戦経インタビュー


  聞き手 株式会社TKC顧問 宮田矢八郎氏

プロフィール
かたおか・あきお
中小企業金融公庫(現・日本公庫)勤務後、平成19年に独立。経営計画の策定、債務者区分ランクアップ、アメーバ経営による後継者・管理職育成などに通じる。中小企業診断士、ITコーディネーターの肩書きを持ち、経営、会計、ITの3方向から企業を語ることができるコンサルタントとして活躍中。

優良企業は何が“エクセレント”なのか。古くて新しい永遠のテーマである。これを経営、会計、ITの3方面からバランス良くひも解いてくれるのが経営コンサルタントの形岡暁生氏。同氏をTKC顧問の宮田矢八郎氏が長時間にわたって徹底インタビュー。今月、来月号と、2号にわたって掲載する。

「経営の可視化」がエクセレント企業への近道

宮田 形岡さんは、それなりの事業基盤を有する中小企業にとって「経営の可視化」が、優良企業への近道だと主張されています。
形岡 経営の可視化とは、人・もの・金・情報といった企業が持つ資源について、その貢献度を勘案しながら、リアルかつ最小単位で全社的に共有することだと私は定義づけています。なかでも最も重要度が高いのがお金の動き。もちろん、これは財務諸表で明らかにするわけですが、ここがすべての中心になります。次に人やものの動きを明確にすること。これら「可視化」の作業が私の経営コンサルタントとしてのバックボーンになっています。

財務諸表は経営における言語
宮田 企業が経営改善や成長を実現するために「可視化」が必要だと……。その可視化において「早く」「細かく」「正しく」「広く」という四つのキーワードを、形岡さんは挙げておられます。まず「早く」からご説明ください。
形岡 いきなり話が飛ぶようですが、太平洋戦争において日本軍は、ミッドウエー海戦で大敗を喫しましたよね。物量的には負ける戦いではなかったにもかかわらずの惨敗でした。勝敗を分けたのは「エレクトロニクス」と「情報」の二つの要素です。米軍はレーダーと暗号で日本の動きを逐一キャッチして、一歩先に動いていた。一方、日本の指導層は、その二つの重要性をいまいち理解していませんでした。これがそのまま継承され、いまの日本企業の弱点、つまり「意思決定の遅さ」に引き継がれているのだと私は思っています。
宮田 企業経営に引きつけて表現するとどうなりますか。
形岡 ビジネススピードには①経営意思決定に要するスピード②製品開発に要するサイクルタイム③受注から納品に要するリードタイム④照会に対する回答に要するレスポンスタイム――の四つがあります。とくに①の不足が日本企業がグローバル競争で他国に負ける原因になっている。
宮田 日本の企業はなぜ意思決定が遅いのでしょうか。
形岡 経営情報をスピーディーに手に入れることができていないからです。より根本を言うと、日本の経営者には財務会計の知識を持たない人が非常に多い。そこそこの企業の経営者でも複式簿記の勉強さえしていない方が目立ちます。会計知識がないから、早く入手したいという意欲が弱くなる。いくらデータを早く入手してもそれを解析する能力がなければ意味がありませんからね。
宮田 なるほど。
形岡 なぜ日本の経営者がそうなのかというと、私は江戸時代の士農工商という身分制度が影響していると思っています。当時、商人は単式簿記で帳簿をつけていたのですが武士は帳簿付けなどは下等なものであり、自らやるべきではないという意識がありました。それが現在の教育につながっていて、たとえば数学を研究するのは優秀な人たちだけど、簿記を学ぶのはランクが落ちると……。結果として、高学歴の経営者が、必ずしも簿記を理解していないという状況が現出しています。つまり、日本を支えるトップエリートが簿記の勉強をしていないわけですね。これがいろんなところに悪影響を及ぼし、国際的な弱点になっていると思います。
宮田 確かに会計は大変重要な研究テーマなのですが、日本では軽視されていますよね。
形岡 欧米でMBAの資格をとるには「アカウンティング」は必須です。なのでMBAをとった人は必ず会計知識を持っている。日本では必ずしもそうではないということです。
宮田 確かに。大学で会計を教えていると、簿記3級程度でも今の学生はアレルギーを起こします。切なくなりますよ(笑)。
形岡 財務諸表は「経営における言語」だと思います。外国にいけばその国の言語を話しますよね。経営を行うには、財務諸表という言語が必要なのです。高度成長時代はいけいけどんどんで何とかなったかもしれませんが、今後、後継者となるべき若い世代はそうはいきません。財務諸表の理解は絶対に必要です。
宮田 「早く」に話を戻しますと、形岡さんは、試算表は翌月に持ち越さず月末に確定させることを主張されています。その意味は?
形岡 財務管理が自計化され、発生主義等、会計原則に従った会計処理がなされる限り、理屈上、試算表は月末に完成するはずだという考えに基づくものです。ただ、そこにはいくつかのハードルがあります。在庫の問題もそのひとつですね。月末に実地棚卸をすると、それを試算表に反映できるのは翌月の3日か4日くらいにはなります。この遅れをなくすには、月末実地棚卸という概念を変えて、ロケーション別にたとえば1週間に1回くらい、月4回の棚卸を行い、それを循環させる「循環棚卸」を行えばいい。多少の誤差は出ますが、許容範囲内に収まっていれば問題はありません。
宮田 それはあくまで実地棚卸ですか。
形岡 在庫ロスの発生が小さい業種であれば、ロス率が許容範囲を超えない限り、月次棚卸を四半期棚卸とするよう年間の棚卸回数を漸次、減少させることはさしつかえないと考えています。しかし、小売業など盗難が頻発する業種では実地棚卸が必要になります。この在庫管理については、軽視している中小企業経営者があまりにも多い。ところが、これは後述(次号)しますが、在庫管理のあり方が業績に直結するというのは、実はリサーチ済みであり、事実です。

