会社とはスタート地点の思想がまったく異なるのです」

社会のためになりたいという創業理念に基づき田中社長が出したひとつの答えが、現場スタッフが上司や役員に対し自由に意見を言えるようなフラットな組織づくりだった。社長をはじめとした幹部役職員からのトップダウンの指令はほとんど皆無で、すべての決定事項は各部署の関係スタッフがみな納得したうえでなければ承認されることはない、という仕組みである。

「何か新しい物事を決めるときは、全会一致でなければならないというルールを定めています。意見の違うスタッフ同士が納得するまで徹底的に話し合いをしなければなりません。したがって当社では会議やミーティングが非常に多いのが特徴です」

この掟は何と、社長を含めた経営幹部にも及ぶという。田中社長は「最近では私の言うことは10のうち1通ればいいほう」と笑う。

「会社の株式は私が所有していますが、発言権はみなと同じ一票。私の提案が良くなければ同意を得ることはありません。『自由に意見を言い合って議論しなさい』と言われたのでよく話し合って合意形成したのはいいものの、その現場での調整が社長の一声で覆ってしまうことはよくあること。しかしこれでは働いている当人たちは面白くありません。一生続けるかもしれない仕事を意義あるものにするには、自ら考え、ともに議論し、自分たちで物事を決めるプロセスが必要なのです」

確かに同社には会社規模に比べ会議室の数が多い。ボトムアップ型で自然発生的にミーティングが開かれ、全員が納得するまで議論が続けられる。そして修正された提案内容が管理者会議や役員会に諮られる──企業内民主主義のひとつの理想形である。

財務資料を完全公開

対等で平等な議論を可能にする前提には、各自が持つ情報が共有されていなければならない。だから同社では社内情報を可能な限り従業員に公開するようにしている。

「自分たちが議論して決定したことが会社にどのような影響を与えたか、あるいは各部署の人件費はどのくらいかかっているのかなどを完全公開しています。各人が持っている情報量が同じであるからこそ効率的な議論が可能になるからです。損益計算書やキャッシュフロー計算書、預金残高など会社の状況はすべて公開しており、社員一人ひとりが経営者マインドを持ってくれることが理想ですね」

月ごとの売上高や利益の水準、キャッシュフローの状況を各社員が把握しているので、無駄な費用が投じられることはめったになくなる。売上高の7%にあたる金額をのぞけば基本的に利益は賞与などで従業員に還元することが明示されているので、自然と一人ひとりのコスト意識が高まるのだという。創業以来13年連続の増収、一度の赤字も記録していないというのもうなずける。

さらに同社では、自由にアイデアをぶつけ合う現場での議論の過程で、新規事業の立ち上げも行われる。田中社長はいう。

「通常業務のなかで、お客さまから『こんなサービスがあればいいのにね』と言われることがあります。そしてそのニーズがビジネスになると判断した現場スタッフが中心となって、事業計画を作成するのです」

賛同者を社内で3人集められれば、だれもが新規事業の申請が可能だ。必要に応じて外部コンサルタントを活用することも認められており、練り上げた計画を役員会議などでプレゼン。最終的に全会一致で承認が得られれば、会社の新規事業として正式に計画が走り出すのである。

「当社では訪問介護事業、障害を持つ児童のためのデイサービスなどさまざまな事業を展開していますが、社長の私が計画立案したのは、創業時から手掛けている医療保険による訪問マッサージ事業だけ。残りのすべての事業は従業員が自発的に議論を重ねるなかで開始されたものばかりです」

新規事業が次々に成功

18年間のサラリーマン生活を経て1999年に独立した田中社長。そもそも事業領域を福祉や医療分野に定めた理由とは何か。

「製造業などユーザーと間接的ににしか関与できない業務ではなく、直接顧客とかかわれるサービス業にすることは決めていました。そしてたまたま他の地域で在宅マッサージが医療保険に適用されている現場を目の当たりにし、『これだ!』と直感したのです。脳梗塞などで片手がマヒしている場合、西洋医学ではそれ以上治療することはないですが、東洋医学に基づくマッサージで状態が良くなることがあります。実際私が見たケースでは、患者さんが茶わんを持って少し持ち上げられるまでに機能が回復し、涙を流しながらサービスに感謝していました」

とはいえこの在宅マッサージ事業はまだ目新しい内容。保険適用にするためには医師の同意書が必要だが、田中社長はコツコツと地道に営業活動を重ね、地元・小田原でこの事業を普及させることに成功した。そしてこのサービスを通じ「高齢者や体の不自由な人などが困っていて難儀に思っている」さまざまな課題を発見し、それを解決するためのサービスを次々に展開してきたのである。在宅介護や福祉タクシーなど事業領域はいまや10を超えるまでになり、最近ではついに多額の投資が必要な有料老人ホームの運営に参入した。

「通常、同じようなタイプの施設は開所後1〜2年で部屋を埋めていくのですが、当社が昨年にオープンした『ひなた』は募集開始後すぐに応募が殺到。全30室に対し80を超える申し込みがあり、多くの方にお断りせざるを得ないほどでした」

人気の理由は明快である。食費や光熱費も含め入居費用が月額11万円前後という驚異の低価格を実現したからだ。在宅介護事業などで培ってきたスタッフのシフトオペレーションのノウハウを最大限に活用し、極めて競争力の高い価格帯を実現したのである。

「特養(特別養護老人ホーム)や老健(介護老人保健施設)などに入りたくても入れない高齢者のことがニュースになりますが、それは施設が足りないのが原因ではなく、入居費用があまりに高いから。そこで私たちは、裕福ではない普通の人でも安心して入れる介護施設を提供することにしたのです」

安価で質の高い施設に対する地域のニーズに応えるため、同社はすでに2カ所目の老人ホーム建設に着手しているという。今後どのような新規事業が立ち上がるのか、自立的かつ自由な社風がもたらす次なる一手に注目である。

●設 立 1999年7月
●所在地 神奈川県小田原市扇町5-11-21
●TEL 0465-32-2532
●売上高 約6億円
●従業員数 約220人(パート含む)
●URL http://www.hsa-w.co.jp/