旅行が趣味でバックパッカーとして世界40カ国以上に足を踏み入れた平塚雄輝氏は、2017年4月に人生2度目の起業を果たした。プライベートツアーの企画運営を手がけるotomoである。大学時代に設立した会社は後輩に譲り、その後ソフトバンクの経営企画本部やHuluジャパン、PwCコンサルティングなどで勤務していた平塚社長が同社を立ち上げたきっかけは、2015年にミャンマーを旅したときのある経験だった。
 「ミャンマーのバガン遺跡群を観光したときのことでした。まだ年端もいかない少女がポストカードを『10ドルで買って』と言ってきたのです。断ったら今度は5ドルになり、それでも買う意思がないとみると結局1ドルになりました。結局ポストカードは買わなかったのですが、しばらくするとその女の子が遺跡を指さしながら英語で『あの石は何に見える?』と聞いてきたのです。分からないと答えると、この石は鼻、これは足……と全体が象のモチーフになっていることを教えてくれました。ガイド本に載っていない場所でしたが、その女の子がぐるりと周辺を回って案内してくれたおかげでとても楽しい時間を過ごせました。その見事な案内ぶりに感激した私は一通り見どころを回った後にその女の子に10ドルを渡し、『これはポストカードに対するお金じゃない。君のガイドに対する対価だよ』と伝えたのです」
 外国語のスキルを持った地元住民が外国人観光客をガイドするビジネスには大きなニーズがあるのではないか――平塚社長はすぐに日本での事業化を思い立ったが、そこである規制改革が追い風となる。2018年1月までは通訳をともなう有償ガイド業務をするのに「通訳案内士」という国家資格が必要だったのだが、その縛りが撤廃されたのだ。
 「この規制は、昭和24年から続く時代にそぐわないものでした。試験は年に1回のみで、大学受験で必要な程度の外国語の実力に加え、日本史や地理、一般教養、ガイド実務などの科目を勉強する必要があります。合格率は極めて低く、そのためインバウンド客が増加するなかでガイドの供給が追いついていませんでした。そのため改正通訳案内士法が2018年に施行され、資格そのものは残りつつ、資格を持たなくても有償でのガイドができるようになったのです」

テーマ性重視のプランが人気
 ツアーの参加人数は最大6名まで。料金形態が人数課金ではなくグループチャージなので、家族連れや友人同士の参加がお得だ。ツアーはウェブサイトから予約し、一定程度の言語スキルを持つと同社が認定した登録ガイドがツアーの案内役を務める。ターゲットとする層は、旅行客の7〜8割を占めると同社が想定する、バックパッカーや初心者層以外の中間層だ。
 「この層は、フライトやホテルの予約は自分でできるものの、言語が通じないなど現地の観光に不安があるという人がほとんどだと思います。見知らぬ土地で地図を広げながら観光するのは意外に難しいこと。迷ったり、時間切れで行きたいところにいけなくなったりするかもしれません。その点、当社のツアーは、ガイドが参加者の趣味嗜(し)嗜(し)好(こう)好(こう)や希望に応えながら、費用的にも時間的にも効率よく観光地を回れる内容になっています」(平塚社長)
 現在9都府県で200種類のツアーを提供しており、今夏までに計15都道府県、300種類に拡大する計画を立てている。所要時間は5〜6時間が大半で、移動は基本的に公共交通機関を使用。肝心のツアーの中身は、すべて社員が実地調査をしたうえで企画した品質の高いものばかりだ。
 「例えば埼玉県小川町は、酒蔵巡りや伝統工芸の和紙づくりなどが楽しめる知る人ぞ知る観光スポット。国連教育科学文化機関(ユネスコ)にも登録されるなど、将来的に大きな可能性を秘めています。当社のツアープランは、ただ有名な観光スポットを無秩序にまとめるのではなく、盆栽に特化したツアーやアニメ『君の名は。』の聖地めぐりなど、テーマ性を重視しているのが大きな特長となっています」(平塚社長)
 ツアーを決めれば、次はガイドの選択である。案内するガイドの顔写真と英語の自己紹介文をもとに旅行客が自らガイドを選ぶ「セルフチョイス」と、ガイドの選択を同社に任せる「オトモチョイス」の二つの方法を用意。ガイド自らが決定するガイド報酬の金額もそれぞれ開示されており、これらの情報をガイド選択の基準として活用することができる。
 さらに万が一の事態に備えたリスク管理も徹底。ツアー開始から終了まで、ガイドに至っては自宅を出て帰宅するまでのけがや物損事故等をカバーする損害保険に加入し、双方がともに安心して参加できる環境を整えている。
 現在開催しているツアーは、月に100件程度。利用者に行った電話インタビューでは「日本にはじめて来たが、効率良く見どころを回れた」「専属ガイドが懇切丁寧だった」「わがままをきいてくれてうれしかった」「プライベートツアーでこの価格は安い」などの感想が寄せられるなど、反応はおおむね良好だという。

登録ガイド希望者が急増
 現在登録中のガイドは約500人。空いた時間を有効活用でき、かつ報酬を自ら決められるなど働きやすさを考慮した仕組みが人気で、登録ガイドの希望者も急増している。積極的な宣伝をしていないにもかかわらず、福岡市と共同で開催したガイド養成講座には、定員200人に対し500人の応募が殺到した。
 「ガイドに感想を聞くと、報酬をインセンティブにしている方はそれほど多くなく、『旅行者と交流してやりがいにつながった』という答えが目立ちました。外国語の能力を持っていながら、それをなかなか生かせなかった方たちが、『自分のまちに旅行にきた外国人を案内して、旅行客と地域の両方の役に立ちたい』と考えるケースが増えてきているのを感じます」
 同社のプラットフォームは、日本旅行を楽しみたいと考えるインバウンド客に加え、地域社会や働く人々にもメリットをもたらす仕組みになるという。
 「ツアープランは観光資源をルート化しているので、飲食やお土産の購入などを通じて地域産業に貢献します。外国語を話せるガイドには、就労の機会を提供する場になるでしょう。インターネットで見つけたガイドとプライベートツアーを楽しむ新たな旅のスタイルが、地方創生のきっかけになるのではと考えています」(平塚社長)

COMPANY DATA
otomo株式会社
設 立 2017年4月
所在地 東京都文京区本郷3-13-3三富ビル3階
社員数 12名
URL https://otomo-inc.com/