全国に点在する伝統産業品。その魅力を伝えるのが、「0から6歳の伝統ブランドaeru」を手がける、和(あ)えるだ。小売業の枠をこえたユニークなビジネス形態と、そのルーツに迫った。

 風情ある木造の商店が軒を連ねる京都市内の路地に、和えるの京都直営店「aeru gojo」はある。100年以上続く絹・木綿糸を取り扱う店の一角を間借りした空間には、柱時計や桐だんすなど年代物の調度品が置かれている。どこか懐かしさを感じる店のコンセプトは「aeruのおじいちゃん・おばあちゃんのお家」。和えるが生み出したさまざまな商品を手にとって確かめられるほか、伝統の伊勢型紙を用いた絵ハガキづくりのワークショップも随時開催している。
 矢島里佳社長は会社の立ち位置をこう説明する。
 「日本の伝統産業を次世代につないでいくのが私たちの役割です。直営店は伝統産業品と出逢いの場であり、発信拠点。和えるは小売業ではなく、ジャーナリズムなのです」
 商品開発に際しては、社会課題の解決にも主眼を置く。例えば「こぼしにくい器」シリーズは、伝統産業の産地の職人が1点1点手づくりしたもの。器の内側に「返し」を設け、スプーンなどで食材をすくいやすくしているのが特徴だ。
 「子どもは食事するときにこぼしやすいので、親御さんはつい自分ですくって食べさせてしまいがちです。背景には共働きで忙しく、子どもの食べる練習になかなか時間を割けない方が増えているという事情もあります。こぼしにくい器なら、自分でできたという自信を深められ、だんだん1人で食べられるようになります」
 同シリーズでは愛媛の砥部(とべ)焼や栃木の益子焼、秋田の川連漆器など産地のバリエーションが広がっている。
 さらに一般の小売業と一線を画すのが、商品の「お直し」を引き受けているところ。破損した器やおもちゃを預かり、金継ぎや漆の塗りなおし、和紙の漉(す)き直しを施して修復する。aeruブランド以外の商品のお直しも行っており、思い出の食器類や人形などが持ち込まれる機会も少なくない。「割れたり、かけたりすると危ないため、子どもから陶磁器を遠ざけてしまう方もいらっしゃいます。でも本当に危ないのは、割れるのを知らないまま成長することです」と矢島社長は強調する。 
 お直しという選択肢があれば、失敗経験を通して学習できる。矢島社長自身も10年以上前に購入した急須や箸置き、漆塗りの箸をお直ししつつ愛用してきた。
 「伝統産業の職人さんに出逢い、お直しを知ってから、大切な器を割ってしまったときのショックが和らぐようになりました。この子はどんな表情に生まれ変わって、人生を共に歩んでくれるのだろうと思えるようになったのです。この子と表現したのは、きっと物を物として見ていないのでしょうね。職人さんの手がけた品物には生命を感じます」
 保育施設や介護施設など法人向けに商品の貸し出しも行っており、一生を共にできるとあって、卒園記念品として贈呈する施設もある。
 矢島社長の伝統産業への深い愛着はどこからくるのか。
 和えるを立ち上げたのは2011年3月。慶應義塾大学卒業を目前に控えた22歳のときだった。在学中に日本各地を訪ね歩き、伝統産業品の魅力にとりつかれた。就職活動にあたり、伝統産業と赤ちゃん・子どもを組み合わせたビジネスを展開する企業を探したが、一向に出逢えない。伝統産業品の価値を再構築し、魅力をうまく伝えられればビジネスとしてきっと成立する──。そうした信念のもと、会社を興す決意を固める。

想いでつながった家族
 自らのアイデアの可能性を見極めるため、さまざまなビジネスコンテストに出場。大学院に進み地域活性化策やファミリービジネスを研究しつつ、事業計画を磨き上げていった。
 矢島社長の想いに共鳴した職人やデザイナーの協力を得て、aeruブランドの第1弾『徳島県から 本藍染の 出産祝いセット』は産声を上げた。大学3年生のときに出逢った徳島県の本藍染め職人が染め上げた産着、フェイスタオル、靴下の3点セットだ。以降、『こぼしにくい器』、『愛媛県から 手漉き和紙の ボール』とラインアップは拡大していった。
 ただ、ブランド名は徐々に浸透したものの、資金が潤沢にあったわけではない。12年の年末、和えるは経営危機を迎える。手元資金が底をつき、職人への支払いが滞ってしまったのだ。矢島社長は振りかえる。
 「職人さんへの支払いは1カ月遅れてしまうこととなり、連絡しおわびしたところ、逆に励ましてくださったのです。このような事態を二度と起こさないよう、しっかりと経営しなくてはと決意しました」
 危機を乗り越え、確信を深めた思いがある。同じ志をもつ人間同士の結びつきは、容易に揺るがないということだ。職人が苦境の時に励ましてくれたのは、単なる取引先以上の関係性があったからにほかならない。矢島社長は社員の存在を「日本の伝統産業を伝える役割を果たしたいという想いでつながっている家族」と表現する。7月に30歳を迎えたばかりだが、12年後の事業承継を念頭に置く。そのココロは「伝統と現代の感性を和える、和えるの経営者は時代の感性に敏感でなければならない」ため。バトンタッチに備え、社長就任時の年齢が35歳以下の人材を募集する予定だという。
 「会社がどんな方向に向かうのか、不測の事態が起こったときにどうするのか、社員が尋ねづらい事柄に対して方向を示し、不安を解消するのも経営者の大切な役割です。すでに遺言書もしたため、顧問弁護士の方に託しています」
 伝統産業品に触れ、地域の歴史や伝統を体感できるよう、ホテルの部屋をつくり上げる「aeru room」事業も進行中。2031年には「伝統」を核とした事業が12種類出そろう予定となっている。どのようなビジネス生態系が現れるのか。和えるの成長から目が離せない。

COMPANY DATA
株式会社和える
設 立 2011年3月
所在地 
京都直営店「aeru gojo」
京都府京都市下京区松原通室町東入玉津島町298
東京直営店「aeru meguro」
東京都品川区上大崎3-10-50 シード花房山S+105
URL https://a-eru.co.jp/