宮崎県宮崎市に本社を置くワン・ステップは空気を入れて組み立てる「エアー遊具」のリーディングカンパニー。そんな同社が手がける「簡易陰圧室」が全国の福祉施設や医療機関などから注目を集めている。開発秘話を山元洋幸社長に聞いた。

 子ども向けの巨大遊具、動物型のボールプール、全長100メートルのウォータースライダー……。同社がこれまでに手がけてきたアイテムは優に400点を超える。そのほとんどが空気を注入して組み立てる「エアー遊具」で、主に全国の商業施設、イベント会場、遊園地などに向けて貸し出しや販売を行ってきた。
 山元洋幸社長は自社の強みをこう説明する。
 「当社のアピールポイントはバラエティー豊かな商品ラインアップとお客さまのニーズを速やかに形にする機動力です。毎年50〜100にのぼる新商品をリリースしており、顧客からの注文をもとに開発したオーダーメード品も少なくありません」
 エアー遊具市場は競合相手が少ない「ニッチ産業」だ。同社が参入した2002年当時もライバルは数えるほどしかおらず、特に九州地方でエアー遊具を展開している会社は皆無に等しかった。こうした市場の希少性に加えて、確かな商品開発力と顧客にとことん寄り添う姿勢が評判を呼び、徐々に取引先が拡大。「大口のお客さまである広告代理店やイベント会社を通して取引先を紹介していただくこともあります」と山元社長は言う。
 その成果は数字にも表れており、売上高は創業以来常に右肩上がりで推移。特に19年には過去最高となる6億1200万円を記録するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を遂げてきた。

コロナ禍で売上高9割減に
 しかし、好事魔多しと言わんばかりに「創業以来最大の危機」(山元社長)が同社を襲う。コロナパンデミックである。未曽有の感染症が猖獗(しようけつ)を極めたことでイベントが軒並み中止となり、エアー遊具の需要が瞬く間に蒸発。特に書き入れ時である4、5月の売上高は外出自粛の影響で前年同月比9割減まで落ち込んだ。
 山元社長は言う。
 「自然災害や感染症の流行などこれまで多くの危機やトラブルに見舞われてきましたが、そのつど対策を講じて克服してきたので、今回も『何とかなるだろう』と楽観視していました。ところがコロナ感染者が増えはじめ、イベントが続々と中止されると次第に業績も落ち込むようになり、エアー遊具関連の売り上げが前年比で1割程度しか上がらなかったときはさすがに危機感を覚えましたね」
 とはいえ、ただ現状を悲観するだけでは事態は好転しない。山元社長は絶体絶命の状況に追い込まれても懸命に前を向き、この状態をいかにして乗り越えるかを志向したという。
 「20年の4月頃に、当社の顧問税理士である中村眞先生、経営コンサルタントの方と面談し、直近1年間の業績をシミュレーションしました。すると、売り上げが前年比3割で推移した場合に、『翌年の2月に債務超過、5月に資金ショートに陥る可能性が高い』という結果が出たのです。一方、5割で推移すれば向こう2年は存続できる見通しが立つため、まずは売上高を前年比50%に戻すための打ち手を考え、実行することにしました」
 むしろデッドラインが明らかになったことで、「社員が混乱することなく業績を確保するための新しい取り組みに着手できた」と山元社長は続ける。
 その新しい取り組みとは「エアー注入式の簡易陰圧室」の開発である。

1億円超の売り上げを達成
 陰圧室とは主に感染症患者の隔離・検査に用いられるスペースで、室内の空気圧が外よりも低くなるように管理されている。空気には気圧の高い場所から低い場所に向かって流れる特性があるため、室内を常に気圧の低い状態に保つことで、感染者が吐き出す空気が外に漏れにくくなるという仕組みだ。
 同社が手がける簡易陰圧室は空気を注入するだけで設営できる極めてシンプルなもの。組み立てにかかる時間も2〜3分と短く、空気を抜けばコンパクトに折りたためるので収納も簡単。さらに空気清浄機やクリーンルームのメインフィルターとして用いられる「HEPAフィルター」付きの陰圧装置が付属しているため、空気中に含まれる細菌やウイルスを99%以上カットして排気する。
 「長年培ってきた『空気でモノを膨らませる技術』を横展開して開発しました。空気を入れて組み立てますから設置場所の広さや間取りに合わせてサイズの調整も可能です。お客さまの要望を聞いてから製品づくりに取り掛かることも多く、実際に当社がこれまでに販売したうちの3割はオーダーメード製品です」
 開発にあたり、異業種とも積極的に連携した。簡易陰圧室に欠かせない陰圧装置の製作は、宮崎県の職員を通じて紹介を受けた真空ポンプメーカーのアルバック機工(宮崎県西都市)が担当。また、陰圧室の有効性に関する実験を感染症に詳しい宮崎大学農学部附属動物病院の金子泰之氏らとともに進めた。業界の垣根を超えて連携し、トライ&エラーを繰り返すこと数カ月。昨年10月に販売を開始すると瞬く間に注文が殺到した。21年10月現在で160台ほど販売しており、簡易陰圧室だけで1億5000万円ほどの売り上げを達成。当初の目標だった「前年比50%超」を難なくクリアし、今ではコロナ前の水準まで挽回しつつある。

新商品を続々展開
 とはいえ、冒頭で触れたように同社の主力製品は「エアー遊具」。医療という全くの異分野に参入するにあたって不安はなかったのだろうか。山元社長は続ける。
 「そもそも市場規模がそこまで大きくないので、エアー遊具だけに絞っていたらいずれ頭打ちになるだろうと感じていました。そこで、数年前から当社の『空気でモノを膨らませる』技術を何か別の分野に生かせないかと思い、目を付けていたのが医療や防災用品の市場。日本は自然災害の発生頻度が高く、高齢化も今後ますます進んでいく。医療や防災用品には強いニーズがあるだろうと考え、コロナ前から災害用の貯水タンクや避難所用のパーテーションといった商品を販売していました。現在の業績は簡易陰圧室などの医療用品の躍進もあって少しずつ立ち直りつつありますが、まだまだ予断を許さない状況が続くので、これからも自社の強みを生かした商品を続々と展開していきたいですね」

COMPANY DATA
株式会社ワン・ステップ
設 立 2002年6月
所在地 宮崎県宮崎市清武町今泉甲4625-1
売上高 5億円(2020年12月期)
社員数 25人