「社長になるのが夢」と話す若者が経営体質改善目指す 

 

 九州電設は、90人を超える電気工事職人を抱え、電気工事の施工力は県内ナンバーワンと評されている電気工事会社である。創業者の穴井憲義会長は「下請けナンバーワン経営」のビジネスモデルを掲げ、徹底的に下請けに徹することで利益を積み上げてきた。 

 しかしその結果、特定の大手企業に取引が集中してしまうというリスクも顕在化するようになった。建設工事全体からみれば電気工事はスケジュールのしわ寄せがくるケースが多い。いきおい残業が多くなるうえ、景気などの外部環境に左右され仕事が激減するリスクもある。こうした背景から、①特定の取引企業への依存度低減②自社で価格交渉力を発揮し利益率を改善する――などを目的に同社が2020年からスタートしたのが、「くらしのドクター」事業である。高場大貴さんは事業のねらいについて次のように語る。 

 「台湾TSMCやソニーグループなど、半導体工場の建設を控える熊本県ですが、建設業の人手不足、高齢化が深刻化しています。そんな中で、『一般家庭の小さな工事を信頼して任せられる会社がない』という地域住民の声を受けて、高齢者のくらしの中での不安や不便を解消する『くらしのドクター』をスタートさせました」 

 工事は電球の取り替えなど家庭で発生する小さな困りごとに幅広く対応。建物の構造を熟知したプロフェッショナルが在籍しているため、1社で設備の手配と取り付け、電気配線を行えるのが特徴だ。現場スタッフが工事のついでに点検や、重たい荷物を運ぶなどのちょっとしたお手伝いサービスも重ねてきた。   

 この事業を企画し、事業責任者として日々奮闘している高場さんは、福岡大学経済学部を21年に卒業したばかり。普通は新人研修や現場でのOJTで工事技術の習得にあたるのだが、高場さんの場合は違った。入社前の大学4年時に提案したビジネスプランの責任者をいきなりまかされたのである。 

 「くらしのドクター事業は、20年12月に行われたビジネスプランコンテストで優勝したプランでした。私は単位の取得も可能な起業サークルに所属し、1年次からインターンなどに参加していましたが、そのサークルの後輩に70歳を前に大学に入学し経営を学んでいた当社の穴井憲義会長がいたのです。大学在籍4年間でさまざまな企業にインターンで働き、40枚を超える企業経営者の名刺を集めましたが、最後の活動の場となった九州電設に就職することを決めました」 

 ことあるごとに『社長になりたい』と周囲に話していた高場さんを穴井会長は、「社長になる夢を応援するからうちに来ないか」と直接リクルートしたのである。ちょうどコロナウイルスが猛威を振るい始め社会活動が大幅に減速しはじめた時期だった。就活サイトに登録して就職活動をするより、「これまで出会った経営者に直接電話したほうが早い」と考えていた高場さんだけに、十分魅力的な誘いだった。 

 

まずは「社内営業」に奔走 

 高場さんはまず、ここ数年の決算書に目を通し会社の原価構造を把握。新規事業の原価管理の方法をシミュレーションするとともに、需要の予測も立てた。知的財産まわりの実務もこなし、「くらしのドクター」で商標登録も取得。手作りのパワーポイントの資料を作成し住宅地へポスティングした。2000枚ほど配布し受注件数は5件程度。「照明を交換してほしい」「インターホンを修理してほしい」など。感触は良かったが、問題は社内の体制をいかに整備するかだった。なにせ入社1年目の新入社員が事業責任者である。職人気質の技術者スタッフにこれまでと異なる業務についてもらうのは一筋縄ではいかない。 

 「工場建設にともなう大規模な電気工事では、ひたすら荷物を運び続ける、ひたすらコンセントをつけ続けるなど分業で仕事を進めます。そうした大口の現場とは異なり、小口の仕事を行うくらしのドクター事業では、一人でさまざまなタイプの工事を行う必要があります。いくら役員会で決定されたといっても、現場の技術者にとっては仕事のやり方がまるっきり変わることになり、『仕事はとってこないでいいから』『これ以上忙しくしないでほしい』と言われるなど、相当反発もありました」 

 こうした事情もあり、最初は社内営業に明け暮れた。各部署の連絡ボックスに新規事業をPRした手紙を入れ続けたり、社内で会った技術スタッフに誰かれ問わず「必要以上に絡んで」協力を求めたり、月1回の全体会議で毎回10分程度話す時間を割いてもらったり……。あらゆる手立てを尽くして思いを伝える努力を続けた。 

 懸命に頑張っている人を見ると必ず人の心は動くものである。次第に「いろいろな工事を体験でき技術力を高められそう」「楽しそう」という声があがるようになり、積極的に工事を担当してくれるスタッフが出始めたのでる。受注件数も順調に増え続け、同年8月には独立した部署も設立。専属スタッフも配備された。 

 

多彩なPR活動で知名度向上 

 軌道に乗りかけた新規事業をさらに盤石な体制にするため、高場さんは広告を打つことを検討した。しかし広告費用はそれなりの額になる。社長に相談したところ、意外な事実が判明した。 

 「広告を打ちたいので予算をくださいと頼みにいったら、『うちには予算なんてないよ』といわれびっくりしました。販管費をどのように戦略的に使うのか、設備投資はどんな計画なのか、社員への賞与を今年はこれくらい上げたいから売上高がいくら必要だとかという検討をしていなかったのです。それなら僕がくらしのドクター事業部の予算をまずつくりますと言って広告の件も了承を得ることができました」 

 こうして地元フリーペーパーへの掲載や折り込みチラシ、ウェブ広告などを展開。リフォーム事業者やハウスメーカーとのパイプがある不動産会社への飛び込み営業も行った。そうした活動が功を奏し、直近では月に約60件、売り上げにして平均約500〜600万円の工事を受注できるまでになった。 

 「当初は1億5000万円の計画を立てていたのですが、残念ながら下方修正し現在は1億円をみこんでいます。利益率は既存の大口工事よりもいいのですが、月間成績が頭打ちになってきているので、さらに右肩上がりになるような打開策を検討しています」 

 今後は地元放送局でのテレビCMなどでさらに認知度向上に努める予定。5年後には事業単体で売上高5億5000万円突破を目指しているという。                

 

COMPANY DATA 

九州電設株式会社 

設 立 1976年 

所在地 熊本県熊本市東区石原三丁目6番13号 

売上高 約19億円 

社員数 108名