発生主義でスピーディーに
宮田 他にもハードルがありそうですね。
形岡 売り上げは基本的には「実現主義」なので、商品を出荷して顧客の検収印が押された書類が到着した段階で計上されます。しかし、中小企業の営業取引にEDI(電子データ交換)が浸透するにはなお年数が必要なため、次善の策として納品書が出力されて得意先に送られたところで売り上げの会計処理を行う「出荷主義」を採用しているところが多い。正確ではないがスピードという意味ではやむを得ないでしょう。問題は仕入れです。仕入れは、おそらく9割の企業は仕入先から請求書が届いた段階で仕入れ(買掛)に計上しています。すると、仕入れを締めるには、最後の請求書を待たないといけません。それには1週間や10日はかかってしまうので試算表の作成が遅れてしまいます。私の関与している企業でもそういう方式をとっているところが非常に多い。その場合、私は「発生主義とは何か知っていますか」と問いかけます。
 京セラの稲盛和夫さんは『実学』という本のなかで「ものが動いた時と伝票の起票は同時であるべきだ」と書かれています。つまり、製品が届き、納品書の内容が正しければ即、仕入れとして勘定しコンピューターに入力するべきなのです。これが仕入れにおける発生主義です。そうすれば、請求書の到着を待たないでスピーディーに財務諸表が作成できるようになる。
宮田 要するに、会計処理は、「正しい」会計原則に則(のつと)則(のつと)って行ってくださいということですね。つまり、売り上げにおいては実現主義(出荷基準)、仕入れにおいては発生主義による正しい記帳をベースにして行う。そして年度末においては、貸倒引当金や固定資産の減価償却、退職給付引当金などを適正に行うこと求める「中小会計要領」に則って経理処理をしていくことが重要だということでしょう。
形岡 そうです。それが「正しく」の意味です。

