職人の繊細な感覚によって支えられてきた伝統工芸の世界にも、IoTの波が押し寄せている。最新のネットワーク技術の活用によって、陶芸の伝統技術継承を目指すアイエスエイ(東京都)の取り組みを取材した。

 システムの安全安心な停止をサポートする電源シャットダウン装置、ネットワーク機器監視装置『警子ちゃん』、アナログ機器の接点信号をデジタル変換してネットワークにつなぐ『ネットエッジ』シリーズなど、システム管理・構築に関するインフラ回りの製品群をベンダーニュートラルで提供しているアイエスエイ。得意のネットワーク技術を生かしIoT分野にも取り組んでいるが、4月末から5月はじめにかけての大型連休中に実施したある実証実験が話題を呼んだ。プロジェクトの概要についてソリューション営業部の斉木ひろみ氏はこう説明する。
 「山梨県富士川町にある増穂登り窯、NTT東日本、陶芸雑誌『陶遊』と共同で、陶器の伝統的な焼成方法である登り窯での焼成に当社のシステムを活用し、炉内温度や作業光景をリアルタイムでネットワークに接続する公開実証実験を行いました。燃料にまきを使い、焼成に技術を要する登り窯は、ガス窯や電気窯に押され、全国的にも数が減ってきています。実験は焼成温度などのデータを計測してネットワークにつなげる仕組みを構築するのが目的ですが、同時に登り窯の素晴らしさや面白さを世界中に発信したいという思いもありました。日本の伝統文化である登り窯での焼成やその技術の継承がこのまま先細りしてしまっては、陶芸界にとっても大きな損失になりかねませんからね」

焼く器を一般公募
 登り窯は、高低差のある複数の窯をつなぎ上昇気流を利用して火の流れをつくる。燃料のまきに含まれる成分と土に含まれる成分が複雑に化学反応し、電気窯やガス窯では難しい『焼き締め』と呼ばれる独特の風合いを好む器好きも多い。実証実験で焼く器の一部は特設ウェブサイトや『陶遊』を通じ一般公募。その他全国の陶芸愛好家を含め1000点に迫る作品が集まった。実験がスタートしたのは、焼く前に作品を窯の中に並べて入れる「窯詰め」作業が行われた4月27日のことである。
 「窯詰めに続き、30日には火を入れる窯だきが始まりました。約4日間かけて器に割れが生じないように温度をコントロールしながら、最終的には約1200度の高温に達するまでまきをくべます。汗だくになりながら昼夜交代で火の調整を行うこの重労働の模様を、NTT東日本が光回線とクラウド型カメラサービスを使って提供している『ぎがらくカメラ』を利用してライブ配信しました。配信サイトでは焼成温度も随時確認できるようにしたため、全国どこにいても登り窯の焼成を仮想体験できるイベントになりました」(斉木氏)
 この窯内温度や室外気温のリアルタイム配信を可能にしたのが、同社が提供する無線方式環境計測装置「ももことあやか」シリーズである。三つの焼成室それぞれの温度データを専用サーバー装置が無線通信で収集、集めたデータはクラウド上に蓄積し可視化される。計測装置とサーバー装置の間の無線通信規格には、低消費電力でキロメートル単位の広範囲を対象にできる無線通信技術「LPWA」の一種であるLoRa通信を採用した。セールス&マーケティングマネージャの松本健平氏がその性能について力説する。
 「試作機を作った段階で、東京都庁(東京都新宿区)の展望台に親機を置き、子機を持ってJR中央線の各駅で降りてどこまで通信が可能かテストしました。立川駅(東京都立川市)まで届いたので『これはすごい』と。さらに高尾山(東京都八王子市)の山頂に行ってみても電波が届いていました。直線距離42キロまで届いたのです。陶芸の窯の温度のような限られた情報を頻繁にやりとりするような無線通信として最適だと考えています」

温度変化を正確にグラフ化
 実は同社はすでに、スマートフォンやパソコンで工房から離れた場所でも温度を確認できる陶芸窯温度・遠隔監視システム「窯おんど」を小規模ユーザー向けに提供していた。しかし、Wi─Fiによる通信を採用しているため、パソコンがある母屋と工房の距離が30メートル以上離れていたり、間に障害物があったりした場合には通信がうまくできないケースがあった。そこで「ももことあやか」で採用していたLoRaを使って陶芸向けシステムのさらなるブラッシュアップを狙ったのである。
 「陶芸の現場では窯内の温度計測はすでに一般的ですが、いまだに手書きでの記録が主流で、正確な時間経過に基づくプロットはほとんど行われていません。今回の実証実験では温度変化をグラフ化しデータの可視化をすることで、幅広い層の人たちに登り窯の作業について分かりやすく知ってもらうことができました。職人の減少とともに技術継承がますます困難になるなか、データの蓄積とそれを可視化することはとても重要なことだと考えています」(松本氏)
 窯だきが終了したのは5月4日。陶器を冷やして寝かせる徐冷期間の後、11日に完成品をお披露目する窯出し作業が行われた。作業に立ち会った参加者からは「こんないい作品ができるとは思わなかった」「米国から参加したがぜひもう一回やってみたい」など高い評価が寄せられた。プロジェクトは『陶遊』173号(6月23日発売)に詳報が掲載されたが、リアルタイム配信を見た窯元から同社に直接問い合わせもあったという。
 「関西地方のある窯元から『自分たちも何とかして現状を変えなければならないと思っていた。今後準備が整った段階で具体的に相談することがあるかもしれない』と連絡がありました。ノウハウの流出につながると一般公開するのを嫌がる職人さんがいる一方で、こうした反応はとても励みになりました」(斉木氏)
 今後は集めた温度データを詳細に分析・プロファイリングし、技術継承の現場でどのような支援を実現できるかが課題だ。また今回の実験で得られた知見を、金属部品の電気炉における焼き入れ工程などに横展開することも検討しているという。

COMPANY DATA
株式会社アイエスエイ
設 立 1979年10月
所在地 東京都新宿区新宿6-24-16
資本金 1億円
社員数 23人
URL http://www.isa-j.co.jp/

≪実証実験紹介掲載≫
http://www.isa-j.co.jp/momoaya/