「当社では350名ほどが働いていますが、65歳以上のスタッフが約1割を占めています。シニア世代を積極的に雇用しているわけではなく、気づいたら増えていたというのが実感ですね」

 人事部の木下晋二氏はこう話す。福井県内でコンビニエンスストア「オレンジボックス」をはじめ、12店舗を運営している大津屋。「ダイニングコンビニ」を掲げ、店内調理される豊富な総菜が売りだ。ソースカツ丼やたくあんのうま煮、麩のからし和えといった郷土料理もならぶ。

 コンビニ店員といえば、接客や商品陳列、発注など多岐にわたる業務が思い浮かぶ。同店の場合、それらに総菜や弁当の調理も加わる。「高齢だからという理由で業務を限定することはありません」と木下氏。シニア世代のスタッフは店員として、あるいは店長や商品開発担当として幅広く活躍している。現場で目に留まるのが、さまざまな機械設備導入の取り組み。人工知能(AI)画像認識システムと連動するレジシステムである「総菜自動会計システム」はその代表格といえる。

 来店客はレジ会計の際、パック詰めした総菜をレジ前の量り台にのせる。量り台上部のカメラによりAIが商品を識別し、精算額を算出。スタッフは商品名を確認後ワンタッチすれば、精算額がレジに連動する仕組みだ。京都市にある計量機器メーカーと共同で開発した。

 「自動会計システムを導入する前は、商品ごとの価格を覚えておく必要があり、忘れたときは価格表で調べたり、売り場に出て確認する必要がありました。金額が頭に叩き込まれているベテランスタッフは多いものの、やはり面倒な作業でした」(マーケティング部・小原渓子さん)

 なにしろ総菜のラインアップは70種類ある。そのうち30〜40種類が常時店頭にならび、さらに季節限定のメニューも毎月のように投入される。

 多岐にわたる機械化

 このシステムの開発にあたり、テスト店を設けて限定的に運用した。レジ会計頻度に比例して、画像認識の精度は向上。1年半のテスト期間を経て、手ごたえを得られた。利用店が増えた結果、識別精度はいっそう高まっていく。いまや総菜の量り売りを実施している全店舗で導入されており、客が精算を行うセミセルフ式精算機の配備も順次進めている。機械化はレジ回りにとどまらない。

 「総菜を扱う店舗では、大量の食材を大型ガスコンロで調理したり、商品を一品ずつ包装したり、体力を使う仕事も少なくありません。調理場に自動攪拌機や真空包装機を導入し、スタッフの負担軽減や業務効率化を図っています」(木下氏)

 同社は全国に点在するご当地コンビニの草分け的存在で、福井県内初となる1号店をオープンしたのは1981年にさかのぼる。その4年後には、24時間営業の店舗も開設した。2号店は大学正門前という立地柄、学生アルバイトが多く人員に恵まれていたが、問題も発生していた。

 「急な欠勤があったり、業務に慣れてくると不正行為が発生したり……。学生のアルバイトだけで運営していくのに限界を感じるようになりました。そこで社員を募集したところ、定年退職者をはじめとする中高年の人から応募が相次いだんです。当時設けられていた、55歳以上の人材採用促進を目的とする助成金も活用しました。中高年の方は責任感が強く、何より安定した勤務が見込めるのはありがたかったです」(同)

 中高年のスタッフが店舗の中核を担うようになると、夜間営業時間帯の責任者や新人アルバイトの指導役など、役割は徐々に重要性を帯びていった。定年である65歳を上回るスタッフもいつしか珍しくなくなった。2019年には定年を70歳に移行し、希望者が73歳まで働くことのできる継続雇用制度も設けた。

 「定年を65歳に設定していたころ、70歳前後のスタッフがすでに多く在籍していました。本人の希望がないかぎり、65歳で退職してほしいといった話を持ちかけることはありませんでした。スタッフの勤務状況に合わせて就業規則を見直したのが実情です」(同)

 意欲を引き出す評価制度

 人事評価にも工夫をこらす。コンビニ事業開始当初から採用しているのが「コンピテンシー評価」といわれる制度。成果を残している社員の行動特性を基準に判断する評価手法で、同社では管理職、非管理職、パート・アルバイトの3種類の評価シートを設けている。

 例えば、非管理職、パート・アルバイトのシートには「目標達成」や「自己管理力」といった六つの評価項目が設けられ、本人と直属上司などがそれぞれの項目に8段階の点数をつける。木下氏はこう語る。

 「コンピテンシー評価による点数に基づいて、階級などの待遇が決まります。シニア世代は階級が上がりづらいとか、中堅社員と差がひらきやすいといったことはありません。上司との面談機会を毎年2回設け、半期ごとの評価結果を元に、評価の高かった点や課題事項などを話し合っています。待遇の根拠を数字で明示できるのがこの評価制度の特徴です」

 シニア世代のスタッフは若手従業員に対する指導役としても期待されている。経験豊富なベテランが若手スタッフの指導役を担う「ペア就労」、シニア社員が新人スタッフの相談にのったり、教育を担当する「メンター制度」を採用。マナーの習得をはじめ、若手の定着を促すのにひと役買っている。

 シニア世代を念頭に置いた職場環境や人事制度を整備してきたわけではなく、シニア層スタッフの比率が結果的に高まった点を強調する木下氏。とはいえ、何らかの働きやすさを感じているからこそ、勤続年数がおのずと伸びているにちがいない。

 「企業の成功事例などを題材とする、『ケースメソッド』というディスカッション形式の研修会を2カ月に1回開催しています。勇気、礼節、寛容をモットーに、年齢、役職に関係なく意見を述べ合います。他者の意見を批判せず、寛容に受け止める精神が社内に醸成されているのを感じます」(同)

 天正元年(1573年)当時営んでいた酒造業にルーツを持つという大津屋。業態を巧みに変化させ、事業を400年以上継続させてきた。経営を根底で支えてきたのは、多彩な人材の力なのだろう。

 

COMPANY DATA

株式会社大津屋

創 業 1573年

所在地 福井県福井市西木田1-20-17

売上高 約21億円

社員数 350名(パート、アルバイト含む)