やまもと・ひでひこ
兵庫県出身。九州工業大学卒業。大手電子部品メーカのエンジニア、外資系知財コンサルタント、特許事務所の弁理士、中小企業の知財部長を経て2015年に独立。2017年にテクノアイデア設立、代表取締役に就任。

「社外の知財部」で中小企業の特許活用を支援

 2019年10月からサービスを開始した「ライセンスバンク」は、中小企業が発明した特許を当社が預かることで、特許に関し発生するさまざまな費用を月額1万円からの定額に変えることができる全く新しいサービスです。通常、特許を取ろうとするとき(出願時)は、弁理士のような代理人を立てて特許庁とやり取りを行います。取得した特許の権利は技術開発をした企業が保有します。弁理士は、特許庁との煩雑なやり取りを仲介してくれますが、特許を取得した後の権利の行使には基本的に関与しません。しかし、ライセンスバンクでは、テクノアイデアが特許を所有する形をとります。技術開発をした企業は独占的に使用する権利(独占ライセンス)をテクノアイデアとの契約により保有します。これにより、名義はテクノアイデアとなり、実際に特許を使えるのは技術開発をした企業となるわけです。
 この方法の最大のメリットは、特許に関するさまざまな煩雑な業務から中小企業が解放されることです。保有している特許を他の企業に侵害された場合、警告をしたり、最終的には裁判を起こすことになります。その場合は弁護士を立てたうえで会社同士の協議にのぞまなければなりません。またライセンス交渉の話が舞い込むこともあるでしょう。そうした交渉の場に企業が前面に立つ必要がありますが、特許業務は複雑で、一朝一夕でどうにかなるものではありません。手間も費用もかかるうえ、企業が的確な判断をくだすにはおのずと限界が生じます。
 ライセンスバンクを活用すれば、特許を保有しているのはあくまでテクノアイデアなので、仮に裁判になったとしても原告はテクノアイデアです。また特許を発明した中小企業の意向を確認しながら、ライセンス交渉などの交渉事はすべてテクノアイデアが行います。アイデアを思い付いた企業は、別途弁護士や弁理士と契約することなく、商品開発などその特許をどのようにビジネスに生かすかだけに専念すればよいのです。特許の取得や契約書関連のサポートのみなら月額1万円から利用が可能で、裁判での対応やライセンス交渉、商品開発コンサルティングなどは別の支援サービスをオプションで加えることができます。
 しかしこのサブスクリプション費用だけでは到底当社の経営は成り立ちません。そこで特許を用いて企業が商品の販売やサービス提供を行った場合、売上金額の最大5%を売り上げ連動報酬としていただける契約にしています。特許を活用した商品が売れれば売れるほどテクノアイデアの収入も増えるので、特許を有効に活用するインセンティブが生じます。また違法に模倣され売り上げ減につながりかねない事態が想定されるときには、それをやめさせる活動も積極的に行います。契約は基本的に5年間で、5年を経過した後は特許を当社が保有したまま解約することや、特許を買い戻すことも可能になります。

ECサイトの展開も視野に
 私は2010年に弁理士登録して最初は特許事務所に入り、その後京都のナベルという企業に勤めました。同社は卵をパックに詰める機械で市場シェア8割のニッチトップ。中小企業には珍しく知財部門があり、責任者として特許関連業務に従事するなかで、特許をうまく使えば中小企業でも業績を大きく上向けられることを体験できました。
 しかし同時に痛感したのは、世の中には特許でたくさん困っている会社があるということ。特許に強い同社には他の中小企業から次第に特許に関する相談が持ち込まれるようになり、多岐にわたる相談を受けるなかで浮かんだアイデアがこのライセンスバンクでした。社内の知財関連事務を知財部が担うのであれば、独立した部署を作る余裕のない中小企業のために「社外の知財部」があってもよいのではないかと考えたのです。知財について幅広く中小企業を支援する目的で、2015年に独立して特許事務所を開設、17年にテクノアイデアを創業しました。
 一般的に特許を出願してから取得するまで1件あたり100万円ほどの費用がかかります。そうした現実を伝えると、ほとんどの中小企業経営者は、「そんな費用は出せない」と言います。そもそも「特許はうちの会社には関係ない」と関心がないケースも多く、「特許をとったらすぐに商品が売れるようになるのか」と誤解を抱いている経営者もいます。ライセンスバンクは、このような中小企業の悩みや誤解を解消するのを目的としてはじめたサービスです。
 現在はコロナ禍でなかなかスムーズに活動できませんが、サービスページの立ち上げやプレスリリースの公開、ズームを通じた商談等で契約企業の拡大を図っています。先日はQRコードを利用して私物の整理整頓ができる便利グッズ「patQ(パットキュー)」がNHKに取り上げられるなど、メディアで扱われるような特許も出始めました。「特許をとったはいいが商品をどのように売ったらいいか分からない」という経営者の声が多く寄せられているため、ライセンスバンクで取得した特許を使った商品を掲載するECサイトの展開も構想しています。また当社で預かった特許がある程度の数に達すれば、大手企業に対して交渉力を持てるようになります。そうした場合に当社の特許を包括的にライセンスするといったビジネス展開も可能になるでしょう。中小企業の知財ニーズに寄り添いながら、まずは登録特許数1000件を目指していきたいと思います。