プロフィール
かわかみ・たけお
1950年、長野県生まれ。短期大学で工業デザインを学び、1975年にサン工業に入社。専務取締役を経て98年から現職。2013年から伊那商工会議所の会頭を務め、現在2期目。趣味は美術鑑賞。

「イエス・アイ・キャン」合言葉に躍進する高利益率めっき会社

業界内でも顧客満足度と利益率の高いめっき会社として知られるサン工業。顧客ニーズへの細やかな対応で取引先を増やし続ける川上健夫社長(66)に、目指すべき会社のあり方や事業戦略などについて聞いた。

 全国の中小企業のなかから、経済的・社会的に優れた成果を挙げている企業を表彰する日本で最も歴史と実績のある中小企業のための賞、グッドカンパニー大賞(公益社団法人中小企業研究センター主催)。第50回となる平成28年度の優秀企業賞を受けたのが、長野県伊那市で無電解ニッケルめっきや電気めっき、化成処理・バリ取りなどの表面処理加工を手がけるサン工業である。川上健夫社長は受賞を知った時の感慨をこう語る。
 「夏に審査の方の訪問を受けたときに厳しい質問を次々に投げかけられ、その後しばらく連絡もなかったことから、半ばあきらめていました。『いい会社にしたい』というのが私の経営者としてのモチベーションですから、この賞はなんといっても名前がいい。同じ地元で全国的にも有名になった伊那食品工業が大賞を受賞した賞とあってわれわれにとってはあこがれで、電話で連絡をもらったときには本当にうれしかったですね」
 では同社のどんなところがグッドカンパニーなのか。まず挙げられるのが、従業員のやる気を引き出す快適な職場づくりに早くから取り組んだ点である。2代目として1975年に同社に入社した川上社長は、父親のもとで修練を重ねるなかで、安定した経営のためには、良好な職場環境づくりが不可欠との結論に至ったという。
 「経営資源はヒト・モノ・カネとよく言いますが、まだ会社規模も小さく、そのすべてがありませんでした。しかも父親は典型的なワンマン経営者で、怒鳴られた社員がたびたび辞めていくような状況。これでは良い人材が育ちません。悩んだ末、ヒトだけは情熱をもって口説けばなんとかなると考えたのです」
 当時何もなかった同社にとって、情熱を持って夢を語り、その夢や目標に共感してくれる人を集めることは、大きな資本をかけずにできる唯一無二の手段だったのである。そしてその夢とは、「きれいで悪臭もなく、明るい職場をつくる」ということだった。薬品の強烈な臭いが漂い、冬は寒く、夏は暑い過酷な労働環境を一新させ、若い人材の定着率向上を図ったのである。
 「夢があれば現実が厳しくても人間なんとか頑張ることができます。そこで良好な職場環境を整備すれば若者が集まるのではという仮説を立て、それを実行することにしたのです」
 若き川上社長の情熱に、地元金融機関の心も動いた。「投資は過大だが経営者が研究開発や勉強熱心で今後期待が持てる」との評価で、売上高の2倍以上の融資を引き出すことに成功したのである。そして1986年、専用の排水設備を完備した新工場を伊那インター工業団地内に建設、住宅街にあった旧社屋からの全面移転を実現した。さらにその時期から、新卒採用の活動を本格化させた。経験者の中途採用が一般的な業界では珍しい取り組みである。
 「リクルートのノウハウが蓄積されており、全国各地の大学の先生とのコネクションもたくさん築き上げてきました。その結果毎年新卒採用に成功しており、従業員の平均年齢も32才ととても若い。業界のなかでも応募数は多いと自負しています」
 月に1回、土曜日に開いている全社員参加の研修「サンデー(SUNDay=Step Up No Day、ステップアップの日)」の取り組みもユニークだ。川上社長による講話に続き、ライン別業績を含む月次決算の結果について管理部門から詳しい説明がなされる。営業からは受注状況の発表があり、品質保証や安全衛生、他社との技術交流などについても担当部署が報告、全社的に情報を共有する。
 「細かい指標をすべて公開するのは、社員一人一人が現状を正しく把握できるようにするためです。数字で確認することによって、自分が担当しているラインの業績が悪化したのが、不良品が多かったせいなのか、材料費が上がったせいなのかが理解できます。正しい現状認識ができて初めて正しい打ち手を実行することができますからね。正しい行動をとれれば、3年後5年後には自然と利益がついてくるようになります」
 ほかにも海外取引の機会拡大を見据えて外部講師を招いた英会話講習を実施するなど、従業員の教育研修には惜しみない投資を続けている。

