みやもと・たかし
1949年東京都生まれ。先代亡き後に宮本製作所を承継し、新規事業開発優先の経営戦略にかじを切る。2008年に経済産業省「元気なモノづくり中小企業300社」に選ばれる。2013年洗濯補助用品「洗たくマグちゃん」発売開始。2019年洗たくマグちゃんシリーズ販売累計300万個突破。

マグネシウムの力で世界を変える

 「洗たくマグちゃん」は純度99・95%のマグネシウムの粒をネットに入れた洗濯用補助用品です。使い方は洗濯物と一緒に洗濯機に入れるだけ。第三者機関の検査結果によると、皮脂汚れの分解率は市販の洗濯用洗剤と同等の30%でした。洗剤を使わなくとも洗剤と同様の分解能力があるのです。洗濯物だけでなく、洗濯槽や排水ホース内の汚れやカビも除去することが確かめられています。
 また専門機関で行った臭い成分除去試験では、汗にまみれたユニホームの臭気を70・1%除去するという結果が出ました。市販の液体洗剤では7・3%だったので、約10倍の消臭効果があることになります。さらに洗たくマグちゃんを入れた洗濯槽の水は、菌が繁殖しにくい環境を作り出すことも試験の結果分かりました。菌の繁殖を抑制する効果もあるのです。洗濯後は洗濯物と一緒に干すだけで、約300回繰り返し使用でき経済的です。
 こうしたさまざまなメリットが認められ、5月に月間売上高が3億円を突破しました。梅雨の時期は洗濯物が外で干せず困りますが、高い消臭・除菌効果のある洗たくマグちゃんは部屋干しに適していることから、夏場に向け今後もかなりの販売増が見込めるでしょう。
 また昨年9月4日に『日経スペシャルガイアの夜明け』(テレビ東京)で当社商品が紹介され、放送直後に一挙に1億9000万円を売り上げたことがありました。そのとき購入された方の買い換え需要を含めると、9月以降は月に4億円程度の売り上げに達すると予想しています。

洗濯排水を農業用にリユース
 先代の後を継ぎ2代目として当社の社長に就任したのは2003年。自動車部品の金属加工を手がける小さな町工場で、利益も出し経営も順調でしたが、「いつかは下請けから脱皮してメーカーになりたい」と思っていました。「自分たちの製品は絶対にまねできない」と技術力には自負があったのですが、一方で元請け企業から毎年のように来るコストダウンの要請にへきえきしていたからです。
 当社は原価低減に協力したことはありませんが、転注を恐れ、毎年要請を受け入れていたある知人の会社は、50人の従業員を抱えるそれなりの規模だったにもかかわらず、倒産してしまいました。その実態をみてなおのこと「自分で値段をつけられる仕事をしなければならない」と感じたのです。
 マグネシウムを利用した洗濯用品を思いついたのは、加工作業が終わった後に水酸化マグネシウムを手につけると油汚れがよく落ちることを実体験で知っていたから。第三者機関で試験した結果、汚れの分解性能に加え消臭や除菌効果もあることが分かり、日本をはじめ中国や韓国などのアジア圏で特許を取得しました。水とマグネシウムが反応して発生した水素の気泡と、生成された弱アルカリイオン水が持つ界面活性効果によって汚れを落とします。
 売り出しはじめて2年間は全然売れませんでしたが、3年目に入って意外な人たちがこの商品を支持してくれていることが分かりました。「赤ちゃんが着る洋服を化学物質や合成洗剤で洗いたくない」という親の間で、口コミで評判が広まったのです。そこでピンク、イエロー、ブルーのかわいらしいパッケージに刷新した「ベビーマグちゃん」を新たに発売、1袋に入ったマグネシウムの量も50グラムから70グラムに増やしました。同製品を3個使えば、洗剤を使用することなく9キロの洗濯物を洗うことができます。

有機農業への活用も
 洗たく以外の用途で活用されているのもこの商品の特徴です。例えばマグちゃんをお風呂に入れます。すると水道中に含まれる塩素とマグネシウムが反応し塩化マグネシウムが生成されます。塩化マグネシウムはにがりの成分ですが、このにがり入りのお風呂で「子どものアトピーが改善された」という声が次々と寄せられたのです。
 さらに最近では、この製品を使って洗濯した洗濯排水が、農業の栄養水として使えそうだということが分かってきました。マグネシウムは植物の光合成に欠くことのできない必須のミネラルです。さらに農作物に必要な栄養である窒素、リン、カリウムが、マグちゃんの洗たく排水にはバランスよく入っていたのです。熊本県や福岡県の農家に協力してもらい、洗濯した後の排水を作物に継続してまいてもらう実験をしたところ、「作物の出来がよくなった」「虫がつかなくなった」と大好評でした。この結果を受け8月から、洗濯排水を水道代の半分の値段で買い取り、それを有機農業で使うための栄養水として販売する新規事業を神奈川県相模原市で実験的にスタートする予定です。
 1トンの海水中に1・3キロ含まれているマグネシウムは、地球上に潤沢に存在する資源の一つです。日本では戦前、海水から生産したマグネシウムでゼロ戦のエンジン部品をつくるなどマグネシウム加工の高い技術がありましたが、戦後その技術は失われてしまいました。
 人類がマグネシウムを使うようになった歴史はわずか200年にすぎません。同時期に利用が始まったアルミニウムに比べまだ圧倒的に活用の幅が少ないのです。洗たくマグちゃんをはじめとした製品やサービスをより多くの人に使ってもらうことで、マグネシウムの持つ大きな可能性を世の中に広めていきたいと考えています。