お城の解説本や小説はもちろん、漫画から映画まで、お城に関連するメディアを幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回は岩明均による、大名家の家中対立を描いた漫画『雪の峠』を紹介します。手に汗握る政争劇であると同時に、築城の最初期の段階を丁寧に描いた傑作です。

『寄生獣』の巨匠が描く、新城の地選を巡る世代対立
世代間の価値観の相違、いわゆるジェネレーション・ギャップは、往々にして、若者と老人の激しい争いを引き起こす。漫画『雪の峠』(『雪の峠・剣の舞』収録)は、そんな新世代と旧世代の衝突を、出羽佐竹氏の新城普請に絡めて描いた物語だ。作者はSF漫画の金字塔『寄生獣』で知られる岩明均。SF漫画の印象が強い岩明氏だが、ライフワークとして古代ギリシャを舞台にした長編『ヒストリエ』を2003年から連載している他、武田氏の没落を描いた『レイリ』の原作を担当するなど、洋の東西を問わない、歴史に造詣の深い漫画家でもあるのだ。

物語は慶長7年(1602)の出羽国(秋田県)から始まる。関ヶ原の戦いで西軍寄りの態度をとり、常陸国(茨城県)五十三万石から二十万石のこの地に転封された佐竹家の家中は、当主・義宣(よしのぶ)に見出された若手たちと、先代・義重(よししげ)を後ろ盾とする老臣たちの2派に分裂していた。そんな折、この新領地の国府(築城候補地)を決定する合議(地選)が開かれる。義宣派の若手筆頭である主人公・渋江内膳(しぶえないぜん)は、海上交易の拠点となる土崎湊に近い窪田(秋田市)を候補地として推挙するが、当然のごとく老臣たちはこれに反発。彼らは家中随一の軍略家・梶原美濃守(かじわらみののかみ)をリーダーに祭り上げ、城は軍事拠点という従来の視点から、内陸部の古城・金沢城(横手市)を増改築し、周囲三里(約11km)に及ぶ惣構を築くべし、と進言させる。そんな城を建てれば、謀反の疑いをかけられ、佐竹家は潰されてしまう。内膳は、この暴挙を止めようと奮闘する…というのが、本作のおおまかなストーリーである。