事業承継の準備も着々と
 快適な職場づくりが実現しても、業績がともなわなければ意味がない。しかし同社はこれを両立した。売上高経常利益率が常時15〜20%という高利益体質を実現したのである。単価の安い大量生産品の受注を極力避け、同社でしかできないオリジナル製品の展開に特化した結果だった。この経営スタイルを確立できたのは、取引先開拓のため全国を飛び回って会社の危機を乗り越えた川上社長の営業力によるところが大きい。
 「本社工場を現在の場所に移転した直後、経営計画の大きな柱としていた大口取引先から、海外移転を理由として突然発注の打ち切りを通告されたのです。多額の借入金を前に途方に暮れましたが、会社を存続させるため、あらゆる業界のどんな仕事でも引き受け売り上げを維持することができました。最近では売上高が6割減少するという未曾有の危機に陥ったリーマンショックもなんとか乗り切ることができましたが、2代目経営者として強いリーダーシップを発揮できたこと、どん底の状況に陥っても『後は上がるだけ』と思える楽観的な性格だったのが良かったと思います」
 下請けの中小企業はどうしても取引先が固定化しがちだが、同社の取引先は主要先で350社、総計で1000社に及ぶ。取引先業種も自動車、精密機器、燃料電池などの部品から医療分野、照明分野など幅広い。表面処理加工に対する顧客の細かなニーズに対応するため工場のライン数は25を超え、独立の研究開発エリアや試作専用ラインも完備。各種分析装置による高精度の表面分析にも定評がある。
 「特定の業界に絞る方が営業的にも仕事的にもやりやすいかもしれませんが、長いスパンを考えると下請け企業は間口が広いほうがいい。そしてどうせ広げるならば、どんな会社とも取引をさせてもらうほうが面白い。仕事の進め方や品質管理も会社ごとに違うので勉強になりますからね。大手メーカーの研究開発部や開発系の会社などでお付き合いのないところはまだたくさんあり、仕事のフィールドは無限にあると思っています。当社のキャッチフレーズは『イエス・アイ・キャン』ですが、常に新しいことにチャレンジし続ける企業風土は大切にしたいですね」
 川上社長が営業先で必ず口にするのが、『今度ぜひ監査にきてください』という一言。生産体制と現場スタッフに絶大の信頼を寄せているからこそ口にできる言葉である。
 事業承継の準備も着々と進めている。昨年末、中小企業への投資業務を実施する政策実施機関・東京中小企業投資育成から7380万円の出資を受け入れる決断を下したのだ。高収益企業には高株価ゆえに事業承継が円滑に進まないという悩みがつきまとうが、今回の増資で安定株主を得ることが、承継する株式を限定するという副次的効果を生んだ。
 「以前から出資を受け入れた知人の経営者などから良い評判を聞いていて、いよいよ当社でも真剣に事業承継を検討する段階に入り、必要性を感じるようになりました。他人資本の受け入れに抵抗がないことはありませんでしたが、経営には口を出さない『物言わぬ株主』だとお聞きし出資をしていただくことを決めました。第三者が株主に入ることで、今後の経営陣がぴりっとする効果も期待できると思います」
 昨年12月末には、同年春から建設を進めていた第3工場本社棟が完成。手狭になっていた工場スペースが一挙に拡大するとともに、大中会議室や応接室の新設で本社機能も大幅に強化された。新棟のデザインで川上社長がこだわったのは、ガラス張りのエレベーターから望むアルプスの壮大な光景。天竜川の向こうにそびえる山々のように、同社も盤石の体制を築きつつある。

サン工業株式会社
●設 立 1950年2月
●所在地 長野県伊那市西箕輪2148-186
●売上高 24億円(2016年9月期)
●社員数 約180名
●URLhttp://www.sun-kk.co.jp/