おじま・きよこ
1978年熊本県生まれ。熊本高校、慶応義塾大学卒。2005年農作物卸売会社に就職。06年農家直送の通販サイト「えと菜園オンラインショップ」を立ち上げる。09年株式会社えと菜園を設立。11年農業体験農園「コトモファーム」をオープン。最新刊は『農で輝く!ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園』(河出書房新社)

多彩な就農体験を通じて“ヒト”に活力を
 神奈川県藤沢市を拠点に体験農園の運営や、農業への就業支援プログラムの提供を行っています。1・4ヘクタールの土地で露地栽培している野菜は、ナスやピーマン、トマトなど年間20種類ほど。近年はゲリラ豪雨の発生など気象条件が不安定なため、栽培するのが難しくなってきていると感じます。今夏は梅雨が長引いたことで、トマトの生育状況が芳しくないものの、ナスは順調。栽培の多品種化がリスクヘッジにつながっています。
 就農支援プログラムをスタートし8年目になりますが、私の役割は、より多くの人に農業にふれてもらう機会をつくること。人手不足の農業界と、働きたいけど仕事の見つからない人をつなぐべく、2013年にNPO法人農スクールを立ち上げ、ホームレスの方や生活保護を受けている方、引きこもりの方に就農の場を提供しています。
 中高年の引きこもり数は61万人にのぼると報道されるなど、引きこもり状態にある人の増加が社会問題となっているのはご存じの通りです。ふだん彼らと接していて感じるのは、おしなべてまじめであるという点。一概にはいえませんが、人の評価を気にするあまり、内側にこもってしまっている方が多い印象を受けます。そんなまじめな方たちが活躍できる場を十分に与えられていない日本社会の現状は、とてももったいないと感じます。
「ワークノート」が自信に
 農スクールの提供しているプログラムには、メンバーとともに働き体力とメンタル面を養う「導入編」と、農業スキルを身につける「基礎編」があり、それぞれ週1回、1日2時間のプログラムを3カ月間実施します。15年度までの実績として64名の方を受け入れ、就労した27名のうち、14名の方が正社員として就職しました。参加者は農業体験ゼロの方ばかり。最初は1人で行える収穫や袋詰めなどの「反復系作業」に取り組んでもらい、ペアワークやグループワークの「協働系作業」を徐々に取り入れていきます。広大な畑の中で、リラックスして作業に臨めるのもこのプログラムの特徴です。
 参加者は1日の農作業を終えたら「ワークノート」に感想を記入します。作業内容に応じて11種類の書式があり、体力面とメンタル面、知識面がどう変化したかを自己評価。協働系作業に移ると、メンバーに対する評価の設問が加わり、自分自身に加えて他者を客観的に見る目を養えるしくみになっています。そもそもワークノートを書いてもらうのは、農作業を通して自分の長所を発見してほしいから。私自身も日記をつける習慣があり、慌ただしかった創業当初は日記を読み返し、精神の安定を取り戻していました。プログラム修了時には1冊の冊子にまとめて提供しており、参加者は内容を振り返り、自信を取り戻すツールとして活用できます。
 就職活動をはじめさまざまなシーンで、人に求められるスキルとして「コミュニケーション能力」がことさらに強調される社会になっています。たとえコミュニケーション能力に乏しくても、活躍できるフィールドはあるはず。耕作や種まき、収穫、動物の世話など作業内容が多岐にわたる農業は、引きこもりの方との親和性が高いといえます。欠点を克服するよりも強みや得意とする分野を生かして働くほうが、より望ましいのではないでしょうか。
好評博す企業向け研修
 自然の中で心が癒やされ、作業を通して自信を取り戻す──「農効果」と私は呼んでいますが、農業の持つそうした効用が着目され、とみにニーズの高まっているのが社員研修としての活用です。農スクールでは大企業から中小企業まで、営業職や技術職などさまざまな職種の方を対象に研修を開催してきました。研修ではメンバーがその日に与えられた目標に向かって、上司、部下分け隔てなくスコップを使って畑を耕したり、野菜を植える場所をつくったり作業にいそしみます。
 意識しているのは課題を発表する際「今日は野菜を3品目植えます」などと、大まかな目標を与えるにとどめることです。具体的なやり方はあえて伝えません。すると参加者は使う道具や効率的な方法を話し合い、試行錯誤しながら目標に近づいていきます。メンバーの仲の良さと成果が必ずしも比例しないのは興味深いところ。天候という、人間の思い通りにならない変数を勘案して作業を行う必要があるため、臨機応変の対応力を養えたり、チームビルディングに役立つといった感想をいただいています。また、オフィスで仕事をしていると五感を活用する機会が少ないため、農作業そのものが新鮮に感じられ、記憶にとどめやすいという利点もあります。
 体験農園は近隣の市民の方々を中心に利用いただいていますが、一般企業向けに区画単位で貸し出すことも可能です。今後は「農業にふれる機会を増やす」という志を共有できる仲間と連携し、新たなうねりを起こせていけたらと思っています。