在庫をより細かく分類
宮田 あと「細かく」というのは?
形岡 どんぶり勘定だと、どの部門の貢献度が高くて、どこが低いのかが分かりません。それを明らかにし、また、部門のなかにも分け入って、チームごとにメスを入れていく。最終的には一人ひとりの貢献度を見ていくことが究極の管理手法でしょう。個人の実現する利益の集大成が会社ですからね。とはいえ、実際の業務はチームプレーによるところが大きく、画然と個人別にわけるのは難しい。また、営業マンの粗利ベースの管理はできても間接部門は困難です。
宮田 どうすれば?
形岡 まず「人」でいえば、プロフィットセンター(利益をもたらす部門:直接部門)の一人1時間当たり平均付加価値額(≒人件費控除前の経常利益)という形でとらえます。それから「もの」。ものの代表は商品ですが、利益貢献度が高い商品とそうでないものを単品単位で見分け、死に筋、売れ筋を判別します。そして死に筋の商品を減らし売れ筋を増やす。これをうまくやっているのがセブン─イレブン・ジャパンです。日本のマーチャンダイジングの先駆けといっていいでしょう。
宮田 いわゆる単品管理ですね。
形岡 私は経営を考える時には、自然科学を参考にするべきだと思っています。物理学の分野では、物質の最小単位は、分子、原子、陽子・中性子、さらにより小さな単位のクォークなど素粒子を発見することで、さまざまな研究成果を挙げています。時代によって、物質の最小単位が変わっていく。商品管理、在庫管理も同様で、「多品種小ロット」が求められる時代に、品種さえ分けていない在庫管理ではとうてい戦えません。当然、単品管理に向かうべきだし、もっといえば、賞味期限の期日ごとにグループ管理することも常識化されつつあります。つまり在庫の最終単位もどんどん細かくなってきているのです。
宮田 中小企業にも、そのような細かい管理は必要ですか。
形岡 そうしないとどんどん時代においていかれます。
宮田 少なくとも部門別管理は絶対条件ですね。
形岡 部門別管理の成否は、プロフィットセンターの共通経費の案分の仕方にあります。
宮田 どういうことでしょう。
形岡 通常の会社は、たとえばA営業部とB営業部で共通経費を案分する際、売上高や利益の額を目安にしますよね。そのやり方では儲(もう)儲(もう)ければ儲けるほど経費を背負わされることになります。私がお勧めしたいのは、部門の総労働時間で案分する方式です。短時間で利益を上げる努力をしたところには、共通経費を少なくする。つまり、生産性の高い部署が良い思いをするという仕組みにすれば、全体の利益を押し上げるようなインセンティブが働くわけです。
宮田 そうか、それは良いアイデアですね。共通固定費配賦の考え方の基本は、事業規模によるというものだと思っていますが、事業規模を従業員数と置き換えると人数の多い部署は、もちろん担うべき共通費が大きくなるわけですが、生産性を上げて残業を減らせば、それが反映されて、部門の利益アップにつながる。
形岡 この考え方のヒントになったのが「磁石」なんです。
宮田 磁石?
形岡 はい。磁石は鉄などの磁性体に近づけると、磁性体の分子が一方方向にきれいに並び変わります。その方向性がそろえばそろうほどくっつく力が強くなる。要するに、分子レベルのすべてのベクトルが合っている時に最強になるのです。これは、人を原子と考えれば、経営にも当てはまるのではないでしょうか。
宮田 セクト主義に陥る懸念は?
形岡 あります。プロフィットセンター間で断絶ができてしまうと、会社全体のベクトルは一致しません。そこで、京セラの稲盛さんが考えたのが、人を移動させるなどして、労働時間を融通し合う方式です。お互いが余った人員を出し合って、チーム間の人の移動を記録するのです。
宮田 面白いねえ。
形岡 プロフィットセンターの構成人員を柔軟に変えていくわけですね。「アメーバ経営」の特徴のひとつです。

どこまで情報を開示するのか
宮田 コストセンター(間接部門)の場合はどうでしょう。
形岡 利益意識が高まってくると、コストセンターの共通経費をどう負担するかはプロフィットセンター全体の関心事になってきます。たとえば事務効率化によって、コストセンターが経費削減に成功すれば、自分たちの共通経費が少なくなるわけですね。その意向が、コストセンターへの圧力となって、ベクトルの共通化が自然とできてくるというわけです。
宮田 なるほど、それも面白い。では、最後の「広く」という話ですが……。
形岡 これはもう「経営情報の共有化」につきますね。一番好ましくないのは社長だけが経営情報を把握している会社。あとは、どのレベルまで透明化するのかです。役員、経営幹部、管理職、全社員とどこで区切るかは考え方次第でしょうが、基本的にはより多くの社員に情報を公開すべきです。さらにいえば、金融機関や取引先、あるいは私のようなコンサルタント、つまり外部スタッフとも情報を共有する会社も増えてきています。
宮田 情報共有化という意味では「クラウド」がポイントになりますね。
形岡 おっしゃる通りです。私なども、クラウド上で試算表を分析し、問題点を明らかにした上で訪問を行っているクライアントがあるのですが、そのような企業には適切なコンサルティングができています。その場で試算表を見せられると、満足な指摘ができないケースが出てきますよね。
宮田 残念ながら時間が来たようです。次回(8月号)ではITを使用した情報共有化の重要性というテーマから再開しましょう。形岡さんの長年の経験とリサーチから導き出された、業績向上に直接結びつく意外な「因子」の話もお聞きしたいと思っていますのでお楽しみに。