経済学などアカデミックな知見を生かしたコンサルティングサービスの提供で知られる東京大学エコノミックコンサルティング(UTEcon)。アルゴリズムの提供や機械学習、自然言語処理などを活用した景気指数・市場予測の公表を開始し注目を集めている。 

 

 2020年8月に東京大学が設立したUTEconは、経済学などの学術的な知見を社会実装することを目的としたコンサルティングサービスを展開してきた。主な顧客は経済産業省、文部科学省、厚生労働省、消費者庁などの中央省庁やアジア開発銀行などの国際機関、民間企業など。とりわけ公共政策部門では「エビデンスに基づく政策立案(Evidence-Based Policy Making:EBPM)」が重視されるようになっており、データや科学による客観的な分析の要請が社会的に高まっている。川原田陽介社長は次のように説明する。 

 「例えばコロナの話でいえば、関連する補助金がそれぞれどのような効果をもたらしたのかをきちんと評価した上で、次の政策立案につなげていくことが求められていわけですが、経済学がこれまで行ってきたさまざまな研究や実験の成果をその過程で利用することが可能です。欧米ではすでに当然のように取り入れられていますが、遅ればせながら日本でも導入が進んでおり、当社も各省庁からの依頼が増えつつあります」 

 民間企業向けの実績も着実に積み重ねている。21年6月にはバッファローへ機械学習に基づいた価格設定アルゴリズムを提供。同社が有する各種販売データを活用し、経済学的な需要推定に機械学習を融合させたアルゴリズムで、新発売するネットワーク機器の値決めをする際に使われたという。 

 オークション流通支援サービスのオークネットとは、「オークション制度設計改革プロジェクト」を共同で実施。着実な成果が出たため、21年8月に包括アドバイザリー契約を締結するに至っている。 

 

半年後の売り上げを予測 

 東京大学をはじめとする国内外の研究者ネットワークをフルに活用したコンサルティングサービスが主力の同社だが、コンサルティングの場合そのプロジェクトに知見の利用が限定されてしまう。そこで昨年11月に新たにサービスを開始したのが、「日経・UTEcon消費財市場予測」だ。東京大学大学院経済学研究科教授の渡辺安虎取締役はいう。 

 「日本経済新聞が提供している日経POS情報を活用し、217カテゴリーに分類した消費財ごとの購買客1000人当たりの売上高、昨年比増減率の6カ月先までの予測を毎月お知らせするサービスです。約7割のカテゴリーで誤差は年間平均15%以内と高い予測精度があり、小売店や消費財メーカーなどでの需要を想定しています」 

 日経POS情報は、全国のスーパーマーケット、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどから収集されたPOSデータサービスで、加工食品や酒類、日曜品など3万8000社、290万商品超の販売実績データが毎日更新される。その規模は年間売上高2兆円、レシート枚数に換算すると10億枚以上にのぼるという。この大量のデータに同社の機械学習のノウハウを組み合わせ、特定カテゴリーの商品の売り上げを予測するのだ。 

 「例えばアイスクリームでも通常と高級の二つのカテゴリーに分かれるなど細かく分類されています。さらに売り上げ予測だけでなく、シェアトップ3社、全国を10地域に分けた地域別の売り上げ予測などの情報も盛り込んでいる。レポートは1カテゴリーにつき4800円からの提供で、生産計画の客観的な傍証にするため食品メーカーなどにご利用いただいています」(渡辺取締役) 

 さらに今年に入り3月には日本経済新聞の記事データを活用した「日経・UTEcon日次景気指数」の提供を開始した。日本経済新聞の記事データを同社が開発したアルゴリズムが解析し、日本の景気動向をいち早く把握する景気指数である。 

 「新聞記事のなかの膨大な単語一つ一つに、景気にとってプラスに働くのかマイナスに働くのかという極性を付与します。それらの極性を付与した『景気単語極性辞書』に基づき、独自の指数アルゴリズムによって毎日算出される景気指標です。毎日集計、日次更新という速報性に加え、より早く景気動向をとらえる先行性も大きな特徴です。景気指標には日銀が公表している日銀短観や内閣府の景気動向指数がありますが、それらの指数と高い相関を持ちながらおよそ3カ月早く変化をとらえることができます」(渡辺取締役) 

 日本経済新聞の過去30年分の記事データと自然言語処理技術に加え、経済の専門家の知見に基づいて景気単語極性辞書を作成しているため、コロナショックのような先例のないイベントの影響も正確に反映できるのもこの指数の優れている点である。「リーマンショック」や「新型コロナウイルス」といった特定のイベント固有の言葉はあえて使用せず、景気に係る一般的な単語のみを使用しているため、過去に起きたことのないイベントの発生時にも景気への影響をとらえる事ができる。3月のリリース後すでに研究機関などにサービスの提供を開始している。 

 海外展開も視野に入れている同社が現在取り組んでいるのは人事領域。新入社員からアンケートで希望部署をヒアリングし、企業側からは部署ごとにどんな新入社員に来てほしいかを聞き取り、自動的にマッチングさせるアルゴリズムの開発を進めている。それぞれの社員が主体的にキャリアを考えるようになるほか、公平性の担保や人事部の業務効率改善が期待できるという。 

 

COMPANY DATA 

東京大学エコノミックコンサルティング 

設立 2020年8月 

所在地 東京都文京区本郷7-3-1国際学術総合研究棟922号室