シェフ、マーケター、科学者がタッグを組み、食の課題解決を目指すドットサイエンス。食用花の専門店「エディブルガーデン」で扱う商品は、どれも化学農薬不使用。食用バラが通年出荷可能な、完全閉鎖型の植物工場システムを確立し、注目を集めている。

 皿やグラスに盛りつけられた色とりどりの花。いずれも食べることのできるエディブルフラワー(食用花)だ。観賞用の花は農薬や薬剤が用いられるのに対して、食用花とは食用として安全に栽培された花を指す。目で、そして舌でも楽しめるとあって、飲食店を中心に需要が高まっている。
 「食用花の歴史は古く、江戸時代の文献にキクやボタン、シャクヤクなどが用いられた例が記録されています。日本人になじみの深い食用花として、刺し身に添えられるキクがよく知られていますが、ビオラ、マリーゴールド、カーネーション等さまざまな花が食用として流通しています。ただ、大半の商品は農薬を用いて栽培されているので、100%安全とは言い切れません」
 こう切り出すのは、ドットサイエンスで品質調査分析などを担っている木村龍典(りゆうすけ)取締役。同社の運営する「エディブルガーデン」では、ミシュランガイド星付きレストランでも使用される食用花を扱い、最高品質をうたう。品質の高さを担保するのが、安全性と鮮度という二つの要素である。

各地の植物工場から直送
 例えば、2020年12月に販売を開始した「ノーベルローズ」。香りや甘み等のバランスに優れた看板商品だ。商品名は発明家のアルフレッド・ノーベルと、革新的との意味を持つ“novel”にちなむ。
 バラは無農薬栽培がむずかしく、4月から11月にかけて出荷される。ドットサイエンスは、完全閉鎖型の植物工場をメーカーと共同開発し、通年での出荷を可能にした。工場内では衛生管理を徹底し、害虫の侵入を防止。さらにLED光源を用いて光量、光質をコントロールするほか、二酸化炭素濃度を調節するなど、最適な栽培環境を実現している。
 「エディブルガーデンの食用花は栽培過程において、化学農薬を一切使用していません。植物工場での栽培により、バラの品薄になる時期でも安定した出荷量を確保できます」(木村氏)
 クリスマスやバレンタインデーといった花を想起させるイベントを控え、数多くの店舗から予約注文を受け付けているという。
 そして、鮮度保持の取り組みもぬかりない。花の収穫は、呼吸量が安定している午前中におこなう。品質を点検後、緩衝材と共にケースに梱包し、4〜7度で冷蔵保存する。鮮度を保つ上で重要な「予冷」と呼ばれる工程だ。
 「花には、呼吸すると水分を放出し、しおれていく性質があります。収穫後に予冷して呼吸量を抑えれば、劣化を防止できます。呼吸量がいったん低下した花は外気にふれても、呼吸量が低い状態のまま推移するとの実験結果が判明しています」
 栽培から梱包にいたる工程は手作業で行われ、収穫後12時間以内に出荷される。生産しているのは、北は福島県から沖縄県までの全国15カ所の拠点。ドットサイエンスが顧客の注文をもとに生産農家に出荷を指示すると、商品が顧客に直送される。
 「そもそも食用花は生産量が少なく、市場に流通する品種も日々変動するため、購入希望者が品種や色を指定しづらいという課題がありました。エディブルガーデンでは多様な食用花の中から、お好みの商品を指定して注文することができます」
 取引先の業態はカフェと洋菓子店、卸売店で7割ほどを占める。コロナ禍で婚礼会場における需要が減退したものの、食用花の認知度は着実に高まっているという。背景にあるのは、ソーシャルメディアでの露出機会の増加だ。
 「インスタグラムには数多くの#EDIBLEFLOWERSという投稿が目に留まるようになりました。エディブルガーデンでも昨年以降、一般家庭向けの販売が伸張しています。外食を控えるぶん、自宅で食卓をかこむ際に華やかな気分や、いやしを求めるニーズが高まっているのかもしれません」

機能を分析し公表
 コロナ禍による巣ごもり需要の拡大を追い風に、一般家庭でも目に付くようになった食用花。とはいえ、花といえば観賞用途を思い浮かべる場合が依然多いのも確か。「ニッチでクローズドな市場なので、情報を惜しみなく公開して日常生活への浸透を図りたい」と木村氏が話すとおり、自社運営サイトでの情報発信に力を注ぐ。とりわけ同業のサイトと一線を画すのが、「可視化」への取り組み。渋みや香り、持続性など6種類の指標からなるレーダーチャートにより、ブランドごとの特徴を図示する。加えて、食用花の機能性、香気成分に関する研究成果も随時公表している。
 「これまでの研究活動を通して、ビオラがどの食材にも引けを取らないほど、豊富なポリフェノールを含んでいることを証明できました。また、当社では世界最高水準の香り高さを誇る食用バラも栽培しています。食用花の効用を可視化し、未来の食材として定着させたいです」
 こう強調する木村氏。大学院で植物生理学を学んだあと、植物工場の開発を手がける企業に入社し、経営企画などに携わってきた。植物工場で主に栽培されていたのは、レタスやホウレンソウといった葉物野菜が中心だった。味の差別化が図りづらく、大規模生産者に価格競争力で引けを取る状況を目の当たりにし着目したのが、市場の成熟していない食用花の可能性だった。
 商品ラインアップが80種類まで拡大したいま、食用花を原料に用いた食品開発という新たな事業展開をもくろむ。同社の取締役である料理人の田村浩二氏や、食用花の活用に精通するフードコーディネーターと共に、商品開発を進めているところだ。
 「スイーツや漬物など、候補となる品目は数点に絞られつつあります。来年前半にかけて、5〜10アイテムほどを商品化し、発売する予定です」
 商品化が成功したあかつきには、食用花はいっそう身近な存在となるにちがいない。

COMPANY DATA
ドットサイエンス株式会社
設 立 2017年9月
所在地 東京都新宿区余丁町12-29
社員数 3名