岩手県二戸市の南部美人、小松製菓、久慈ファームの3社は1月24日、宗教上の理由で食の禁忌規定を順守している人やビーガン(完全菜食主義者)などに対し安心して食事を楽しめる環境づくりアピールする「フードダイバーシティ宣言」を行った。岩手県や二戸市など自治体のバックアップも受けながら、食の多様性対応が進んだ世界標準の町を目指す。

 フードダイバーシティ宣言では、日本在住者やインバウンド客を含めた世界中のあらゆる人が安心して食事を楽しむことができる環境を整えると明記。輸出については「世界中どこへでも二戸市の産品を届けるために、世界標準でのモノづくりを目指します」、SDGsについては「『誰も置き去りにしない』の理念にのっとった活動を推進していきます」とうたったうえで、「二戸市が世界と日本を食でつなぐドアとなる」「二戸市が食からSDGsを推進し、未来の日本を作るドアとなる」の「2ドア」を宣言した。
 宣言のきっかけは日本酒の蔵元・南部美人の久慈浩介社長だ。同社は1997年に海外輸出をはじめ、今では世界46カ国へ輸出しているが、海外出張などで久慈社長はかねてから、世界中に食の禁忌者と言われる人々が多数存在していることを実感してきた。
 「今、世界中から日本に来るインバウンドの食の禁忌者の方々は、安心して食べられるものがわからない状況で、呆然(ぼうぜん)とさまよっています。自国から食べられるものを持参する方々も多く、それでは真の意味で日本を楽しんでもらっているとは言えません」
 同社が製造販売している日本酒の原料は極めてシンプルで、動物性原料も含まれない。世界中に存在する禁忌者向けに対する需要が掘り起こせるのではないか。こう考えた久慈社長はまず2013年に、ユダヤ教の食餌規定を満たすコーシャの認定を取得、さらに19年1月には世界初の日本酒でのビーガン(肉や魚、卵、乳製品を含む動物性食品を一切口にしない完全菜食主義者)認証を取得した。
 「米と水、麹だけでつくられている日本酒がビーガン対応なのは当たり前のことです。しかしそれが世界の人々に伝わっていないのが問題でした。そこで私たちは、認証取得を通じ見える化したのです。これで当社の日本酒は、ビーガンの人も通常食の人も世界中で安心して飲めるお酒になりました。認証取得を公表してから、ビーガン対応の飲食店などから直接多くの注文が寄せられており、その効果を実感しています」
 国内ではNPO法人ベジプロジェクトジャパン、海外ではザ・ビーガン・ソサエティが発行する認証を取得し、同社が海外輸出用に販売するすべての製品が国内初・世界初のビーガン認証日本酒となった。しかし久慈社長によると、認証取得のために酒造りの工程は一切変えなかったという。
 「今までよりおいしくないものを提供するのなら認証を取る意味はまったくありません。ありのままの自分を世界に認めてもらうという点については、19年12月にビーガン認証を取得した小松製菓さんも同じだと思います」
 小松製菓は、東北のソウルフードとも呼ばれる「南部せんべい」を製造販売している老舗。12月までに5商品で世界初となるせんべいでの認証を取得した。小松豊社長は宣言参加の理由をこう話す。
 「南部せんべいは小麦粉と塩、膨張剤など原材料は4〜5種類しか入っていない極めてシンプルな加工食品ですが、認知度が低いのが課題でした。久慈社長から認証のことを聞き、世界中の多くの人に南部せんべいの味を知ってもらいたいと思い取得を決めました。認証を取得するために開発した商品はなく、すべて今まで販売している商品のままです」

ハラール認証取得も計画
 日本酒とせんべいがビーガン認証を取得するのは自然な流れだが、そのままストレートに「ビーガンライク」を打ち出すことはできなかった。なにしろ二戸市の基幹産業の一つは鶏肉、豚肉、牛肉という「三大ミート」で、行政も積極的に振興しているのである。ビーガン一辺倒では幅広い関係者の理解を得られないおそれがあった。
 そうした懸念を解消したのが、久慈ファームである。同社は3代続く養豚事業者だが、2年前から参入した鶏肉の販売でハラール認証取得を目指したのだ。同社の久慈剛志社長は、宣言に参加した理由をこう語る。
 「当社は長年『折爪三元豚(おりづめさんげんとん) 佐助』を飼育してきましたが、その間肉の多様化はずいぶん進みました。世界的に評価の高い和牛の生産地である日本でも、最近では赤身肉がブームになっています。そうした肉の多様性への対応策の一つとして、当社は2018年から二戸市が全国指折りの生産地となっている『熟レ鳥』の販売を開始し、ハラール認証を申請することを決めました」
 コーシャ認証やビーガン認証だけでなく、ハラール認証を取得予定の久慈ファームが加わることで、参加企業のバラエティーがぐっと豊かになったのである。今後は市内のさまざまな生産者や飲食系企業にも幅広く参加を呼び掛けていく予定だという。また、二戸市内だけでなく、岩手県全体への拡大も視野に入れている。
 さらには著名ビーガン・ハラールレストランの「菜道」(東京都目黒区)のサポートを得ながら、二戸市内などでビーガン、ハラール料理を食べられるレストランを増やす活動にも取り組んでいく。すでに小松製菓の持つ和食レストラン「四季の里」ではビーガンとハラール料理の提供準備を、南部美人がこの春にオープンさせる蔵の敷地内にある酒バーではオールビーガンの提供準備を進めているという。