1秒でも早く特ダネを届けるために奮闘する大手メディアが、こぞって契約するIT企業がある。一般視聴者がSNS上に投稿した内容を収集・解析して正確な情報を配信するサービスを手がけているSpectee(スペクティ)だ。自治体の災害対策や企業のリスク管理など、その適用分野は日増しに拡大している。

 事件や事故、災害を報道するテレビ番組において、視聴者がスマートフォンで撮影した写真や動画が使われる場面が増えた。今や誰もが現場記者になれる時代である。この環境を生かし、災害や事故、事件の様子についてSNSに投稿されたテキストや画像を収集・解析し、リアルタイムで配信するサービスを提供しているのが、2011年に設立されたスペクティだ。村上建治郎代表取締役CEOはサービスの概要をこう語る。
 「ツイッター、インスタグラム、フェイスブック、ユーチューブはもちろんのこと、海外で使われているSNS、位置情報や付随して得られる気象情報などの公的情報、自治体や交通機関が公表している災害情報や運行情報などさまざまな角度から情報を収集・解析しています。そしてAIを使った画像解析や自然言語解析でそれらの事件事故がいつどこで発生したか、デマではないかを突き止め、リアルタイムで配信しています。利用者の多くが新聞社やテレビ局などの報道部門で、テレビ局では利用率9割以上、新聞では全国紙すべてで使用されています」
 起業のきっかけは東日本大震災。現地でボランティアに参加した村上社長は、テレビや新聞経由では被災地の状況がリアルに伝わらないことにもどかしさを感じた。 一方重要な情報源となったのが、ツイッターなどのSNS。現地では広くSNS情報がシェアされ、災害状況をいち早く共有する重要なツールになっていた。しかしSNS情報は場所や時間があいまいで真偽のはっきりしないものもある。村上CEOは、SNS上の情報を収集・解析してあいまいさを排除しながら報道機関などに提供すれば、正確な報道や災害の初期対応に貢献できるのではと考えた。 こうしてシスコシステムズ合同会社を辞めスペクティを創業、機械学習を活用してインターネット上の情報を収集・解析し、提供するサービスを開発したのである。
AIアナウンサーが活躍
 サービスは月額定額課金で提供。IDとパスワードを付与された利用報道機関はインターネットで情報をリアルタイムにチェックすることができる。スペクティに配信された投稿から使用許諾を得て視聴者映像として使用したり、投稿者に直接連絡を取って追加取材することもある。
 2016年のサービス開始以降、わずか1年で導入実績が100社を突破した。圧倒的な支持を集めた最大の理由は、情報の正確性にある。真偽確認などはスタッフが行うなど、AIによる解析と人間による作業をミックス、事件事故が発生した場所や時間を正確に特定できるノウハウを蓄積してきた。
 「例えばツイッターなどで事故の投稿があったとき、自治体名だけでなく、町名や番地などまで特定できないと意味がありません。あるテレビ局の試算では、当社の提供している情報を出発点にすると70〜80%が実際の取材につながるそうです。この数字は他社サービスの標準である数%に比べ大幅に上回っています」(村上CEO)
 使いやすさも評価されている。パソコンやスマホ、タブレットなど各種デバイスに対応しているほか、同じ事件・事故に関する複数の投稿は自動的にひとつのスレッドにまとめるなど分かりやすいインターフェースが好評を博しているのである。さらに独自の読み上げ機能の存在も見逃せない。人間の声に極めて近いなめらかさでニュースが自動で読み上げられるので、常時画面を注視していなくても必要な情報に気づくことができるのである。
 「正確な情報をいち早く届けるのがわれわれのビジネスの基本ですが、速報をメールで通知するのはもちろん、今後は音声による通知が極めて重要になってくると思います。音声合成はいろいろな技術を試しましたが、たどたどしいいかにもロボットが読んでいるようなものばかりで、うまく伝えることはできませんでした。そこで人間のように自然になめらかに読むことのできるAIアナウンサー『荒木ゆい』を開発したのです」(村上CEO)
 実際にアナウンサーが読んでいるニュース音声約10万件を独自開発した人工知能エンジンで機械学習し、自然な発音、アクセント、イントネーションを習得。スペクティの読み上げ機能だけでなく、「荒木ゆい」単独でもサービスを開始しており、すでに地方のテレビ局やラジオ放送局で天気予報や交通情報を読み上げるAIアナウンサーとして活躍している。
企業のリスク管理需要も
 顧客の8割は報道機関と自治体、警察消防関連で占められているが、今後の需要拡大が見込めるのが企業向けだ。ネガティブ情報の収集・解析やリスク管理の観点で使用するケースが増えているという。
 「スペクティを導入しているある大手メーカーでは、自社製品すべてにおいて、故障や不具合に関連するSNS情報を収集・解析しています。企業のリスク管理において、ブランドイメージの失墜につながりかねないそうした情報をいち早くつかんでおくことが、これからますます重要になってくると考えています。また日本各地に工場を持っている企業などは、現地での災害情報をキャッチするためにスペクティを導入しているケースもあります」
 こうした企業のニーズに対してこれまでは、スペクティをカスタマイズすることで対応してきた。しかし「個別に対応するのは限界がある」(村上CEO)としてAI開発プラットフォーム「SIGNAL」も開発した。
 「基本的にはスペクティの仕組みを踏襲しながらも、SNSにしばられることなくライブカメラや各種センサーの情報なども解析対象とするより柔軟なプラットフォームにしました。4月から提供を開始しており、導入企業から高い評価を得ています」
 社内での合言葉は、「危機管理にかかわる情報解析でナンバーワンになろう」。村上CEOが目指すのは世界一の座だ。
 「すでに2年前からAP通信やロイターと事業提携を行っていて売り上げも伸ばしていますが、海外の企業や自治体向けでもっと販売できるよう私自身が積極的に外に出ていかなければならないと感じています」
COMPANY DATA
株式会社Spectee
設 立 2011年11月
所在地 東京都千代田区五番町12-3 住友不動産五番町YSビル3階
売上高 約2億円
社員数 約40人
URL  https://spectee.co.jp/