お城の解説本や小説はもちろん、マンガから映画まで、お城に関連するメディアを幅広くピックアップする「お城ライブラリー」。今回は忍城水攻めを描いた映画『のぼうの城』を紹介します。秀吉による備中高松城の水攻めは有名ですが、その陰に隠れてあまり知られていなかった、忍城水攻めの認知度を一気に上げた作品です。

壮大なスケールで忍城水攻めを再現した娯楽時代劇
映画界には、新人脚本家を対象とした脚本コンクールの城戸賞があるのをご存知だろうか。これまでに多くの受賞作が映像化されている歴史のある賞で、近年では『超高速!  参勤交代』のヒットが記憶に新しい。そんな城戸賞を2003年(第29回)に受賞した作品が、和田竜による脚本『忍ぶの城』である。映画『のぼうの城』は『忍ぶの城』の映像化作品で、タイトルは脚本をノベライズ化してベストセラーとなった『のぼうの城』からとられている。

映画『のぼうの城』は、江戸時代に関東七名城の一つに数えられた「忍城」(埼玉県)を舞台とした時代劇である。豊臣秀吉の小田原攻めにおいて石田三成が行った水攻めに耐え抜いた忍城は、本城である小田原城(神奈川県)が落城したのちまで持ちこたえた唯一の城でもある。また、「日本三大水攻め」と呼ばれる水攻めを受けた城(ほかに備中高松城(岡山県)、紀伊太田城(和歌山県)がある)の中で、落城しなかったのは忍城のみである。

この映画では、忍城が水攻めを受けても落城しなかったその大きな理由を、城代・成田長親の人間性において描いている。領民から「のぼう様」(でくのぼうの意)と呼ばれ親しまれている長親は、戦下手で武将として特に優れたところもなかったが、天真爛漫な人柄で周りの人びとを魅了する不思議な人物だ。領民が領主の一族を「でくのぼう」呼ばわりするなどとんでもないことだが、なぜかそれを許してしまう空気を纏っている。そんな浮き世離れしている人物を演じるのは、狂言師・野村萬斎。内面からにじみでる“柔”と“剛”を併せ持ち、独特な存在感を放つ俳優だ。