東京多摩地区南部の商業都市、町田市。周囲には農地も点在する同市がいま、高品質メロン「まちだシルクメロン」を生産する独自の水耕栽培技術「町田式新農法」で注目されている。
 メロン栽培では通常、1株から数個しか収穫できないが、この水耕栽培では平均して30〜40個、多い場合は約60個ものメロンを収穫できる。画期的ともいえるこの技術は、水耕栽培設備の形で、新規事業参入者への販売も行われている。

農工商連携事業でスタート
 「まちだシルクメロン」の水耕栽培が始動したのは2009年。町田商工会議所が中心となり、市内外の10企業が協力しての農工商連携事業だった。精密機械や医療機器メーカーなど地域の企業が持つ技術を農業の分野に応用し、新分野を開拓しようという狙いで進めてきた。
 商品化のメドをつけた2014年1月には、本格的な水耕栽培と管理・運営、装置の販売を目的とした新会社、まちだシルク農園が設立された。林大輔社長が語る。
 「私が商工会議所の工業部会長だった2009年当時、リーマンショックなどによる不況から町田駅周辺の多くの店舗がシャッターを閉じるなど危機感が漂っていました。そうした時に『何かやろう』と一念発起し、異業種の中小企業を連携してスタートした事業です。市内にメロン農家はなく、競合しないということも実施を後押ししました」
 林社長は当時、エアーノズルを手がける大浩研熱の社長(現会長)を務めていた。空気を均一かつ自在に噴射できる得意の技術を「水耕栽培にも応用できるのでは」と考えたのである。こうして発動したメロン栽培計画だったが、水耕栽培のメロンは根が腐りやすく、開発は難航した。
 2010年の試験栽培では根腐れを起こし、試食会は程度の悪い実を食べる残念な結果となった。しかし、失敗は新たな好奇心を生み、改良へのモチベーションを高める。試行錯誤を繰り返し、改良に改良を重ねて、糖度15度以上を達成、高級メロンの水準を満たすまでの商品化を実現した。
 この独自の水耕栽培技術は、「町田式新農法」として特許を取得した。新農法は、根域環境のつくり方に特徴がある。栽培槽の中央部から養液が供給され、対流しながら四隅に排液されるのである。この四隅への放射状の流れに、渦やゆらぎがプラスされ、根の生育に理想的な環境を作り出すことができる。
 新農法は、こうした養液の流れる方向と、根が全体に広がりやすい空間スペースを工夫し、水耕栽培の欠点である根腐れもなく、周年栽培と高い収量を実現した。
 「根の成長を促進する水槽内の水流を停滞させることなく、『ゆらぎ』をもたらす水流技術が一番の差別化につながっています。何かトラブルが発生して問題点が浮かび上がった際には、町田商工会議所や各協力企業が一丸となって打開策を模索し、数々の難題をクリアしてきました」(林社長)
 こうして低コスト化を実現した後、商品として本格的に出荷するため、2015年1月には町田市郊外に農園を開設。現在、16株が並んだ畝が3列あり、1回の収穫で約500個、1列ごとに時期をずらすことで、1年間に10回栽培でき計5000個を収穫している。露地栽培のメロンの場合、収穫できるのは年2回のみ。町田式新農法との違いは歴然だ。
 「まちだシルクメロン」は、かつて町田の地が八王子から横浜港に絹を運ぶ〝シルクロード〟の中継地であったことにちなんで名づけられた。年間5000個のシルクメロンのうち、2000個前後が玉売りで、残りは加工用として出荷されている。同農園の栽培指導員、松浦真さんはこう話す。
 「販売は、町田市観光コンベンション協会が運営する名産品ショップとネットの二つのルートで進めています。糖度や大きさなどから1個4000円と8000円の2種類での販売ですが、すぐに完売となるほどの人気で、市民からは『幻のメロン』と呼ばれています」
 まちだシルク農園は2015年1月、町田市郊外の雑種地を借り受けて開設した。農業としてではなく、工業という位置づけでスタートした事業でもあった。農地を利用するわけではないから税制上の優遇措置も受けられない。
 しかも、水耕栽培を行うための基礎工事にコンクリートを使うこともできず、風や振動による影響を少なからず受けている。振動はメロンの成長を阻害するともいわれ、同農園の栽培環境は恵まれているとは言い難い。
 そうした同社が目指すのは、シルクメロンの安定した生産量の確保と、「町田式新農法」による栽培システムの普及である。その意味で、最近の農地法の改正は同社の今後の事業展開の追い風となりそうだ。
 まず2018年9月には生産緑地を貸し借りしやすくする都市農地の貸借円滑化法が、11月には、改正農業経営基盤強化促進法が施行された。これらの改正によって、水耕栽培や温度・湿度管理、収穫用ロボットの導入などの必要性から、農地のままで農業用ハウスの底地を全面コンクリート張りにすることが可能になった。いずれも固定資産税の減免など優遇措置が受けられる。
 「法改正によって事業協力者が増え、町田式新農法によるメロン栽培が普及していくことが期待されます。また、都内の生産緑地で非農家出身の新規就農者によるシルクメロン栽培も活発化していくことになると考えています。この事業に参入しやすくなるのは確かでしょう」(林社長)

栽培装置の販売も拡大
 すでに水耕栽培装置の販売は着実に広がりを見せている。北海道の畜産農家は、牛のふん尿による発電を冬場の熱源としてメロンを栽培。茨城県の歯科医院では患者の癒やしを目的に栽培し、治療後に収穫したメロンを提供している。静岡県伊豆市の看板事業者は、自社ビルの屋上を活用してメロンを栽培するなどといった事例が相次いでいる。
 一連の法改正は、「まちだシルクメロン」栽培の新規参入をさらに促進することになるのは間違いない。また、この独自の「町田式新農法」は、メロンだけでなく、スイカやトマト、キュウリ、ナスなど果樹以外の農作物の栽培にも適している。病気にかかるリスクが少ないため、農薬の使用も低減でき、従来の農法に比べて高い収穫量も期待できる。
 町田式新農法による栽培装置は、国内だけでなく、中国、ベトナムなど海外からも引き合いが活発化している。また、ゆらぎをもたらす水流技術を活用することで、養殖業への展開も可能だ。
 初期導入コストの低減などまだ課題は多いが、町田市発の地域ブランドが規制緩和によって普及の輪をさらに広げていくことになりそうだ。
(ジャーナリスト・川上清市)

COMPANY DATA
株式会社まちだシルク農園
設 立 2014年1月
所在地 東京都町田市小山ヶ丘2-2-5
社員数 社員3名、パート2名
URL http://machida-melon.jp