おかの・ひでお
オリンパスでICレコーダーの開発、事業立ち上げに携わり、医療機器開発の経験も持つ。2004年ITXに移り、ベンチャー企業の投資育成を経て、2013年インテリジェント・コスモス研究機構にて地域連携コーディネーターを経験。東北地域企業のネットワークを構築し、2015年エーアイシルクを設立。

シルク電極の可能性を追究し復興にかける

 腕時計タイプやリストバンド型など身につけるコンピューター、ウエアラブル端末に関する話題を耳にする機会が増えてきました。私たちはシルク電極の「エーアイシルク」を用いたスマートウエアの開発に取り組んでいます。シルク電極とは導電性高分子をコーティングした絹素材で、従来の医療用電極のデメリットを払拭する機能を備えています。
 心拍数などの生体情報を調べるとき、電気を通しやすくするためクリームを塗ったり、長時間測定する場合はシールを肌に直接貼り付けたりするのが一般的です。ただし、こうした方法は皮膚炎をもたらすおそれがありました。「エーアイシルク」はウエディングドレスにも用いられるサテン織りでできていて、手ざわりがとてもなめらか。天然由来の素材のため、アレルギー反応を引き起こす心配もありません。データの正確な測定を妨げる汗などの水分をすばやく吸収する吸水性も特長です。なおかつ、「PEDOT-pTS」という素材をシルクに付着させ、高い導電性を実現しました。

幅広い応用性がうり
 医療だけでなく、スポーツ分野の用途も見込んでいます。「エーアイシルク」は筋肉が動くときに発生する微弱な電力、筋電を測定することも可能。私の右腕にはシルク電極を埋め込んだサポーターが巻き付けてあり、測定した筋電のデータを無線で飛ばしタブレット端末に表示しています。例えばバットを振ってボールをミートするとき、ビデオ撮影したフォームを見ながら筋肉の複雑な動きも同時に確認できる。打点の位置や筋肉の使い方を検証する上で有効です。
 長距離バスを運行するバス会社からは、ドライバーの疲労度を測定するため「エーアイシルク」を活用できないか打診を受けています。長距離バスにはさまざまなセンサーが搭載されており、運転、運行状況が詳細に記録され、本社でデータ管理されているそうです。まさに走るIoT(Internet of Things)です。運転中、ウエアラブル端末を身につけるのがわずらわしいと感じるドライバーも少なくないようで、シートやシートベルトの中にシルク電極を埋め込む研究をしています。
 そのほかにも、電波を発信して子どもやお年寄りの「見守り」に役立てたり、パワードスーツの動作を補助するために利用したり、実用化に向けて膨大な実験を繰り返しているところです。
 私たちのオフィスは仙台市の東北大学連携ビジネスインキュベータ(T─Biz)内にあります。起業前は東京の精密機器メーカーに長年籍を置き、ICレコーダーやデジタルカメラなどの開発に携わってきました。当時開発したデジタルカメラにはネットワーク通信機能が付いていて、撮影した画像を海外のパソコンに瞬時に転送できるのが特徴でした。無線通信機能付きカメラはまだ珍しく、マイクロソフトが米シアトルで開催した展示会に招待され、転送機能を実演したこともあります。いま振りかえると、IoTの〝はしり〟のようなことをおこなっていたわけです。大きな転機となったのが東日本大震災でした。
 
仙台への移住を決意
 当時私は除細動装置の無線技術を研究していましたが、研究者としていかに歩んでいくべきかいろいろ思案していたのです。被災地復興の力になりたいという思いも芽生えつつありました。
 ちょうどそのころ、宮城県内に医療機器産業のクラスター化をはかる「みやぎ知と医療機器創生拠点」という連携プロジェクトがあるのを知り、上司からの誘いもあって地域連携コーディネーターとして活動に参画。その過程で出会ったのが、フレキシブル電極を研究している鳥光慶一東北大学教授です。
 鳥光教授はフレキシブルシルク電極研究会という組織を立ち上げて宮城県内外の企業や大学、研究機関と連携を進めていました。一方で参加企業からの強い要望を受け2015年6月、素材を世の中に広く提供するべくエーアイシルクを設立しました。もともと東北地方は養蚕業、製糸業が戦前盛んだったエリア。当社でも福島県の東北撚糸・川俣工場から原料のシルクを調達しています。
 目下、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの助成金支援を受けながら研究開発を進めている最中であり、製品を発表し量産体制にめどをつけるのがことしの目標です。とりわけ医療、介護業界からの引きあいが活発で、試作したモデルは高い評価を得ています。
 9月にNEDOが開催する展示会「イノベーション・ジャパン2017」への製品出展を目指し、大手素材メーカーとの共同開発も進展中です。かつてなかった面白い素材になると手応えを感じているので、発表を楽しみにしていただきたいと思います。