くりやま・しゅうご
京都芸術大学卒。イタリア留学後、楽天でブランドマネジメント室室長をつとめた後、フェイスブックジャパンでクリエイティブストラテジストとして活躍。世界中の企業を対象にインスタグラムの広告クリエイティブディレクションに携わる。現在は、サイバークラフト株式会社の創業メンバーとしてクリエイティブの責任者をつとめている。

──SNSを採用活動に生かすための留意点は?
栗山 採用に限らず、企業がSNSでマーケティングを行う際に、「達成すべき目標」をしっかりと立てずに、カジュアルにスタートするケースが非常に多いと思います。ウェブサイトやECサイトのビジュアルや文章をそのまま引用して、簡単な気持ちで安易に運用に入ってしまう。そうなると、とりあえず「運用する」ことが目的化してしまい、組織として何のためにリソースをかけているのかがあいまいになってしまいます。
──どのようにすればよいのでしょう。
栗山 まず、達成すべき目標を立ててください。採用であれば、たとえば「どんな人を何人採るか」といった目標ですね。そして、その目標に沿うかたちでサイトを構築し、興味喚起を行いながらフォロワーを増やしていきコンバージョン(獲得)にまで持って行く。これが理想です。
 
「親指を止めさせる」
──具体的に教えてください。
栗山 採用におけるSNS広告では、突発的なニーズが多いため、企業が採用したいタイミングで適当な画像とコピーライティングで出稿してしまいがちです。
 上の【広告例】をご覧ください。「未経験から年収500万円 今すぐエントリー!」と分かりやすく「年収押し」を強調していますが、誰に向けられたコピーなのか、どこが魅力的なのかがあいまいで、どこからエントリーしたらよいのかさえ判然としません。画像もありきたりです。SNSの場合、ユーザーは自分の興味のある情報を探しに来ているので、一方的な配信では何の効果も期待できません。
──確かにあいまいですね。
栗山 われわれの間では「親指を止めさせる」と表現するのですが、ファーストステップとして画面のスクロールを止めさせるための工夫が必要です。どのような環境で、どのような仲間と働けて、どのような顧客に対応するのかが一目で分かるようなビジュアルを用意すべきです。営業職でもクリエーティブでも美容師でも同じ。まずは「自分に関係ありそうだ」と思わせることが大事です。
──なるほど。
栗山 たとえば、「リモートワーク可能」を強調したい場合、「自宅のデスクにPCが置いてあり、傍にコーヒーカップ」といった図柄を採用しがちです。しかし、それでは、ありきたり過ぎてユーザーへフックにはなり得ません。ところが、自然のなかのコテージやおしゃれなカフェといったビジュアルを背景に使用すれば、「どこにいても自由に働けるんだ」と、一気にユーザーの想像力に訴えかけることができます。
──つまり、どう興味を持ってもらうかという入り口の部分が大切なわけですね。
栗山 そういうことです。まずはユーザーの興味を呼び起こす。そして、それをフックにして、会社や職種の魅力を理解してもらう。その場合、ただ単に年収がどう、福利厚生がどうというよりも、会社全体の魅力を発信する姿勢が必要です。社内の風景を配信してもいいし、工場ラインを紹介する動画でもいいでしょう。働いている人たちのインタビューを掲載しても面白いと思います。ユーザー自身が働いているところを明確にイメージできるような内容ですね。ただ、気を付けたいのは情報をシンプルにまとめること。そして、ユーザーにとっての「ベネフィット」を明確にすること。要するに、ユーザーに「刺さる」内容を意識してください。会社側のひとりよがりの「思い」は、実はユーザーにとってはどうでもいいことなのです。そして、最終的に採用ぺージに飛べるような誘導路を明確にしておけば、ヒット率は飛躍的に上がると思います。
──SNSにもさまざまありますが、お勧めは?
栗山 私はフェイスブックジャパンに在籍していたので、どうしてもインスタグラムに言及する機会が多いのですが、基本的には連携して利用されることをお勧めします。たとえば、ビジュアルに強みのあるインスタグラムに対して、リツイート機能のあるツイッターは「拡散」に優れているので、キャンペーンを告知したいときはツイッターで行い、それをインスタに連携して視覚的に伝えるという方法もあると思います。つまり、採用活動のスタートをツイッターで、自社の魅力をインスタグラムで……というイメージでしょうか。
 
動画は「15秒以内」で
──動画を制作する際のコツはありますか。
栗山 端末の種類にもよりますが、スマホの場合、「興味がない」と感じればほんの数秒で再生をやめてしまう人がほとんどです。そのため、まず結論から入ってください。結論を後ろに置きたい場合には、とにかく目を引く印象的な内容を最初に置く構成を心がけることです。ユーザーを「何か気になる」という状態にしておいてから、徐々に引き込むのです。
──尺は?
栗山 プラットフォームにもよりますが、私は15秒を推奨しています。インスタグラムにはスライドショーのように画像や動画が投稿できる「ストーリーズ」という人気の機能があり、これも15秒が基本です。TikTokなんかもそうですよね。いま、人々の情報取得のために費やす時間は非常に短くなっています。普通、スマホで1分の動画はまず見ません。一方で、ユーチューブは、比較的長尺のものを落ち着いてみる際に利用します。なので、インスタグラムでユーザーを引きつけて、ユーチューブでゆっくり解説するという方法も有力だと思います。
──今や採用活動にSNSは必須なのでしょうか。
栗山 求職者の最終的な決断に直結しているとはいえないかもしれませんが、会社を認知してもらい検討をうながすツールとしては非常に使い勝手のよいものだと思います。双方向性が高いのも魅力ですね。たとえば、前述の「ストーリーズ」には質問機能があり、フォロワーが質問を投げかけることができます。たとえば求職者から「商品企画に興味があるがコンセプトづくりからデザインまで担当できるのでしょうか」という質問が来た際に、担当者が即座に答える体制を整えてもよいし、もっといえば、「インスタライブ」で生のやりとりだって可能です。現代は企業に「透明性」が求められる時代。気軽にインタラクティブなやり取りができるSNSは、採用のみならず経営にとってますます重要性を増していくでしょう。