2019年は統一地方選挙と参議院議員選挙が重なる「亥年選挙」の年。投票率が年々減少傾向にある中で、有権者と政治家の距離を縮めるための事業を展開しているのが選挙ドットコム(東京都)だ。ITを活用して政治や選挙の面白さを追求する同社の取り組みを取材した。

 選挙ドットコムは選挙メディアの運営、政治家向けソリューションの提供、情勢調査・分析、公職選挙法やネット選挙に関する勉強会の企画・運営など、政治家と有権者をつなぎ、政治や選挙に焦点を当てた事業を幅広く展開している。2013年4月に公職選挙法が改正され、選挙期間中におけるインターネットやソーシャルメディアを用いた選挙活動が解禁となって以降、これらを活用することが選挙戦の行方に大きな影響を与えると、高畑卓CEOはいち早く予見。それが選挙ドットコム創業のモチベーションとなった。
ある居酒屋での出会い
 時は2009年にさかのぼる。当時、ウェブサービスのコンサルティング会社を立ち上げ、企業向けのホームページ制作や、広告のプロモーション事業などを手掛けていた高畑氏はある日、居酒屋でひとりの男性と出会う。地方の首長選挙に立候補したが落選してしまい、寂しくお酒を飲んでいたところに高畑氏が声をかけたのである。
 その場で意気投合した2人は、「どうすれば多くの人に自分の政策を知ってもらえるか」「若い人たちが政治や選挙に興味を持つには何をすべきか」などの話をするなかで、一つのアイデアがひらめいた。
 「その男性にITを活用した情報発信を勧めました。当時は公職選挙法の改正前で、選挙期間中はインターネットを使っての選挙活動は禁止されていましたが、選挙期間外に自分の考えや政策を積極的に発信することで、その後の選挙戦を有利に戦えるのではと考え、インターネットやソーシャルメディアの使い方をレクチャーしたのです」
 4年後、その男性は政令指定都市の市長選挙に立候補し、見事当選。ITを活用したこまめな情報発信に加えて、ちょうどこの頃に公職選挙法が改正されたことも追い風となった。
 「その男性は無所属でしたが、絶対に勝てないと思われた戦いに挑戦しました。相手は与党をはじめ複数の政党から推薦される有力候補で、選挙戦は厳しい状況が続いたのですが、SNSを活用したPR活動が幅広い層からの支持を生み、僅差で逆転し当選しました。選挙で勝ってくれたことは素直にうれしかったのですが、一方で、政治とITを組み合わせることで政治家や有権者にとって有益なサービスをつくることができるのではないかと、このときに強く感じました」
 新しいビジネスの萌芽を見た高畑氏は、政治家のコンサルタントを経て2015年に選挙ドットコムを設立。政治情報データベースや政治家向けの情報発信ツールの提供などを通じて、有権者と政治家との距離を縮めるための取り組みをスタートさせた。
投票率向上への取り組みも
 政治家向けのサービスとして展開しているのが、政治家情報発信ツール「ボネクタ」だ。
 「ボネクタ」を使うことで自らウェブサイトを立ち上げる負担が軽減されるだけでなく、動画やブログの投稿機能により情報発信が手軽になり、政治家のパーソナルな部分が垣間見えると有権者からの評判も良い。
 「ボネクタは投稿した動画やブログが他社のニュースサイトやニュースアプリにも配信されるので、情報拡散能力にもすぐれています。ユーザー数は2000を超えており、幅広い年代の政治家の方々に使っていただいています」
 一方、有権者向けには選挙情報・政治家データベース「選挙ドットコム」を開設。選挙の多い時期は月間約3000万PV(ページが開かれた回数)の視聴を誇る。地元の選挙管理委員会や政党・政治団体から提供されたデータはもちろん、ボネクタで政治家自身が開示した情報に基づき、全国の選挙・立候補者の情報や全政治家のプロフィルが網羅的に掲載されているほか、選挙や政治家に関するニュースや解説記事、コラムも随時発信している。
 ざっと内容を見てみると、「若者の投票率が上がっていたら参院選はどう変わっていたのか」といった堅いテーマから「『政党』と『会派』ってどう違う?」といった用語解説など記事の多彩さが目を引く。政治系ライターに執筆を依頼することもあれば、自社の編集部スタッフが執筆することもあり、いずれも読みごたえがある。メディア制作の背景には「政治や選挙を少しでも多くの人が身近に感じてもらえるように」(高畑CEO)という願いが込められているのだという。
 そんななか、新たなサービスとして提供を予定しているのが大手オンライン決済代行サービスとのアライアンスで実現した、「ネット献金」機能の実装だ。
 キャッシュレス化という時代の流れをくみ、政治家や政党・政治団体が活動資金を募る仕組みを「選挙ドットコム」上で実施できる仕様となっている。2019年秋には実装予定で、これでまた一歩、有権者と政治家の距離を縮めることができると高畑CEOは意気込む。
 とはいえ、7月に行われた参議院議員選挙の投票率は48・8%と、衆議院議員選挙を含めた国政選挙としては戦後2番目の低投票率を記録し、有権者の半数以上は投票に行っていないという事実が浮き彫りとなった。高畑CEOはこの投票率の低さに強い問題意識を抱いており、有権者が政治や選挙に関心を持つ仕組みを構築し、投票率の向上を目指していきたいと話す。
 「今や立候補者や政策などの情報は、政治に関心のある有権者が自ら求め、収集する時代。選挙カーや街頭演説だけで票を集めることはとても難しくなっています。そんな政治家を取り巻く課題を解決する一方で、政治や選挙を難しく感じている有権者に対してさまざまな情報を提供し、『政治や選挙って実は面白いんだ』と思ってもらえるようなサービスをこれからもつくり続けます」
 常に公平中立な立場からサービスを提供し、有権者と政治家の距離を縮めることを意識しているという高畑CEO。その挑戦はまだ始まったばかりだ。
COMPANY DATA
選挙ドットコム株式会社
設 立 2015年7月
所在地 東京都千代田区麹町3-7-9 4F
社員数 10名 
URL https://www.senkyo-com.jp/