商品開発、マーケティング、組織マネジメント……企業が抱える課題を挙げると枚挙にいとまがない。このような課題に対して、哲学の専門知を活用して解決へと導く「哲学コンサルティング」を展開しているのがクロス・フィロソフィーズだ。哲学とビジネスの架け橋として、ワークショップ・セミナーを開催するなど幅広く活動する同社の取り組みを取材した。

 「今や人工知能、バイオテクノロジーといった最先端の科学技術が発展を遂げ、私たちの生活を豊かにしている半面、『人文学は役に立たない学問』といった〝人文学不要論〟が叫ばれるようになりました。ですが、先行き不透明な現代社会において人文知、特に哲学の知識や方法論は、簡単に答えの出せないような課題を議論するときに大いに役に立ちます」
 こう語る吉田幸司社長は、弱冠28歳で博士号を取得し、東京大学で日本学術振興会のポスドク(博士研究員)を務めたのち、2017年にクロス・フィロソフィーズを設立する。
 人文学の領域において博士号を取得した後は、大学の専任講師となり研究者としてのキャリアを積むことが一般的。しかし、吉田社長がこの道を選ばなかったのは「誰も成し遂げたことのないようなことに挑戦したい」という思いがあったからだ。
 「〝ポスドク問題〟という言葉がささやかれてしまうほど、今は博士号を取得した後のキャリア形成がとても難しい時代になっています。私自身、研究員を数年続けていたときにふと『このままでいいのか』という漠然とした不安に襲われました。自分がやりたいことを改めて見つめなおした結果、次第に『より望ましい世界の実現に向け、実社会で哲学の専門知を生かしていきたい』と思うようになり、この会社を設立しました」
 今でこそ大手企業からの依頼も増え、新聞や雑誌で取り上げられるなど世間から注目を集められるようになったが、設立当時は思うような事業展開ができなかったという。
 「経営者や経営幹部の皆さまと関わるなかで、ほとんどの方が哲学に興味を持っていることが分かりました。ですが、これはあくまでも雑学レベルの話。哲学が企業経営にどのように生かせるのかをうまくイメージしてもらえず、コンサルティングの仕事を受注することがあまりできませんでした」
 哲学がビジネスに役立つことを多くの人に知ってもらう必要があると痛感した吉田社長は、ビジネスパーソン向けのワークショップを次第に手掛けるようになる。
 ワークショップでは、マーケティングリサーチや組織開発といったビジネスパーソンが抱える種々の課題について議論しているが、一般的なワークショップと異なり、参加者は与えられたテーマに対して「考え抜く」ことが求められる。議論の途中には、ファシリテーターを務める吉田社長がディスカッションのヒントとなる哲学の概念を紹介することで、議論が円滑に進むように促す。
ワークショップの内容はもちろん、吉田社長のファシリテーション術が次第に評判を呼び、大手企業に勤めるビジネスパーソンが多数参加するようになった。これらの内容は「哲学シンキング」として体系化され、「社員向けに同様のワークショップを開いてほしい」とのオファーにつながるなど、一定の成果を挙げている。
「なぜ?」を繰り返す
 ここで、哲学シンキングのメソッドについて見てみよう。哲学シンキングは①場の設計②問いの収集③問いの整序④有機的な議論の構成⑤核心的/革新的な問いや本質の発見という五つのステップで進行する。
 まず、参加者は全員の顔が見えるよう円形に座り、自由闊達(かつたつ)なディスカッションができるように雰囲気を醸成する(①場の設計)。
 次に、設定したテーマ・課題に対する「問い」を参加者から挙げてもらう。答えやアイデアではなく「なぜ?」を追求することで思考の偏りから解き放たれ、新たな視点を生みだせるようになる(②問いの収集)。
 続けて、バラバラに挙げられた「問い」をグループ化し、それぞれに共通する要素をあぶりだすことでテーマ・課題の本質を明確にしていき(③問いの整序)、グループ化したものに再び「なぜ?」と問いを繰り返す(④有機的な議論の構成)。
 最後に、ディスカッションの内容を分析し、課題解決につながる斬新な視点や洞察を抽出する(⑤核心的/革新的な問いや本質の発見)。
 これら五つのステップを通して、今まで見えてこなかった課題の本質や課題解決のヒントを探る。
 実際に大手生活用品メーカーでは「消費者がどのような商品を求めているのか」というテーマのもと、最適なマーケティングリサーチの手法を確立した。またファッションビルの運営を手掛ける企業では、キャンペーン広告の制作に哲学シンキングを活用、鈴木大拙(だいせつ)や西田幾(き)多(た)郎(ろう)といった東洋哲学の理論をベースに、広告のコンセプトメーキングやキャッチコピーのアイデア出しを行った。ちなみにこのキャンペーン広告は、文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選出されるなど、多くの人の目に留まる作品になったという。
 「哲学シンキングを経験することにより、クリティカルかつクリエーティブな思考力が醸成されます。クライアントからも『目に見えないものを言語化する以上の価値があった』、『哲学シンキングは新たな仮説を得る近道だった』と評価いただくなど反応は上々です」
 最近では、組織開発やビジョン構築に使える経営者向けの哲学セミナーや哲学シンキングのファシリテーション術を学ぶ「哲学シンカー養成・認定講座」などさまざまなプロジェクトを展開している。さらに、今年の秋にはオウンドメディア・ビズフィロのリリースも予定しており、企業経営に役立つ実践的な哲学の手法や事例を提供したいと吉田社長は意気込む。
 「哲学は一見すると堅苦しく近寄りがたいイメージを持たれがちですが、深く思考することほど今の世の中に求められているスキルはありません。世界には簡単に答えが出せないような課題があふれており、哲学的に物事を考えることが、これらの解決の糸口となるのです。哲学は先行き不透明な現代社会で生きていくための心強い羅針盤なのです」
COMPANY DATA
クロス・フィロソフィーズ株式会社
設 立 2017年5月
所在地 東京都新宿区四谷3-12
URL http://c-philos.com/
    http://bizphilo.jp(BIZPHILO〈ビズフィロ〉)