早朝7時──人が本格的に活動するには早いこの時間、東京・新宿の一角でベンチャー企業経営者が大勢のオーディエンスを前に熱気あふれるピッチ(短時間のプレゼンテーション)を繰り広げている。
 デロイト トーマツ ベンチャーサポートと野村証券の2社が幹事を務める会員制ピッチイベント「モーニングピッチ」の光景だ。

毎週5社1300社が登壇
 モーニングピッチは2013年1月に始まった「ベンチャーと大企業の事業提携を生み出す」ことを目的としたピッチイベントだ。毎週5社のベンチャー企業が登壇し、大手企業の新規事業開発担当者やベンチャーキャピタル、メディアといったオーディエンスに向けて、事業内容やサービスの特長、提携スキームなどについてのピッチを行う。
 特筆すべき点は何と言っても開催時間の早さ。朝7時から9時という早い時間に催すことで、生半可な気持ちではなく、ベンチャー企業との提携を真剣に考える意欲の高いオーディエンスだけが参加するという狙いがある。
 年末年始やお盆休みを除いて毎週開催しており、累計開催回数は300回近く、登壇企業数はのべ約1300社にのぼる。当初はオーディエンス数が伸び悩み、1回につき20〜30人集まるのがやっとだったが、回を重ねるにつれて「将来性のあるベンチャー企業と緊密な関係を構築できる」と評判を呼び、今では毎回100〜150人のオーディエンスが参加するようになった。
 参加申し込みは、モーニングピッチの公式ウェブサイト〈http://morningpitch.com/〉から行うが、情報公開後すぐに満席になることが多いという。ちなみにオーディエンスとして参加するためには、モーニングピッチの会員登録が必要となる。
 提携実績も豊富にある。企業のオウンドメディア支援サービスなどを手掛けるベンチャーは、モーニングピッチをきっかけに大手新聞社とのM&Aが実現。他にも、マーケティングリサーチを展開するベンチャーが、モーニングピッチを通して大手テレビ局から引き合いがあり、業務提携につながった例もあるなど枚挙に暇(いとま)暇(いとま)がない。
 モーニングピッチでは毎週一つのテーマが設けられ、これに沿った事業を展開するベンチャー企業がピッチを行う。これまで「IoT」「フィンテック」「農業・食」など幅広いテーマを取り扱っているが、今回は、6月6日に開催された第284回「家族」特集に密着した。

コミュニケーションを重視
 会場である野村コンファレンスプラザ(東京都新宿区)では、6時30分に受付を開始して以降、続々とオーディエンスが来場し、開始5分前にはすべての座席が埋まった。
 時刻が7時を迎えるとモーニングピッチがスタート。冒頭、司会者より過去に登壇した企業の資金調達や事業提携の実績紹介を行う「登壇企業ニュース」の時間が設けられ、多数のベンチャーの躍進状況が紹介された。
 続いて、その日のテーマを取り巻く市場環境が、今どのような状況にあるかを解説する「テーマ概観」が行われる。この日は「家族」特集ということもあり、生涯未婚率の増加や、1世帯当たりの構成人数の減少、共働き世帯の増加など、「家族」を取り巻く現状とビジネスのポイントや事例について、運営担当者が説明。テーマ概観が終わるといよいよ本編に入っていく。
 登壇者が演台でスタンバイしていると、モデレーターと呼ばれる進行役が企業概要やピッチの聞きどころについて説明を始めた。モデレーターは登壇者1人に対して運営側から1人就き、進行はもちろんピッチのポイント整理や自ら質問を投げかけることもあり、モーニングピッチに欠かせない存在となっている。
 この日、最初に登壇したのは子ども向けの体験学習サービスを展開する「みらいスクール」の菅野高広代表。「本物の学びを提供できる体験学習サービス」というキャッチフレーズとともに、メイン事業である「ギフテ!」の概要や事業提携を目指す理由について説明した。ちなみに、登壇者に与えられるピッチ時間は4分と短い。一方、質疑応答時間が15分と長めに設けられているが、これは双方向のコミュニケーションを重視するというモーニングピッチのコンセプトによるものだ。
 菅野代表によるピッチが終わると、モデレーターがその内容をまとめ、質疑応答に移る。このときも一方的に質問を募るのではなく、ピッチの内容や協業ニーズに沿ったオーディエンスを指名し、活発な質疑応答を促す。実際に、菅野代表のピッチを受けてモデレーターが教育事業関係者を指名し、具体的なコメントや質問が投げかけられた。
 その後、オンラインの介護サポートサービスを提供する「クラピス」の杉本優斗代表、顔認証機能や音声感情認識機能を持つロボットの開発を展開する「ユニロボット」の酒井拓代表、お坊さん便などライフエンディングサービスを提供する「よりそう」の芦沢雅治代表、企業とファミリーをつなぐ社会体験アプリ「ごっこランド」を提供する「キッズスター」の松本健太郎取締役が登壇し、ピッチを行うとともに熱心な質疑応答が繰り広げられた。
 全員のピッチが終わったのは9時過ぎ。登壇者が、前方に一列に並んでの名刺交換の時間を迎えてモーニングピッチは終了となる。特に、5名の登壇者を目がけて多くのオーディエンスが長蛇の列を形成し、情報交換を行う姿が印象的だった。
 今やベンチャー企業の登竜門的な存在となったモーニングピッチ。これからも、朝7時という早い時間が、新たなビジネスやサービスを生み出すための〝出会い〟を創り続けていくだろう。