アルミ電解コンデンサー用アルミケースを主力製品として手掛ける来ハトメ工業(埼玉県八潮市)は、SDGsを経営に取り入れた中小企業の先駆的な存在として知られる。来昌伸社長と推進役の石原隆雅管理部係長に話を聞いた。
 来ハトメ工業は、エポキシ樹脂コーティングの優れた技術や金型からの一貫生産、複数サイズの試作品を即納できる小回りの効く生産体制の構築で、大手コンデンサーメーカーと安定的な取引を継続してきた。ハイブリッド自動車や電気自動車の普及、次世代通信網立ち上がりにともなう基地局拡大によるコンデンサー需要の高まりが予想され、今後も着実な成長が見込まれている。
 そんな同社の強みの一つが、環境に配慮した経営である。アルミ部品製造業は生産工程で大量の水や洗浄剤を使うが、同社は2003年、業界に先駆けて洗浄剤を塩素系から炭化水素系に切り替えた。
 「得意先から『これからは環境に悪い洗浄剤は使えなくなるかもしれない。先陣を切って切り替えたらどうか』と提案があり、思いきって切り替えました。環境に良い分、汚れの落ちが悪く、慣れるまでは大変でしたが、『環境経営に力を入れないと将来的に大手の得意先と取引できなくなるかもしれない』というリスクの方が大きかったですね。14年に新しい洗浄機を導入しさらに効率性を高めたほか、工場内の重油使用を撤廃し二酸化炭素排出量の削減も実現しました」(来昌伸社長)
 同社は環境省が策定した日本独自の環境マネジメントシステム(EMS)「エコアクション21」の認証を10年に取得。環境活動を詳細に記録した環境経営レポートは行政から高い評価を受け、環境コミュニケーション大賞(環境省)の環境活動レポート部門をこれまで7回受賞した。その授賞式で近年審査員の口からたびたび耳にするようになったのが、「SDGs」である。
 「17年2月の授賞式でその言葉を知ったのが、当社で取り組みを始めるきっかけになりました。しかし、いかんせん中小企業では調べてみても事例がありません。独自の方法で一から始めると決めたはいいものの、何から手を付けていいのか最初は分かりませんでした」(石原隆雅係長)
 翌年の18年もめでたく同賞を受賞した同社。公式パンフレットに掲載する記事を作成するため、取材で環境省の職員が同社を訪れた。そのときのやりとりがその後の運命を大きく左右する。
 「取材の終盤でインタビュアーの方から次の目標を聞かれ、私は『SDGs』に取り組みたいと答えたんですね。するとその場で、『SDGsについてガイドラインをつくる事業がある、モデル企業として参加してみないか』と誘われたのです」(石原係長)
 その後9月に環境省から正式に依頼文が届いた。委託のコンサルタントとともに現状分析からはじめ、どのような取り組みが効果的か議論を重ねた。その結果生み出したのが、「私のSDGs」である。石原係長が経緯について振り返る。
 「国連が出しているSDGsのガイドラインは数百ページもあり、17のアイコンだけならまだしも具体的なターゲットの数は169にものぼります。少し読み進めてみても難しい言葉がずらり。これを勉強しようとしても絶対先に進みません。費用をかけずにどうやって従業員全体を巻き込んだ活動ができるか。そうして考えたのが、ひとりひとりにSDGsに関する簡単な目標を立ててもらい、一定期間が経過したのちにその結果を10点満点で評価してもらうことにのです」
 そもそもSDGsは「誰一人取り残さない」包摂性の理念を高く掲げている。同社の従業員の4割は外国人スタッフで、パート従業員も多い。事務局だけで盛り上がるのでは何のための社内活動かわからない。そこで「個人戦」(石原氏)をしかけたというわけである。幸い同社が全社的に環境活動を始めたのが10年9月。すでに8年の活動歴があり、社内にアレルギーはなかった。では経済・環境・社会にかかわる個人の目標として具体的にどんなものがあったのだろうか。
 「最初は半期の6カ月間、その後は決算期の1年間ごとで個人の目標を立ててSDGsに取り組んでもらいました。最初に多かったのは『買い物のときにエコバッグを使う』『社内で取り組んでいるペットボトルとそのふたの収集に協力する』『募金活動に協力する』『社用車のエコドライブに力を入れる』などですが、思いのほかみなまじめに取り組んでくれました」(石原係長)
 ここで重要視したのが、従業員一人一人の自主性を尊重し、SDGsの推進活動を成長の機会としてとらえること。目標達成のための支援は惜しみなく行った。エネルギー使用量の削減を目標にした社員には、月次の経費をすべて公開。排出係数を用いた二酸化炭素排出量や燃料の原油換算などを簡単に行えるエクセルのファイルも作成して提供した。そこまで親身に支援したのは、「数字を追うことができるだけでも立派に合格」という考えがあったからである。石原係長は「数字を目で見て確認することで具体的な提案が思いつきますし、本人の成長にもつながります。場合によってはもっと勉強して関連する資格をとりたいと思うようになるかもしれません」とその狙いを語る。
クイズ形式で気軽に学習
 この取り組みを始めて今年で3年目。まだ新たなアイデアに結びつくまでには至っていないが、各個人の理解度の進歩は実感している。当初は環境活動をSDGsに紐(ひも)づけした目標が多かったが、年を追うごとに内容が多様化しているのだ。例えば17番のパートナーシップについて言及する従業員が増え、「ボランティア活動への参加」に対する取り組みも目立ってきているという。
 研修や壁新聞などで継続的な従業員教育を行っているのも来ハトメ工業の特徴の一つである。同社では毎週火曜日の午前10時からQC会議を開催しているが、会議時間中の一コマを使って毎回環境活動について研修を行っている。現場担当者が講師を務め電力やガソリン使用量の現状などについて報告、その枠でSDGs関連の情報伝達を行うことが多いという。
 「研修は気軽に参加できるようクイズ形式にしています。『生物多様性に関するSDGsのアイコンはどれか』『基本理念の文章について正誤判断せよ』のような簡単なものです。個人レベルに浸透させるためには、ハードルを高くしすぎてはいけません」
 今後は「より幅広い項目で取り組みを増やし、活動の質を高めたい」という石原係長。最近ではテレビのニュースなどで耳にする機会も増え、知名度が上がりつつあるSDGs。従業員からは「早くから取り組んでいてよかった」という声が聞こえてくるようになったという。

COMPANY DATA
来ハトメ工業株式会社
創 業 1946年3月
所在地 埼玉県八潮市大瀬203-1
売上高 約8億円
社員数 35名
URL http://www.rai-hatome.co.jp/