くりた・ひろし
神奈川県藤沢市出身。東京工業大学情報工学科卒業後に電通に入社、テレビタイム業務に従事する。0から1を生み出すものづくりのビジネスに憧れを抱き、2012年にWHILL(ウィル)の創業に最高執行責任者(COO)として参画、新タイプの電動車椅子開発に携わる。父が体調を崩したり、子を持つ友人たちから食の安全性についての話を聞いたりするうちに農業への関心を強め、2014年4月にseakを創業。

日本初の農業FCで農家の所得向上目指す

 私は2015年に神奈川県藤沢市の認定新規就農者となり、現在自らの農地でトマトやキュウリ、イチゴなどを栽培していますが、農作物を栽培する過程で日本の農業が抱えるさまざまな課題に気づきました。そうした課題をトータルで解決し、誰でも一定の収入を確保できるような農業の仕組みとして全国展開を予定しているのが、日本初の農業フランチャイズモデル「LEAP」です。本部機能を持つ当社が「ファーマー」と呼ばれるフランチャイジーに対し農地探しの支援やハウス施設の建設、栽培技術・ノウハウの提供、販路の確保などの支援を行い、一方でファーマーはその際に生じた費用の原価の15%の手数料を本部に支払うという仕組みです。
 このモデルの最大の特徴は、独自に配合した土が入った専用の袋に一つずつ苗を入れて育てる「袋栽培」にあります。箱状のケース内で育てる「ベンチ栽培」など、地面から離した状態で栽培する方法を一般的に「隔離土耕栽培」といいますが、LEAPのように袋を使用する例はほとんどありません。
 袋栽培のメリットは、初期条件を均一にできること。農産物の出来は土の良しあしに大きく左右されますが、この方法を使えば、土の状態が劣悪な農地でも農産物を栽培することができます。病害虫が発生しても、発生した袋だけを取り除けば、普通の畑のように全体に病害がまん延することも防げます。土は土壌学の博士号を持つ最高開発責任者(CDO)が、自然由来の原料にこだわって独自に配合しました。
 ファーマーは袋や土を当社から購入することになりますが、費用は一般的な培土の価格より安く済みます。高品質かつ標準化された土を効率良く生産する製造手法を確立しているからで、千葉県内に建設中のソイルプラントが8月頃から稼働する予定です。このプラントでは使用済みの土を太陽熱で消毒したうえで再利用し、コストを大きく圧縮することに成功しました。
 ハウス施設の構築にも工夫が詰まっています。窓の位置やそれを開ける時間、日差しを調節するカーテンの遮光率など、ハウスを建てるときに決めなければならないパラメーターは実にたくさんあります。本来、これら一つ一つのパラメーターを品目ごとにゼロから組み合わせて仕様を決めていく必要がありますが、現状はこうした仕様を農家が主体的に決めるのではなく、ハウス施設メーカーの仕様をそのまま受け入れている場合がほとんどでした。そこで当社では、長期間ハウス職人のもとで修行した経験がある共同創業者の柳沢弘樹が中心となって、ハウスの最適化を追求。科学的な観点に基づき品目ごとに異なるハウスの構築を「LEAPハウス仕様書」として提供しています。
 もちろんテクノロジーもフル活用しています。ハウス内の気温や湿度、日射量、茎の太さや花の数、袋の下からこぼれてくる養液の変化等を各種センサーでキャッチし、それらの情報をリアルタイムで集約し生産管理にフィードバックさせる仕組みを構築しました。
 独自の高品質の土、最適化されたハウス、テクノロジーの活用などによってLEAPのパフォーマンスは既存の農業に比べ大きく向上することが分かっています。直営農園で栽培したトマトは、1株当たりの収穫量が40%増え、ハウスや土にかけるコストが下がった結果、収益が35%アップした実績があります。
 LEAPでは、水分を不足させたり過度にストレスを与えて甘くするなどの方法をとりません。植物の反応を正確に把握してなるべくストレスをかけないようにするスタンスです。そのような栽培方針からブランド名を「ゆる野菜」としてスーパーマーケットに直接提案したところ、トマトやキュウリ、イチゴ、ズッキーニなどを複数の高級スーパー、生協で取り扱ってもらえるようになりました。

インフラ整備も全面サポート
 新規就農までの準備段階で万全なサポートを受けられるのもLEAPの特徴です。未経験者が農業を始める場合、現地の農業委員会を通じて農地を借りるケースが一般的ですが、良好な農地を借りられるケースはまれです。実際私が藤沢市で初めて借りた農地も草木が生え放題の劣悪な条件でした。外注するお金もなかったので、刈り払い機やチェーンソー、パワーショベルを用意して自分たちで苦労して整地しましたが、LEAPで新規就農する人たちにはこの農地探しのハードルを少しでも下げるようにするつもりです。
 農作物を生産して当社はすでに4年の実績があります。すでに20以上の農地借り受け契約を締結し、農地開拓や借り受け手順はすべてマニュアル化しました。優良な条件の遊休農地をあっせんしてもらえるノウハウが蓄積しつつあるのです。農地によっては井戸を掘ったり、電気を使えるようにしたり、荷造りスペースを確保したりする必要がありますが、井戸掘削企業や電力会社等との交渉などをLEAPが一括して行うことで、新規就農者の手間やコストを大幅に省けます。
 農業で後継者不足が問題になっているのは、稼げている農家がまだまだ少ないから。新規参入者を呼び込み農業を活性化していくには、最低限安心して生活できるくらいの所得を担保できるような仕組みが必要です。小売店への販路を確保しているLEAPでは、ファーマーから農産物を一括して買い上げる予定なので、そうした機能をある程度果たすことができるでしょう。大々的に公表しているわけではありませんが、すでに550件も参画希望のコンタクトが寄せられました。この事業の大きな可能性を物語っていると思います。