ニッチを極める木製ハンガーのスペシャリスト

なかた・しゅうへい
1978年東京都生まれ。米国の大学を卒業後、現地日系企業に勤務。2007年5月中田工芸入社。17年5月代表取締役社長に就任。趣味はコンサート鑑賞。

 中田工芸は国内唯一の木製ハンガー専門メーカーです。祖父が戦後間もなく創業し、アパレル店や百貨店向けのディスプレー用ハンガーを製造、販売してきました。
 ひとくちに木製ハンガーといっても、本体の厚さや肩口の湾曲具合などさまざまなバリエーションがあり、アパレルメーカー担当者からブランドのこだわり、世界観をうかがいながら、デザインに落とし込んでいきます。ただ、こうした業務用ハンガーは店舗側にとって、マネキン等と同様、備品のひとつにすぎません。業務用ハンガーの製造一本やりでは、アパレル業界の景気に左右されてしまうため、近年は個人顧客向け商品の開発に注力しています。

タッチポイントづくりに注力
 2007年には自社ブランドである「NAKATA HANGER」を立ち上げました。
 ナカタハンガーがほかのハンガーと一線を画するのは、何といっても国内工場で一貫生産される点です。兵庫県豊岡市にある自社工場で職人が木材の成型から塗装、組み立てにいたるまで一本一本手作業で行っています。
 研磨等の工程では機械を使用しますが、木目の表情を確認しながら力加減を調整して接合したり、製造には職人の卓越した技術が欠かせません。木材に使用しているのは、ハンガーに最も適している欧州産のブナ。研磨すると表面が滑らかに仕上がり、独特のゴマメ模様も特徴です。
 着用後畳んでタンスにしまう和服とは異なり、洋服は立体的に裁断されているため、ハンガーにつるして保管するのが一般的です。つまり洋服にとって、人が着ている状態に近いほど望ましい。その点、奥行きのある襟元や、丸みをもたせた肩先をはじめとする立体的なデザインのナカタハンガーは、つるすというよりも「人の代わりに着てもらう」ハンガーなのです。
 もっとも、大半の方はアパレル店やクリーニング店で手渡されるプラスチック製ハンガーをふだん使用していることでしょう。
 中田工芸に07年に入社した時、最初に任された仕事が東京・青山でのショールーム開設でした。
 ナカタハンガーの魅力をより多くの人々に伝える方法を模索するなかで思いついたのが、引き出物への活用というアイデア。結婚情報誌に広告を出稿したところ、こだわりの商品を求めるカップルの方々から反響がありました。結婚式の引き出物といえば、食器類やギフトカードが定番ですが、ハンガーは意外性があり、実用性に優れる点も好評です。加えて「ふく(服、福)をかける」という商品コンセプトを記したメッセージカードをパッケージに封入しており、多くの方々から共鳴いただいています。
 もうひとつ着目したのは、学校の卒業記念品としての用途です。木材のよさや利用の意義を学ぶ「木育」という言葉もあるとおり、日常生活において木のぬくもりに触れる重要性が見直されています。ハンガーと共に人生を歩んでほしいとの願いをこめ、本体に校章のロゴを刻印。卒業記念ハンガーはPTA間の口コミなどで広まり、300校をこえる学校で採用されています。

豪華寝台列車で採用
 当社には、木製ハンガーづくりの粋を集めた「一本物ハンガー」という商品があります。通常のハンガーは二つの木材パーツを中央部分でつなぎ合わせてつくるのに対し、一本物ハンガーでは職人が一枚板から削り出して製作します。2〜3メートルの板から製造できるのはわずか数本のぜいたくな逸品です。職人による熟練のわざ、連続する木目の美しさ、そして希少性……その価値観は一枚板のテーブルなどに通じるものがあるかもしれません。
 社長に就任した17年、この一本物ハンガーが西日本旅客鉄道(JR西日本)の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス 瑞風」の客室に採用されたのは感慨深い出来事でした。前年にJR西日本から専用ハンガー製造の打診があり、配色の検討やロゴ製作に着手。走行時の揺れによりフック部分がゆるむ懸念があったため、専用のフックを用い本体に深めに差し込むなど、試作を繰り返し完成しました。線路沿いにある本社工場から走行する瑞風を眺めるたびに、社員たちはきっと誇りに感じているのではないでしょうか。
 当面の目標としては、海外進出を成し遂げたいと考えています。世界を見渡しても、当社のように高品質のハンガーをオーダーメードしている企業は希少です。こうした環境は、絶好のチャンスであるととらえています。英国や東南アジアのテーラースーツ店に飛び込み訪問すると、予想以上の手応えを得られ、海外取引先からの注文数も徐々に増えてきました。当社の経営理念は「挑戦し、成長する」。100年企業を目指し、価格競争に陥ることなくナカタハンガーならではの付加価値を訴えていくつもりです。